第3話 モンスターと戦ってみた!(本日2回目)
「これでも食らえッ!」
右手の消火器でゴブリンを思いっきりぶん殴ってやった。
壁まで吹っ飛んだゴブリンは首が変な方向に折れていて、ほどなくして光の粒子と化して僕のカードに収まった。
カランと、硬い音が廊下に響く。
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名 称:ゴブリン・ソードマン
タイプ:ユニット
種 族:ゴブリン
属 性:闇
レベル:-
ランク:1
コスト:1
攻撃力:1
防御力:1
魔法力:0
スキル:【剣術】レベル1
特殊能力:なし
装備品:短剣
レアリティ:N
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カードをバインダーに収めると、肩に乗ったリュンクスが『んな~』と鳴いた。
攻撃力0なリュンクスのカードを引いたときには『終わった』と絶望したが、この白猫が想像よりもだいぶん強かった。
【気配察知】のおかげでモンスターから奇襲されない。
【気配遮断】のおかげで僕は一方的に奇襲できる。
トイレを出るなり肉球パンチを頬に食らった僕は、そっちを向いて――慌ててトイレに戻った。ゴブリンがいたからだ。リュンクスは気配を察知して知らせてくれたのだ。
そのゴブリンは、背後から忍び寄った僕に気が付かなかった。僕が急にニンジャ顔負けの隠密スキルを手にしたわけではない。これもリュンクスのおかげだ。
気配遮断の効果が僕にも及んでいたのは意外な気がしたものの……かわいくて役に立つ、この白猫は大当たりだ。
「……って言うか、僕も強くなってる?」
最初にゴブリンを倒したときは両手で消火器を抱えて何度も何度も殴りつけたけど、今は片手に持った消火器で一撃だ。
『ふ、攻撃力1か……カスめ(僕です)』って泣きたくなったけど、レベルアップ前すなわちレベル0の状態よりは、ずっと強くなっているらしい。
攻撃力1ってことはゴブリンと同じくらいなので、奇襲できる分だけ有利ってことかもしれない。数値をどこまで信じていいのかわからないし、奇襲に失敗して攻撃されたらヤバい気もしている。
でも、まぁ……
「結構普通に戦えてるよな?」
答えはない。
廊下に人の気配はない。
僕がいるのは第2校舎の3階だ。
先ほどのパニックめいた喧騒がウソのように静まり返っている。
静かになったとは言え、落ち着きを取り戻しているわけじゃない。嵐の前の静けさってのとも、ちょっと違う。
――普通、か?
1匹目のゴブリンはともかく2匹目は自分の意志で命を奪っている。僕はそんなことができる人間だっただろうか?
「……できないよりは、ずっといいよ」
躊躇いは死。
心の中で、そう言い聞かせる。
自分の命とモンスターの命、どっちが大切かなんて考えるまでもない。
キキ―――――ッ! ドン!
耳障りな音に重い音が続いた。
外だ。窓に駆け寄って身を乗り出すと……とんでもないものを見てしまった。
「うわ……」
車が人を撥ね飛ばした。
人って言うか、生徒を撥ね飛ばしていた。
撥ね飛ばされた生徒はピクピクと藻掻いていたけれど、そこにゴブリンがたかってきて……あとは凄惨なグロ展開。もちろんモザイクなんてない。
生徒の悲鳴は、あっという間に聞こえなくなった。
「うぷっ」
吐きかけて、堪えた。
吐いちゃダメだ、吐いちゃダメだ、吐いちゃダメだ。
ここは学園の高等部だから、車に乗っているのは大人……それも駐車場で何度も見た覚えがある車だった。
教師だ。
教師が、生徒を撥ね飛ばした。
ゾワリと悪寒が足元から込み上げてくる。
「ワザとか? 逃げるためだからって、生徒を……」
事故であってほしい。
そう願っている僕は、その実、そうじゃないって思っている。
「……」
視線を彼方――街の方に向けると、幾筋もの黒い煙が上がっていた。
ここ『私立陽明学園』は街から少し離れた小高い一帯に存在している。しかも、僕は第2校舎の3階にいたから、かなり遠くまでよく見えるのだ。
僕のまわりは静かになったけれど、外も街もパニックが収まる気配はない。さっきからスマホをチェックしているけれど、インターネットも通話も全部ダメ。
終末。
崩壊世界。
世界最期の日。
人類終了待ったなし。
不吉な言葉が次々と脳裏をよぎる。
「なんか見覚えあるなって……これ、まるでゾンビものの映画みたいじゃないか」
そう呻いて、すぐに『違う、そうじゃない』って頭を振った。
これは現実……かどうかは実はまだちょっと疑わしいって思っているけれど、その手の映画とは大きく異なっている部分があることは認識できている。
そう、レベルアップだ。
ステータスもあるし、スキルだってある。
映画ではゾンビと戦ってもレベルは上がらない。他に方法がないから、仕方なく戦うだけだ。戦っても消耗するだけなのに、戦わざるを得ないのだ。
――僕は違う。
モンスターと戦ってレベルを上げることができる。カードをゲットすることもできる。
すると、どうなる?
強くなれる。
「ゾンビものじゃない、RPGなんだ」
【万象の書】の説明テキストを読んだときにも思った。
戦え、戦って強くなれって。どこかの誰か、世界をこんな風にしたやつに言われている気がした。モンスターが出現したのは学園の敷地内だけじゃない。日本中、もしかしたら世界中かもしれない。逃げ場なんてない。戦ってレベルを上げて強くなって、自分の居場所は自分で勝ち取らなければならない。
僕にはその力がある……と思う。たぶん。
「……はぁ、やめやめ。遠くばっかり見てると足元が疎かになるよ」
気が滅入る外の光景から廊下に視線を戻す。
足元には黒い石(たぶん魔石)とゴブリンが持っていた短剣が転がっていた。魔石をバインダーに収納して短剣を拾い上げる。
重い。
そう思った。
「これは……」
短剣と言ってもカッターナイフや包丁なんかとは比較にならない大振りの刃だ。こんなもの、平和だった令和の日本で目にしたことはない。警察に見つかったら即座に銃刀法違反でしょっ引かれるに違いない。バカバカしい。警察なんて、もう気にする必要ないじゃないか。警察よりもモンスターだよ、モンスター。
「消火器よりも使い勝手は良さそうだ。ドロップアイテムってことでいいんだよね」
短剣は右手で持つことにした。
たかが短剣、されど短剣。
最初は重さにビビってたくせに、今はその重さが心強い。我ながら現金だな。
……とは言え、カードを使うときには邪魔になる。いつでもそこらに放り投げられるように意識しておこう。
――さて、どうするかな。
今のところ、新しいカードを起動する必要性を感じない。
一度使ったカードを再び使うにはクールタイムが必要だし、コストに余裕を持たせておかないと、いざと言うときにカードが使えなくて詰むかもしれない。起動しているカードを戻す時間が惜しい状況は十分に想定しうる。
カードを使わないことも大切な選択肢だ。
「いや、待てよ。これも、行けるのか?」
短剣を床に置いてカードを掲げると――光とともに短剣はカードに収まった。
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名 称:短剣
タイプ:アイテム(装備品)
コスト:1
攻撃力:1
防御力:0
魔法力:0
スキル:なし
特殊能力:なし
レアリティ:N
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「おお」
これは便利だ。
たくさんの荷物を持ち歩けるってのは、サバイバルな状況では強烈なアドバンテージになり得る。
僕の【万象の書】、強すぎか?
「それじゃ、たんけ……あれ?」
短剣を起動しようとして、ストップ。
ここでこのカードを起動したら、コストがかかるんじゃないか?
――何でもかんでもカードにすればいいってもんじゃないな。
僕の【万象の書】、意外と不便だな?
思わずため息。いつの間にか肩から降りて前を歩いていたリュンクスが振り向いて、首を傾げている。
「……次行ってみよう、次」




