第6話 みなさんお待ちかね!(僕しか待ってない
「さて、それじゃそろそろ」
一之瀬さんの演奏がひと区切りしたタイミングで、僕はバインダーを開いた。昨日戦ったオークの美少女プリムプラムのカードを起動するためだ。
『魔王』
彼女が口にした言葉が耳について離れない。本当は朝起きてすぐに尋ねたかった。今まで後回しにしていたのは他に優先してやるべきことがあったからだけど、あまり多くの人に話を聞かせたくなかったからでもある。
――勇者がいるからね。
一之瀬くんが勇者で僕が魔王。
そんなことになったら、せっかく避難した体育館を追い出されるかもしれない。下手をすると殺されるかもしれない。
だからと言って、いつまでも先延ばしにするのは無理だ。
彼女の言葉を耳にしたのは、僕だけじゃない。『桧川、魔王の件どうなったの?』とかみんなの前で言われたらたまらないよ。CVは椎名さんでお送りしました。
ここは先手を取って僕から情報を開示した方がいい。潔さで好感度を稼ぐ作戦ッ!
――問題は……
ヴァイオリンを置いてひと息ついている一之瀬さんだ。この子は聖女で勇者の妹。僕がガチで魔王ってことになったら、どんなリアクションをするのか読めない。
ここまで観察した限りでは、悪い人ではないと思うんだけど……
――まぁ、ダメなら最終兵器の出番だな。
土下座しよう。
土下座はたいていの問題を解決してくれる。
そして、覚悟を決めた僕の目に飛び込んできたのは――そんなアレコレを吹っ飛ばすトンデモナイ情報だった。
液晶に、ついさっきまで存在しなかったバナーが追加されていたのだ。
「な、何だって―――――――ッ!?」
つい絶叫してしまった。
思い思いにくつろいでいたみんなの視線が、僕に集中する。
「どうしたの先輩?」
「何? 世界でも滅亡するの?」
きょとんとする王さんと、ぼんやりした眼差しを向けてくる柊さんの温度差が酷い。
柊さんは最初から割とこんな感じだったな。王さんは癒し枠。
「あ、新しいパックが売り出されているッ!」
「あっそ」
「な~んだ」
「桧川、水飲むか?」
みんな反応鈍くない?
新弾発売だよ、これ。今日は祭りだよ!
もっとテンション上げて行こうよ。一之瀬さんが戸惑ってるじゃないか。
「あの、桧川さんのスキルのことはよくわかりませんが、とりあえずお話を聞いて差し上げてはいかがでしょうか?」
優しい!
このリアクションが嬉しい!
さすが聖女!
一之瀬さんの優しさが心に染みる……優しさで合ってるよね?
「はぁ……それで、桧川、どんなパックが売り出されたの」
「ありがとう、棒読みのリアクション! まぁ、いいや……聞いて驚いてよね、みんな! その名も『夏季限定トロピカルサマーパック』だよ!」
視線が冷たい。
たぶん気のせいだ。
いや、気にしたら負けだ!
趣味を楽しむコツは正気に返らないことだッ!
――ん~? 何か忘れているような気がするな?
何だったっけ?
う~ん、まぁ、いいや。
忘れちゃったってんなら、たいしたことじゃないだろ。
「桧川、使え」
篁さんが魔石をくれた。
僕は彼女の顔と差し出された魔石の間で視線を往復させる。
え、篁さん……もしかして女神?
「……いいの?」
「構わん。今すぐ欲しいものがあるわけじゃない」
「先輩、私のも使って」
「桧川、はいこれ」
手のひらにうずたかく積み上げられた魔石の山。
これはきっと今まで僕が積み上げてきた信頼の証に違いない。
「……みんな、ありがとう! 僕は今、猛烈に感動している!」
「泣いている!?」
感動の光景を前に、一之瀬さんがドン引きしている。
なぜだろう。理由を聞くのはやめておこう。
知らない方が幸せなことってあるよね。
昨日の中等部救出作戦の報酬、みんなの分を集めたら1000PPを超えたよ!
これはもう10+1枚行っちゃうところでしょ!
『購入しますか(YES/NO)』のYESをタップすると、液晶部分からおなじみの光が飛び出した。
「キタ――――――ッ!」
金色出た!
銀色がSRだから、きっとSSRだ!
銀色もある。これは内容を確認するまでもなく大勝利間違いなし!
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R:スイカ
R:日焼け止めクリーム
R:アイス・ハーミット
R:スイカ
R:ファイア・エレメンタル
R:十六連打ち上げ花火
SR:銘刀スイカ割り
SR:アクアマリン・ジュエリー
SR:悪辣な両替商
SSR:ビビッド・サマー
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「桧川、どうだった?」
「どうって、これは……」
詳細を確認する前から困惑している。
何って『スイカ』が出てきたことだ。食料、だよね?
「スイカが出た」
「スイカ? スイカって、あのスイカ?」
「たぶん、そのスイカ」
みんながビックリして僕の方を見る。気持ちはわかる。
テキストを見ると、そのまんまスイカだった。特殊な効果は特にないので、純粋な食料と見ていいだろう。
――え、僕のスキルでも食べもの出てくるの?
嬉しい誤算と言うべきなのだろうか。
まぁ、その辺は後で考えよう。スイカ以外にも、気になるアイテムがふたつあるんだ。
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名 称:銘刀スイカ割り
タイプ:アイテム(装備品)
ランク:2
コスト:1
攻撃力:0
防御力:0
魔法力:0
スキル:【剣術】レベル1
特殊能力:銘刀スイカ割り!(対象:ユニット1体)
・対象に【このユニットの攻撃力】ダメージを与える。
レアリティ:SR
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名 称:ビビッド・サマー
タイプ:アイテム(装備品)
ランク:1
コスト:1
攻撃力:0
防御力:1
魔法力:1
スキル:【精霊魔法(水)】レベル1
特殊能力:きらめく夏、そして海!(対象:このユニットが存在するフィールド)
・対象が【タイプ:晴天】だった場合、
対象に【タイプ:海または水辺】を付与してもよい。
レアリティ:SSR
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「スキルが付いてる装備品だ」
「ほう?」
2枚のカードを見せると、みんな顔を真っ赤に染めた。
ただし、篁さんを除く。
「……この水着、エグイよ」
柊さんの言葉がすべてだった。
スキルがどうとかひと言も触れないぐらいデザインがエグイ。
『ビビッド・サマー』は水着だった。トップスは肩ひもがついてなかった。首を潜らせる輪っか状の紐はあったけど。ボトムスは鋭角のハイレグ。グラビアとかでしかお目にかかれないレベルのド派手なセクシー水着だ。
どどどうなってるんだよ、僕のスキルは!?
「これを着ると魔法が使えるようになる、ということでいいのか?」
「そうみたいだけど……篁さん、着てみる?」
「着てみよう」
「え、マジで!?」
サラッと返ってきた言葉に、僕は自分の耳を疑った。ついでに正気も疑った。
世界がこんな風に変わってしまったことよりも、篁さんがドスケベ水着を自分から着るとか言い出す方がよっぽど異変だ。
――マジかぁ……
篁さんをじっと見つめた。
身長は僕より少し高い。160センチ以上、170センチ以下だと思う。姿勢がいいことを差し引いて考えてもスラリとした体型だし、脚は長いし、胸も結構大きいし……似合うだろうな。
「桧川さぁ」
「目が血走ってるし」
「……桧川さん、見損ないました」
どうして僕が責められる流れに?
『魔法を使ってみたかったんだ』と篁さんに促されて、カードを起動した。
光の中からイラストどおりの水着が出てきて……え、これ本当に着るの、篁さん?
僕はもう一度篁さんをガン見した。
篁さんは僕を見て、にっこり微笑んだ。
「着替えるから、あっちを向いていてくれないか」
「あ、うん……その、無理してない?」
「大げさだな、桧川は」
「そう、かな?」
篁さんに背中を向けると、柊さんが正面に立っていた。
腰に両手を当てて、もの凄い眼差しを突き付けてくる。氷点下どころか絶対零度って感じ。背後からは衣擦れの音が聞こえてくるし、王さんは『すごい』とか言ってるし、一之瀬さんは顔色を失っているし……これ、どういう状況なんだってばよ!?
「もういいぞ、桧川」
「本当に? ドッキリとかじゃなくて?」
「バカなことを言ってないで、さっさとこっちを向け」
ゴクリと唾を飲み込んでから振り向いて――僕は言葉を失った。
目の前に水着姿の篁さんがいる。想像の百倍はきれいだった。圧倒的な肌の露出でセクシーで……でも、『エロい』よりも『カッコいい』って感想が先に来たのは自分でも意外だった。
何でだろう?
ポーズを決める篁さんが、堂々としているからかもしれない。
「どうだ?」
「……カッコいい」
「それ、褒めているつもりか?」
「褒めてるつもりだけど……あ、凄く、セクシーです」
水をぶっかけられた。
さっそく魔法を使ったようだ。頭から水を被るの、なんだか久しぶり。
水浴びって贅沢だなぁなんて現実逃避気味に考えてしまった。プールの水は生活用水だからね。
「お、本当に使える。ずっと剣を振ってばっかりだったから、魔法は新鮮だな」
「篁……本気でその格好で戦うつもり?」
「ああ。オークぐらい、今さら別にどうと言うこともない」
「それは、そうですけど……男子の目があるところで、そのような格好は……」
「問題ない。私は桧川を信頼している」
篁さんの笑顔が眩しい。
その信頼にこたえる自信ないよ……
口元を引きつらせた僕の鼓膜を、王さんの叫びが貫いた。
「先輩! まだ本が光ってる!」
「え?」
手元に視線を落とすと、確かにバインダーが光っている。
なんだこれ、ホント僕のスキルどうなってんの……
「あ」
液晶から光が飛び出した。
はたと気が付いた。購入枚数は10+1枚だ。
さっき出現したリストには10枚しかカードが記載されていなかった。
光は……虹色だった。
――虹色!?
え、ちょっと待って!?
金色がSSRってことは、まさか――




