第4話 はぁ、その発想が抜けてたよ……
「ハズレスキル……って、なに?」
椎名さんの声には困惑があった。
僕たちは今、体育館の2階に集まっている。時刻は夜。頼りない明かりに照らされた、薄暗い部屋。その日にあったことや問題、あるいは提案なんかを、こうして毎晩話し合うことにしているんだ。
呼称は――生徒会。
参加者は、元から生徒会だった3人に一之瀬くん、護道くん、椎名さん、最上さん、僕、そして教師の3人で合計11人。言ってみれば有力者会議みたいなものかな。
僕は今日レベルアップを手伝った舞坂さんたちから聞き取ったことを報告していた。
すなわち『なんでレベル0の人たちはレベルを上げようとしないのか問題』だ。毎朝の朝礼で会長が声を張り上げてレベルアップをお願いしているのに、これまで全然成果がなかった。何か僕たちに見落としがあるんじゃないかって話はすでに出ていて、ちょうどいいところに舞坂さんたちが声をかけてくれた。レベル0側の意見を聞いてみたかったんだ。
これまで何度か尋ねてはいたものの、明確な答えが返ってこなかったんだよね。彼らとはどうにも距離を感じていたから、舞坂さんたちが声をかけてくれたのは渡りに舟だったよ。
「ハズレスキルってのは……要するに、ショボくて役に立たないスキルのこと。レベルを上げてハズレスキルしか持ってないことが判明しちゃったら、みんなに足手まといとか邪魔とか思われて、最悪この避難所から追い出されるんじゃないかってビクビクしてるんだってさ」
もちろん、モンスターとの戦いを恐れる部分もある。
でも、それ以上に自分たちが役立たずであることが判明してしまって排除されることを恐れている。レベルを上げさえしなければスキルは不明のままだ。当たりの可能性もハズレの可能性も両方が存在し、そして確定しない。シュレーディンガーの猫的な考え方だ。
ぐるりとメンバーを見まわしてみると――誰も何も言わない。沈黙の仕方は、人それぞれだけどね。
――ここに柊さんか矢守さんがいたらなぁ。小森くんでも可。
僕が気づくべきだったかもしれない。
ハズレスキルを持っている主人公が追放された後で大活躍して、追放した側がフルボッコされる展開はウェブ小説ではよくある。
頭の中にある知識と現実が上手く整合してなかった。いったい何のために時間を割いてその手の小説を読み漁っていたのやら。いや、こんなことになるとは思ってなかったけどさ。
「……そんなこと、考えもしなかったな」
一之瀬くんが、ため息をつく。
そりゃそうだ。ここにいるメンツのほとんどは初日にレベルを上げた。正確には生き残るためにモンスターと戦ったらレベルが上がっただけだ。そうしたらスキルが手に入ったから、それを活用してさらに戦って、レベルを上げて、また戦って……を繰り返してきた。スキルの当たりハズレなんて気にしている余裕はなかった。
「先生たちは、何も相談とかされてなかったんですか?」
最上さんの問いは丁寧語ではあったが不穏な響きを帯びていた。上級生に囲まれているせいか、普段は控えめな彼女が非難をあらわにするのは相当なことだ。
すでに述べたとおり、この生徒会には教師が3人参加している。古典の古宮、数学の韮澤、養護の薬師寺。彼らはレベル0のままだ。有力者会議としての性質を考慮するならば、この場にいることはおかしい。
でも、彼らは自分たちのことを『生徒たちの代表』と称している。
レベル1以上に上がっている人数は実はあまり多くない、って言うか少ない。
全部で確か20人ぐらいしかいない。体育館に避難している人数は、合計で120人近い。ほとんどがレベル0のままなんだ。
教師たちは、生徒たちって言うか、その100人近いレベル0の代表者として、僕たちが彼らを蔑ろにしないための監視者としてここにいる。
――監視なんてされる謂れはないよ。
レベル0たちを無視はできないことは確かだ。
だから会長は教師たちに席を用意した。
――はぁ、ハッキリ言って邪魔だ。
生き残りにレベルを上げるよう、もっと強めに仕向けようって話が持ち上がったことはあるけど『全員の命にかかわることだから、全員で多数決を』なんて言ってくるんだ。
この状況でそんな多数決をやったら否決されるに決まってるでしょ。
そして、僕たちに非難が集中するだろうね。
『オレたち殺す気か』って。
――お前らが戦わない分、僕らが戦ってるんだけどねぇ。
別にレベル0たちのために戦っているわけじゃない。そこまで恩着せがましいことを言うつもりもない。だからって、納得しているわけでもない。
――自分の力で誰かを助けられるなら。
そう思ったことはある。
でも、それだけじゃないって最近わかってきた。何事にも限界がある。優先順位の問題もある。僕を信じてついてきてくれるパーティのみんな、日ごろから連携している他のチーム、舞坂さんたちのように自分の脚で立ち上がろうとする人たち。
何もせずに備蓄を消費しているだけの連中を彼らと同じように扱えってのは無理な話だ。
「先生、どうでしょう?」
会長が最上さんの問いを引き取った。
問いを向けられた教師たちは……下を向いて視線を合わそうとしない。
お前ら、僕らが授業中にそんな態度を見せたらボロカスに責め立ててくれてたよな?
何とか言ってみろよ!
――あ~、やめやめ。この思考はマズい。
頭を横に振って、ふーっとため息をひとつ。
攻撃的な感情を避難所の中で爆発させるのは良くない。僕はクラス転移とかゾンビもので人間同士が争う展開は嫌いなんだ。『そんな悠長なことやってる場合か!』って呆れたことは一度や二度じゃない。
もっと建設的に行こう。建設的にね。
「ハズレスキルはあるかもしれない。でも、僕のカードである程度は後付けできる。その辺を会長からみんなに説明してもらっていいですか?」
「もう何度も言っているんですが……」
会長の声に力がない。
会長は、最近は僕と行動を共にしている。『ビビッド・サマー』で【精霊魔法(水)】を習得するためだ。彼女はサバイバル環境下における超重要なネット通販スキル【AMAZ〇NES】を有する反面、戦闘に関するスキルがない。足手まといなことを、かなり気にしている。
同じタイミングで『銘刀スイカ割り』を手にした馬場くん(護道くんのチームの【騎乗】スキル持ち)は無事に【剣術】を習得して本来のチームに戻っていった。メチャクチャ感謝されたよ。
対して会長はいまだにスキルを習得できていない。
ただでさえ『どうして自分はダメなのだろう?』って凹んでるし、自分ができてないスキルの後付けを他の生徒たちに強制しづらいんだろうな。
「……今日のところは情報共有だけで十分だろう。舞坂から得られた情報をもとにどのようにアプローチするかは、改めて考えよう」
飛田副会長の言葉で会議は締めくくられた。
問題を先送りしているだけだよ、それじゃ……何かいい手がないかなぁ。




