第7話 0.003%の奇跡!?
【万象の書】から現れた虹色の光が弾けた!
あまりの眩さに僕は一瞬視力を失って……ぼやけていた視界が元に戻ると、もうもうと立ち上る煙の中に人影がひとつ。シルエットで女の子だとわかった。
ショートボブの黒髪と、漆黒の瞳。
辛うじてワンピースと表現できなくもない大胆な水着が真っ白な肌とナイスバディを際立たせていて、整った顔立ちをしていて……あれ、なんか見覚えがあるな?
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名 称:常夏のプリンセス・プリムプラム
タイプ:ユニット
種 族:ハイオーク/ハイエルフ
属 性:火
レベル:1
ランク:2
コスト:2
攻撃力:2
防御力:2
魔法力:2
スキル:【テイマー】レベル1
【カリスマ】レベル1
特殊能力:紅玉の王女のヴァカンス(対象:このユニットのプレイヤー)
・1ターンに1度しか使用できない。
対象は山札をX枚破棄する。Xは1~3の任意の数値。
破棄されたカードに地形カードが含まれていた場合、
対象に全属性のマナをX個付与する。
紅玉の王女のアヴァンチュール(対象:ユニット1体)
・手札を1枚破棄する(地形カード)。
対象に【火炎または津波:1D+2】ダメージを与える。
装備品:なし
※1枚制限
レアリティ:UR
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「あら、これはいったい……」
聞き覚えのある甘味強めで威厳が足りない声は、オークのプリンセスことプリムプラムのものだった。
うぐ、戸惑っている彼女と目が合ってしまった。
――思い……出した!
僕のことを魔王呼ばわりしたことを、この子に聞こうとしてたんだ。
ヤバいヤバい、忘れるところだったよ。てへぺろ。
け、結果オーライってことでひとつ。
「ん? あのときのオークか」
平常運転な篁さんの声に、プリムプラムは劇的な反応を示した。
ビックリして目を丸く見開いて、身体を抱きしめながら篁さんから距離を取って、自分の格好を見おろして……そのまま、悲鳴とともにしゃがみ込んでしまった。
「キャッ、ななな何ですかこの淫らがましい衣装は!?」
「……前とあんまり変わらなくないか?」
「ぜ、全然違います!」
「えぇ~」
以前のプリムプラムを見ていない一之瀬さん以外は、みんな『何言ってんだコイツ?』って顔をしている。たぶん、僕も同じ顔をしている。
「ど、どうしてそんなハレンチな姿をしているのですか、あなたは!?」
「ハレンチって……お前に言われたくないなぁ」
「な、何ですってぇ!」
どっちもどっちだよ。
言い争っている篁さんとプリムプラム以外の全員の心が一致した瞬間である。
――どうなってるんだ、これ?
プリムプラムに致命傷を与えたのは篁さんだ。
だから、その篁さんにビビってプリムプラムが後ずさった。
そこまでは人の心の機微に疎い僕でも理解できる。
――そう言えば……
バインダーから『オークプリンセス・プリムプラム』のカードを引き抜こうとして、引き抜けなかった。同キャラの別バージョンを同時に起動することはできないとマニュアルに記載されていたことを思い出す。
この2枚のカードは同一人物、記憶も共有しているわけだ。
プリムプラムを倒す前に水着バージョンのカードをゲットしていたら、どうなったのだろう?
――僕のスキル、相変わらずわけがわからないな。
ちなみに、ここまでの考察を並べ立てたのは、全部目の前の光景――篁さんとプリムプラムの言い争いから目を逸らしたかったからだったりする。
「ま、まさかこのような辱めを受けようとは……さすがは魔王、心を抉るこのやり口の恐ろしさと来たら」
「この流れで、それ言っちゃうんだ。せっかくだから、そこんとこ詳しく」
出たよ、魔王。
説明を促すと、プリムプラムはきょとんとした顔になった。
『なんで魔王の自覚がないのですか?』って、その表情が雄弁に語っている。知らんがな。説明よろ。
「私から話を聞きたければ、そう命じればいいでしょう」
「あのね……そんなことをしたら、僕が社会的に死んでしまうよ」
今ここにいるのは、僕を除けばみんな女子ばかりだ。スキルの力で美少女に無理やり言うことを聞かせるなんて悪役ムーヴやらかしたら、僕は彼女たちの信頼を失ってしまう。ゆくゆくは敵対することになってしまうかもしれない。それは絶対に避けたい。
特に聖女→勇者のホットラインは即死コンボが待っているからね。
――はぁ……まさかイラストアドが仇になるとは。
イラストアドって言うかビジュアルアド?
最高レアに美少女ユニットを配置するのは、ソシャゲやカードゲームではよくある手口とは言え……これは外聞が悪いなんてもんじゃないぞ。
僕のスキル、どうなってるんだ? 僕を殺す気か?
「あなた、本当に魔王ではないのですか?」
「だから違うって」
「……まぁ、いいでしょう」
プリムプラムの話を要約すると、こんな感じ。
彼女がいた世界に魔王と呼ばれる存在がいた。
【万魔の書】と呼ばれる書物を手に戦禍を広げる災厄のような――人間。
彼の武器は……モンスター。【万魔の書】には、戦って倒したモンスターを手札として利用する能力があったのだ。
ちなみに手札にできるのはモンスターだけとのこと。
だから、僕らと戦ったときに魔法をカード化されてビックリしてしまったそうだ。
「戦うって、ひとりで?」
「いいえ、魔王の軍勢は万を超えておりました」
万!?
みんなの視線が僕に集中した。
待ってほしい。僕の【万象の書】に一万体以上のユニットを操る力は……理屈の上ではないこともない。コスト上限が1万を超えればの話だ。正直あんまり現実味がない。
どれくらいのレベルがあったらそんな芸当ができるようになるんだ?
その領域にたどり着く前に寿命が尽きるんじゃないか?
「僕のスキルは【万象の書】だよ」
「……要するに、魔王と呼ばれる人が異世界にいて、その人が先輩とよく似たスキルを持ってたってこと?」
王さんの推測が正解のようだ。
人違いって言うか、風評被害って言うか……
僕を魔王呼ばわりして仕掛けてきたプリムプラムの視線が、思いっきり泳いでいる。
「それでは、その……」
「『桧川 拓郎』ね、僕の名前」
「タクローさまは魔王ではない、と?」
「違う」
断言すると、プリムプラムの表情があわただしく変化した。
カーッと真っ赤になったかと思えば、申し訳なさそうにしゅんとしてしまって……青くなったり赤くなったりして、最後にはホッと胸を撫で下ろした。
「そうですか……よかった、と思うべきなのでしょうね」
「モンスターを手駒にできる点は同じだけどね」
「柊さん!?」
「事実だし」
爆弾発言してそっぽを向く柊さん。
そやね、僕もちょっと人としてどうかなって思ってたし。
普通のモンスターならともかく、プリムプラムみたいな子を好き勝手出来るスキルってどうなのさ?
「う~ん、反論できない」
煩悶する僕を前にして――プリムプラムは跪いて頭を垂れた。
凄く堂に入っていると言うか、ファンタジー世界の貴族っぽい所作だ。
……身に着けているのが篁さんと同レベルのドスケベ水着である点を除けば、だけどね。エロ同人みたいな絵面になってるよ……
「知らなかったこととはいえ、タクローさまたちにご迷惑をおかけしたこと、深くお詫び申し上げます」
「いいよ、仕方なかったんだ」
これは紛れもない本音だ。僕らはお互いの状況がわかってなかった。何しろエンカウントは異変の初日だったんだ。こうして話せばわかり合える間柄だって先に判明していたら、別の方法があったかもしれない。知らんけど。
「……」
チラッと一之瀬さんの方に視線を動かしてみたところ……ぽかんと口を大きく開けたまま硬直している。
どっちだ?
アウト、それともセーフ?
「寛大なお言葉、感謝いたします……それで、その、厚かましいことを承知の上で、ひとつお願いしたいことがあるのですが」
「お願い? 何?」
「タクローさまのお傍にお仕えすることを、お許しいただけませんか?」
なんて?
なんで?
でも、まぁ……それくらいなら。
逆に解放しろって言われるよりはマシだ。そっちはやり方がわからないからね。
「許すも何も、キミはもう僕のものだよ」
「まぁ!」
照れ臭さをごまかすために素っ気なく言ったつもりだったのに、プリムプラムは目をキラキラと輝かせてメチャクチャ喜んでいる。あれ、僕、何かやっちゃいました?
吐いた言葉を飲み込むことはできないとは言うものの……何がどうしてこうなった感ある。
――僕はオークと戦っているし、キミとも戦ったんだけど?
負けたら絶対服従とか、そういう世界観の人だったりするの?
それとも何か裏がある?
ここ最近、篁さんたちみたいな美人な人たちと、ほとんど何の脈絡もなくお近づきになっちゃってたのと同じ流れで考えて問題なしな感じ?
――だ、大丈夫、だよね?
ちゃんと意思疎通できているみたいだし。
僕のカードだから反逆される心配もないし。
僕は――自分のスキルを信じていいんだよね?
なお、みんなの視線がとても冷たかった。悲しい。




