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終末の鐘が鳴り響く、この空のもとで ~ゲームみたいになった世界で、僕はカードを手に無双……無双は出来てないな?~  作者: 鈴木えんぺら
第1部第4章

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第2話 舞坂 麻衣 その2

「え、レベルを上げるの?」


 夕食どきを狙って、桧川さんに声をかけました。

 お食事の邪魔をしてしまうことは申し訳なく思うのですが、この人たちはだいたい朝早くから学園内を駆け回っているそうで、日が暮れるギリギリまで戻ってこられません。必然的に話しかけるタイミングが限定されるのです。


(こうして見ると……普通の方ですわね)


 一之瀬さんのように見た目が優れているわけでもなし、護道さんのように恐ろしくもありません。円城先輩のようにカリスマ性を感じることもございません。

 でも、根暗なガリ勉という噂とも一致しません。

 ……まぁ、あまりアレコレ言うものではありませんわね。


「はい、それで桧川さんたちにご協力いただけないかと」


「いいよ。じゃ、行こうか」


「はい?」


 即答して、すっと立ち上がる桧川さん。

 隣に腰を下ろしていた篁さんとボブカットの女性(なぜかアラビアンな格好をされています。とてもおきれいな方です)も、すぐに腰を上げられました。


「あの……これから、今すぐですか?」


 あら? 想定していた問答と全然違う展開になっていますわ? 

 もっとこう、条件とかを詰めたりはしないのでしょうか?

 準備とか、そう、心の準備とか。何かありませんの?


「うん。まだ明るいし、『善は急げ』って言うしね」


「『善は急げ』ですか。よいお言葉ですね」


「柊と王はどうするんだ?」


「柊さんはポーション作るって言ってたし、王さんは最上さんと話があるみたいだし、僕らだけで良くない?」


「そうだな。さっさと済ませてしまうか」


「では、さっそく参りましょう」


 あら?

 あらら?

 トントン拍子に話が進んで……スピード感についていけませんわ。


「早くしないと置いていくよ~」


「お、お待ちになってくださいな!」


 わたくしたちが行かなければ、意味がありませんわ!

 

・

・

・


「じゃあ、釣ってくる」


 そう言って篁さんが走り去っていきました。

 残った桧川さんは、わたくしに槍を差し出してきます。

 武器、です。夕日を反射する穂先の鋭さに、思わず息を呑んでしまいました。


「それで、どっちからレベルを上げるの?」


「もちろん……」


「わたくしからですわ」


「守屋くん、なにか言いかけてなかった?」


「お嬢さま?」


「斗真、わたくしはあなたの何ですか?」


「主です」


「……はぁ、そうですわね」


 その即答、胸に刺さります。

 ロマンティックな言葉を期待した私がハレンチなのでしょうか?


「ふたりの世界に入るのは後にしてね。早く決めないと篁さんが帰ってきちゃうよ」


「あらあら。お熱いことですのね」


「な……ひ、桧川さん!?」


「桧川くん、僕から行く」


「ま、そうなるよね。それじゃ、これ」


「ああ」


 動転しているうちに、斗真が槍を受け取ってしまいましたわ!

 心なしか、見慣れた斗真の顔が緊張で強張っています。

 こんなとき、わたくし、何と言葉をかければよろしいのかしら?


「無理しないでいいよ。失敗しても、篁さんにまた釣ってきてもらえばいいし」


「大丈夫、問題ない」


「そう? ほら、来たよ」


 桧川さんの軽い声。

 斗真の身体に震えが奔りました。

 槍をギュッと握りしめ、ゴクリと喉を鳴らす音が聞こえてきます。


「頑張って、斗真」


「……お嬢さま、もったいないお言葉です」


 戻ってきた篁さんは、追いかけてきたゴブリンの両手両足をぶった切りました。まさしく目にも止まらぬ早業ですわ!

 斗真の目の前に、身動きが取れなくなったゴブリンが横たわります。

 あら?

 こんなにアッサリですの!?

 何とも表現し難い視線を向けた斗真に、篁さんは素っ気なく言い放ちました。


「はやくやれ。出血多量でゴブリンが死んでしまう」


「あ、ああ……」


 斗真は槍を構えて、呼吸を止めて――表情をキッと引き締めました。

 気迫のこもった声とともに穂先を突き立てると、ゴブリンは消えて、小さな石がコロコロと転がります。

 

「や、やりました!」


「槍だけにな」


「……」


 なにか仰いました、篁さん?

 わたくしのイメージよりも、かなり面白い感じの方なのかしら?


「……おめでとう。『ステータスオープン』って言ってみて」


「わかったよ。えっと『ステータスオープン』って……ホントに出た」


「どんなスキルだったか、教えてくれるかな?」


「スキルは【格闘術】と【射撃】だ」


 斗真が応えると、桧川さんは篁さんと顔を見合わせました。アラビアンな方はキョトンとされていますが……わたくしの心臓は早鐘のごとくドキドキうるさく鳴り響き、口の中はカラカラになってしまっています。

 こ、これはヤバいですわ!?


「な、何か問題がございまして?」


 ひょっとしたらとは思っておりましたが……問題大ありです。

 はぐらかしたいのに声が勝手に裏返ってしまいました。


「……弓道部でもアーチェリー部でもない高校生が、なんで【射撃】スキル?」


「お嬢さまを守るためだ」


「うん、まぁ、いいけどね」


 残弾は何発?

 桧川さんが尋ねると、斗真はわたくしに視線で問いかけてきます。素直に答えるべきか否かを。


(か、完全にバレてますわ)


 誤魔化せる状況ではありませんわね。

 わたくしが首を縦に振ると、斗真は隠し持っていた拳銃を見せました。

 協力していただいている以上は、誠意を欠くような真似は避けるべきだと思いますし。ですが……


「残弾は7発だ」


「7発かぁ……」


 唸る桧川さんからは、斗真が拳銃を所持していたことに対する非難めいた感情が感じられません。彼はわたくしを守るために日常的に銃を持たされていたのです。決して彼のせいではないのです。もしも桧川さんたちが斗真にゴチャゴチャ仰ることがあろうとも、わたくし、そこは声を大にして主張していく所存でしたのですが、この反応の薄さと来たら……いったい何を考えておられるのでしょう?

 わかりません。

 不安を感じずにはいられません。

 こちらが予想していた反応をお見せにならないことが、とても恐ろしく思えます。


「なぁ、桧川……私に何か言うことないか?」


「面白かったよ、篁さん」


「槍だけに、やり……うふふ」


「……行ってくる」


 篁さんは、ぷく~っと頬を膨らませて再び走り去っていかれました。

 おふたりとも厳しくありません?

 もう少し優しく褒めて差し上げた方がよかったのではないかしら?

 斗真はしばらく何もない空中をじっと見つめておりましたが(ステータスウィンドウというものが見えるそうですわね)、拳銃をホルスターに戻してわたくしの顔を見つめてきます。


「お嬢さま、僕が絶対に守りますから」


「……心配無用ですわ」


 強がる声に力が入りません。

 モンスターと戦うと言い出したのは私なのに、情けないこと。

 相手がモンスターでも、命を奪うことに抵抗があることを否定できないのです。

 チラリと桧川さんたちの様子を窺いましたが、おふたりともこちらを振り向きもしません。この方たちにとって、モンスターとの戦いはすでに日常の一部と化しているのでしょう。


「戻ってきた」


 身体が硬直してしまいました。

 槍を握る手が震えます。さっきの斗真より、ずっと酷い。

 そっと、手に触れるものがありました。斗真が手を添えてくれたのです。


「僕がいます。何があっても、絶対に」


「ええ、ええ……」


 まなじりに熱いものが込み上げてきました。

 意気地のないわたくしには、本当にもったいないほど素晴らしい……その、アレです。

 わたくしたちが見つめあって決意を固めているうちに篁さんが戻ってきて……今、目の前に再びゴブリンが寝転がっています。

 あまりにあっけない。この方たち、情緒が、ちょっと……


「お嬢さま!」


「ええ!」


 ゴブリンと目が合いました。

 憎たらしくも哀れっぽい顔にカチンと来ました!

 わたくしたちの仲間を酷い目に遭わせておいて、自分の番になったからと言って!


「ハアッ!」


 わたくしは、思い切って槍を振りかぶりました。

 斗真の前で、これ以上情けない姿を見せてはいられませんもの!

 そして――気が付いたら目の前からゴブリンは消えていました。斗真が倒したときと同じように、黒い石が転がっています。


「おめでとう」


「はぁ、はぁ……」


「おめでとうございます、お嬢さま!」


 命を奪いました。

 後悔なんて、これっぽっちもありません。

 でも……身体が震えて止まりません。ガチガチ奥歯がうるさいです。


「わ、わたくし……わたくしは……」


 寄り添ってくれた斗真に、思わず抱きついてしまいました。

 狼狽する彼の胸に顔を埋めると……いつもと同じ、わたくしの大好きな匂いが優しく包み込んでくれました。安堵で涙も零れてしまいましたが、許してくださいね、斗真。

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