第8話 次から次へと……
その後の戦闘は、つつがなく終了した。
にわかに賑やかになったパーティの戦力はもはや過剰と言っても差し支えなく、そんじょそこらの雑魚なんて相手にならなかった。
「タクローさま!」
「よし!」
地形カードを破棄状態に変更すると――プリムプラムの身体から光が溢れ、僕のまわりに透明な球体が出現した。全属性のマナだ。1ターン(約30分)経過したら消えてしまう上に使い捨てとはいえ、すべての属性のコストとして利用できる。これは便利。
続いて使ったのは新しく引いた攻撃魔法カード。
コストの問題で今まで使用を控えていた一撃は、あっけなくホブゴブリンを葬り去った。オークよりもさらに大きな身体が消えて、ボロボロの車がいくつも横たわる寂れた駐車場に大粒の黒い魔石が転がった。
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名 称:ホブゴブリン
タイプ:ユニット
種 族:ゴブリン
属 性:闇
レベル:―
ランク:4
コスト:4
攻撃力:3
防御力:4
魔法力:1
スキル:【打撃】レベル1
特殊能力:なし
装備品:なし
レアリティ:C
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「いかがですか?」
「コストに余裕ができるのは、ありがたいね」
破棄するカードのうち1枚が地形カードだったら条件を満たせるってことは、ゴブリンみたいなあんまり使わないカードを集めることにも意味が出てくるわけだ。
胸を張るプリムプラムの横では、篁さんは頬を膨らませていた。
「私の出番がなかったんだが」
「確かにねぇ……そろそろ学校の外に出るタイミングかな」
「桧川は新しいモンスターとエンカウントしないのが退屈なんだね」
「そんなこと、ひと言も言ってないんだけど」
「じゃあ、満足してるの?」
「……そんなことも、ひと言も言ってないんだよなぁ」
みんな、僕のことよくわかってくれてるよ。近いうちに提案してみよう。もっとも、今すぐにってわけじゃない。学園の敷地内を全部チェックできているわけでもないしね。さすがにまだ外に出るのは時期尚早だ。
体育館に戻ったら案の定大騒ぎになった。篁さんとプリムプラムが目の毒過ぎるんだ。
「桧川、あんたのスキルどうなってるの……」
「俺たちが汗水たらして働いている間に、お前って奴は……」
「見損ないました、桧川さんのファン辞めます」
なんで僕が非難される流れになるのさ!?
少なくとも篁さんは自分の意思で水着を着たんだよ……って言葉は飲み込んだ。
それを口にすると話がややこしくなりそうだからね。僕がスケベってことで話がまとまるなら、それでいいよ。
――眼福であることは否定できないし。
プリムプラムについては、みんな揃って諦めの表情を浮かべていた。『桧川だから』で雑にスルーされるの、ちょっと解せない。
「要するに人違いってことか」
「魔王(笑)」
おまけに魔王の件までアッサリ流された。危機感足りてなくない?
彼らとは違い劇的な反応を見せてくれた人もいる。
「ふたりとも、せめて服を着てください!」
さっすが会長、僕たちが言いにくかったことを(以下略
篁さんは素直に体操服を上に着たが、プリムプラムは拒絶一択だった。
『種族が違えば文化が違うってことで』と取りなしたが、街でいい感じの服を見つけたら着てもらうというラインを会長は譲らなかった。何なら『さっさと街で服を探してこい』って圧まで感じた。【AMAZ〇NES】で買おうとしたら、プリムプラムが納得してくれた服の値段が、まぁ、その……すごく高かったんだ。オークとはいえプリンセスだから目が肥えてるんだろう。
「色々あったが、今日はなかなかいい感じだったな」
「昨日よりも、ずいぶん落ち着いたね」
「落ち……着いた?」
困惑しているのは一之瀬さんだけだった。
護道くんたちは食料をかき集めてきてくれた。自販機をぶっ壊してジュースを回収したと聞いた会長は、眉間に深い深いしわを寄せた。倫理観と現実のはざまで苦悩している模様。
マンガや楽器を回収する件を説明したら、みんな『盲点だった』と唸っていた。メンタルケアの重要性については無視できないということで一致を見た。
晩ごはんは炊き込みご飯。篁さん、大喜び。
そんなこんなで異変二日目を無事に乗り切った翌日、プリムプラムがカードに戻る寸前に新たな問題が発覚したのである。
「はぁ、タクローさまのもとを離れるなんて、寂しいです」
「次にカードを起動できるのは3日後か」
「そんなにかかるのですか?」
「バージョン違いで交互に使えばいいと思う。あと【リユース】も」
「……タクローさま?」
彼女を活用したい気持ちはある。
せっかくの最高レアをバインダーの肥やしにするのはもったいない。
プリムプラムは性格も悪くない。初対面はちょっとアレだったけど、仲間たちともあっという間に打ち解けた。篁さんに対してビビってるのは仕方ないって言うか許容範囲だ。
『でも、僕のものになりたいと極端すぎるって言うか』
『ちゃんと理由があるんです! 私はふしだらな女ではありません!』
彼女の事情も聞いた。
プリムプラムはオークという種族そのものに嫌悪感を抱いている。種族欄に記載されているとおり、ハイエルフの血が強く出ているから……ってだけじゃない。一番大きな理由は、遺伝子上の父親であるオーク・キングと子作りすることを求められていたからだ。
『血を分けた父と情を交わすなんて想像するだけでも鳥肌が立ちます。そもそもオークという種族は不潔で野蛮で愚鈍で粗野で……』
『……オーク嫌い過ぎてない?』
『では、タクローさまはオークをお好みですか?』
『使い捨てできる戦力って、便利だよ』
『桧川……』
『やっぱり魔王であってるんじゃ?』
柊さんの鋭いツッコミは置いておくとして、僕のものになりたいなんて言い出した経緯は納得がいった。エロい意味じゃなく、クソ親父の魔の手から避難したかったわけだ。万が一オーク・キングがこの世界にやってきても、僕のカードになっていれば顔を合わせずに済むしね。
『まぁ、そういうことなら』
プリムプラム個人については受け入れていいんじゃないかってことになった。特に女性陣は彼女の境遇に思うところがある模様。
昨日の戦闘でも特に違和感はなかったし、【カリスマ】の効果を受けることもできた。レベルアップもした。
『レベルが上がりました!』
『おめでとう。でも、そんなに喜ぶ感じなんだ?』
『それは、もう!』
ほとんどのモンスターにはレベルの概念がない。レベルアップ――劇的な強化があるのは、ごく少数のスペシャルな存在だけなんだってさ。
パーティメンバーとしては登録されていないけど、経験値はしっかり分散されている。僕的には彼女のレベルが上がってもコストが増えていない点に注目したいところ。
『はぁ、難しいよ』
『顔が緩んでるよ、桧川』
『おっと』
柊さんにジト目で指摘され、僕は慌てて表情筋を引き締めた。
ノーマルバージョンはオークかビーストを、水着バージョンは地形カードを多めに用意しないと真価を発揮できない。オークはたくさんゲットしてあるから、前者はどうにか活用できそうだけど、後者は地形カードをあんまり引いてないから時間がかかりそう。地形ばっかりでは戦えないと思って後回しにしていたツケが回ってきた。
――でもさ、にやけたって仕方なくない?
カードの使い方を考えるの、超楽しい!
誰か、この楽しさを分かち合える人いないかなぁ。
おっと、話が横に逸れてしまった。発覚した問題の話だったね。
「篁さん?」
『ビビッド・サマー』の起動時間は終了目前。
近場のモンスターを一掃して元の制服に着替えた篁さん。彼女の指先に……小さな水の球が浮いていた。水を生成する魔法『アクア・クリエイション』だと思う。
なんで?
見間違いじゃないかって、僕らは顔を見合わせて――篁さんを見た。
「水着がなくても魔法が使えるようになった」
「な、何だって――――――!?」




