第6話 VSオーク・クイーン
空から降ってきたぶっとい雷は――クイーンに当たる前に消散してしまった。『なんでだ?』って考えている暇はない。今度は向こうからデカい火の玉が飛んできた。僕は無地のカードを掲げて、これを迎え撃つ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
名 称:ファイア・ボール
タイプ:魔法【精霊魔法(火)】
属 性:火
ランク:3
コスト:4
効 果:ファイア・ボール(対象:パーティ1つ)
・対象に【火炎:2D】ダメージを与える。
レアリティ:SR
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「やるじゃないのさ」
コイツ、初手からパーティ焼いてきやがった。こんなの防げるのって、僕と一之瀬くんしかいなくない?
連打してくんなよって睨みつけてやったら、あっちも戸惑っている模様。打ち消されるとは思ってなかった感じか。
――そうか、打ち消しか。
僕だって魔法の効果を打ち消すアイテムこと『封魔の結晶』のカードは持っている。レアリティはRだったから、それほど貴重なアイテムってわけでもないんだ。あっちが持っていても不思議じゃない。ミスった、初手からデカい札を失ってしまった。嘆く暇もなく親衛隊が列をなして突っ込んでくる。
ああ、もう!
「篁さん、王さん」
「雑魚は任せろ!」
「一匹も通さないんだから!」
『エンチャント・ウェポン』と『プロテクション』、ふたつの古代魔法のカードを使って強化したふたりが前に出て、親衛隊と衝突した。吹っ飛んだのは――親衛隊の方だ。
うちの前衛つよい。
――あれ……親衛隊、まだ生きてる?
親衛隊の能力は覚えている。
今の篁さんたちなら、一撃で勝ててもよさそうなものなのに。
ハイオークのクイーンがいるから連中が強化されているのはわかるけど、プリムプラムと戦ったときより強いのはおかしくないか。クイーンにはバフ能力はないよね?
「【カリスマ】か」
柊さんの指摘でハッとした。
あっちのクイーンは【カリスマ】レベルが3になっている。今まで見た中では一番スキルレベルが高い。単純に【カリスマ】による強化倍率が上がっているのかもしれないし、最上さんの【号令】みたいな派生スキルが生えてきていてもおかしくない。
それでも、こっちのふたりも負けてない。数で劣るところを互角以上に戦っているのだから、僕の仲間たちはやっぱり頼りになる!
「負けてられないな……これでも食らえッ!」
掲げた手から、漆黒の炎がクイーンに飛びかかる。小森くんを煽ててゲットした【暗黒魔法】だ。わざわざモンスターが使う魔法に立ち向かわなくても、スキルを持っている仲間に使ってもらえば魔法カードは手に入るのだ。たぶんこっちが本来の使い方。
なお、炎はかき消された。
――またかよ!?
打ち消しアイテム、いくつ持ってるんだ?
いや、装備品の特殊能力なのか? 違うな、装備品は鑑定結果に表示されてなかった。
プリムプラムに聞いたらわかるかもしれないけど……あんまり親殺しはさせたくないって言うか。彼女の実の親じゃないにしてもさ。もともとは敵対していたモンスターなのに……ほだされているな、僕。
「へこたれてる場合じゃないよ。ほら、どんどん撃って」
肩に乗せられた手のひら越しに柊さんの体温が伝わってくる。元気出るよ!
素っ気ないことが多い彼女は、実はとても心優しい人だと思う。
「あ、柊ズルいぞ!」
「先輩、そういうところある!」
「うるさい! 前向いて戦え、バカ!」
今のやり取り、何?
そう聞こうとしたら頬をつねられた。
わからねぇ……誰か相談に乗ってくれないかなぁ?
次はさっきクイーンから奪った『ファイア・ボール』だ。これもダメだった。
「桧川、ショボい魔法使ってみて」
「ショボい魔法? なんで?」
「向こうの反応が見たい」
「了解。『エナジー・ボルト』だ!」
最初にゲットした魔法こと『エナジー・ボルト』は――クイーンにヒットした。たいしてダメージはなさそうだけど……あれ、当たった?
なんで打ち消さない?
柊さんは双眼鏡をクイーンに向けたままだ。
「次、ちょっと強めで」
「は~い」
今度は打ち消された。
柊さんの指示で強い→弱い→強い→弱い→弱い……
こうして見ると、クイーンは強い魔法だけを狙って打ち消しているのがハッキリわかる。
「たぶん回数に制限があるね、あの打ち消し」
「そうなの?」
「うん、魔法を食らうたびにクイーンは顔をしかめてる。無理してるよ、アレは」
「単にイラついているって可能性はどうでしょう?」
「クイーンだよ。王族だよ。あっちは本来守られる立場だってこと忘れてない?」
「なるほど。そんなクイーンが無理して魔法を打ち消さない選択肢を選ぶってことは……ショボい魔法まで打ち消してたら本命を止められなくなるってことか」
納得しました。
『エナジー・ボルト』『フレイム・アロー』『アクア・ショット』『ダーク・ショット』などなど、ショボい魔法カードを連発だ。一撃ごとのダメージは軽くとも、塵も積もれば山となるってね。
色とりどりの魔法が空を駆けてクイーンに殺到する。
奴の周囲を守っていた親衛隊が魔石を残してドンドン消えていく。やりおる、さすが肉盾の本場。
肉盾で処理しきれなかった魔法を歯を食いしばって耐えていたクイーンだったが……今度はあっちも『フレイム・アロー』を連打し始めた。こっちにダメージを与えて魔法を使わせないつもりか。それとも僕らを削り殺すつもりか。
「怯むな、桧川」
前衛を挟んで魔法の打ち合いになった。
ため込んでいた魔法カードが見る見るうちに灰色に変わっていく。
――でも、大丈夫なんだな!
「【リユース】!」
灰色に変化したカードを掲げてその単語を口にすると、カードが元どおりの色彩を取り戻した。代わりに僕の身体から力が抜けていく。眩暈もヤバい!
「くっ……」
まとめて一気に【リユース】したら意識が飛びかけた。
よくよく考えてみると、僕は自分のMPを消費して戦うのってほとんど初めてだ。今まで舞坂さんとかに『MP管理気を付けて』ってアドバイスしたことあるけど、僕だって人のことは言えない。
それにしても――クイーンの攻撃が止まらない。
「真似すんな、ズルいぞ!」
「向こうも命がかかってるからね。MPが尽きるまで打ちまくるでしょ」
「ま、僕はMP消費しても問題ないワケですが」
「傷薬もポーションも準備してあるから、ガンガン行きなよ」
さすが柊さん。さすひー。
魔法の応酬が続けば続くほど、あっちはダメージを負うしMPも減るしで踏んだり蹴ったりのはずだ。プリムプラム曰く、クイーンが治癒魔法を使っているところは見たことないとのこと。さぞかしダメージは辛かろう。
ちなみに僕もダメージを負っている。ステータスの魔法力の値って、どうも魔法攻撃力と魔法防御力をまとめて表示してるみたいなんだ。この値が高い僕は、魔法にも高い耐性があるってこと。柊さんも同じぐらいの値だけど、彼女を盾にするつもりはない。
当たり前でしょ、僕は男なんだから。
「桧川、来たよ!」
「その魔法はいただき!」
業を煮やしたクイーンが放った2発目の『ファイア・ボール』をゲット。SRカードありがとうございます。前衛同士の戦いは篁さんたちが優位を取りつつある。彼女たちがクイーンと距離を詰められたら、こちらの勝ちだ。アイツは魔法使いであって戦士じゃない。
「あ、追加来た」
キング周辺を固めていたと思しき親衛隊が追加された。あっちもしぶとい!
ま、まぁ……キング周辺のオークを潰すのも僕らの目的のひとつですし、とことん付き合ってやるよ、我慢比べにさぁ!




