第9話 水着を真面目に語る会議とは、夏
水着姿で魔法を使っていたら、魔法スキルを覚えた件。
あまりにもアホ極まりない字面に反し、僕が一部始終を報告し終えた夜の会議室は、今までにないほどの緊張感に包まれていた。
「スキルを後付けできるのはデカいな」
腕を組んで嘆息する護道くん。
そう、これは本当に大きい。革命的と言ってもいい。
これまでの僕らは、レベル1に上がった際に取得したスキルに合わせた戦い方をしていた。その戦い方を強いられていたと表現した方が適切だろうか。
例えば椎名さん率いる弓道部。彼女たちは全員【射撃】スキルを有する遠距離戦闘特化型のチームだ。言い方は悪いけどバランスは非常に悪い。前衛がいないし、魔法――特に治癒魔法の使い手がいないのは痛い。【精霊魔法(水)】には治癒魔法がある。三人のうちだれか一人でもこのスキルを取得すれば、安定性の劇的な向上が見込める。
それは椎名さんも重々承知の様子。さっきから僕に向けられる眼差しが、完全に獲物を前にした狩人のそれだった。こわ。
「水を出せる人間は、多ければ多いほどいい」
そう言って眼鏡のフレームをクイッと上げたのは副会長の飛田先輩だ。この人の言うことも、また正しい。サバイバル環境下において水の有用性に思い至らない人間はいない。
その隣では生徒会長の円城先輩が厳しい表情を浮かべている。
――そうなるよね。
先輩の【AMAZ〇NES】は、この状況において最強のスキルのひとつと言って差し支えないものの、会長自身は致命的な弱点を抱えている。戦闘能力が皆無なのだ。通販ショップのラインナップに武器はないし、戦闘に役立つスキルも持っていない。魔石の使い道はあるのに、魔石を手に入れる手段がない。今はみんなで融通し合っているから問題が表面化していないだけだ。万が一彼女が孤立してしまったら、使えないスキルを抱えてゲームオーバーまで一直線だ。そんなことが起きないようにしたいけど、人間の命を狙ってくるモンスターが跋扈する世の中に絶対はない。
「スキルを使っていたら、身体が使い方を覚えるってことなんでしょうね」
魔法だったら心でしょうか。
そう呟いた最上さんは、悩ましげだった。
詳細な理屈は不明だけど、たぶん合ってるんじゃないかな。
「桧川さん」
「装備を貸すのは問題ないです。ただ――」
会長と椎名さんを交互に見やる。
【精霊魔法(水)】をゲットできる水着こと『ビビッド・サマー』は1枚しかない。排出率0.01%のSSRなうえに期間限定、2枚目が手に入る保証がない。誰に貸し出すか、どの順番で貸し出すか……これはトラブルの火種になりそうな予感がひしひしとする。
はぁ、なんで僕のところにばっかりこういう問題が出てくるかなぁ。
「……とりあえず会長から。ウチはその後でいいわ」
僕と会長の間で視線を往復させていた椎名さんが退いた。
意外だ。そう思いながらも口に出さなかった僕に、椎名さんの鋭い視線が突き刺さる。
「会長の通販スキルは私たちにとって必要不可欠でしょ。だから会長を優先する。それだけよ」
「ありがとうございます、椎名さん」
会長が頭を下げるとピンと張りつめていた場の空気が弛緩した。
僕らが手に入れたモンスターと戦う力は、人間に向けることもできてしまう。
以前ならちょっとした仲違いで済んでいたことが、致命的な惨劇を招くことにもなりかねないのだ。椎名さん、本当にありがとう。
「なぁ、桧川」
「なに、護道くん?」
「今のところ、その水着と木刀だけなんだよな」
「そうだねぇ」
何を言いたいのかは言わなくてもわかってるよ。
この水着以外で【精霊魔法(水)】を覚えられる装備はないのかって言いたいんだよね。まったくもって同感です。護道くんがこれを着ている姿とか、想像するだけで笑えてくる。
「カードの引き次第ってのが、ままならねぇな」
「他の方法はないのか?」
沈黙を守っていた一之瀬くんの言葉は、きっとみんなの中にある疑問だった。
全員の視線が僕に集中する。
「ゲーム的に考えたら……ドロップアイテムとかスキルで生産するとかかな。あとはダンジョンの宝箱とかから手に入れるくらい」
アイテムドロップはあり得る。篁さんが愛用しているロングソードはオーク・ソードマンから奪ったものだ。魔法の武器を持っているモンスターを倒せば、その装備品が手に入る可能性は高い。その手の連中は恐らく強敵だって話はひとまず脇に置いておくとして。
生産スキルも可能性は十分にある。今のところは柊さんの【錬金術】ぐらいしか見えていないけれど、【鍛冶】とかは凄くありそう。なお、こっちは素材をどうやって調達するのかと言う問題が残る。
「宝箱、ですか」
「ダンジョンとか、あるのかねぇ」
「さぁ……」
今のところ、僕らの活動範囲は学園の敷地内に限定されている。学園内はひととおり見て回った限りでは、それっぽいものはなかった。
「学園の外、どうなってるのかなぁ」
「……」
初日、校舎の窓から見た光景が思い出される。
見慣れた街並みに立ち昇る不吉な黒い煙が。あれから時間は経過している。時おり高いところから街の様子を窺ってはいるものの、不気味な沈黙に支配された市街に足を踏み入れるのは、ちょっと怖い感じがしている。見たくないものを見てしまいそうな、ホラー映画を前にしたような、そんな気持ちだ。
「それは今ここで考えても仕方がねぇ。できることからやっていこうや」
「そうだね」
護道くんの言うとおり。
遠くばかり見ていると足元が疎かになるよ。
そう締めくくって会長に目を向けて、ふと気づく。
――会長の水着姿……
まじまじと見つめると、耳の奥に聞き覚えのない声が甦った。
それは――幻聴に違いないのに、僕の心胆を寒からしめるのに十分なリアリティを有していた。
『桧川、いい加減にしろ』
『最低、死ね』
『先輩、それはないわ』
『タクローさま、よそ見をしてはいけませんよ』
ここまでお読みいただきありがとうございました。
キャラクター紹介を挟んで第4章に入ります。
これからもよろしくお願いいたします。




