第4話 みんな聞いて~!
「はい、ちゅうも~く!」
頑張って声を張り上げたのに、みんなの反応は微妙だった。
体育館の壁にかけられた時計は、正午を過ぎたあたりを指している。集まってもらったのは今朝のメンバーに残りの中等部3人を加えた、中等部救出作戦の参加者全員だ。僕のパーティ以外は校内の資源回収から帰ってきたばかり。昼食をとりながら、揃いも揃って胡乱げな眼差しを向けてくる。
「なんなの、桧川?」
「つまらねぇこと言ったらブッ飛ばすぞ」
「安心して、真面目な話だよ」
僕らが手伝ったレベル上げについて順を追って話していく。誰がどんなスキルをゲットしたかってくだりは、みんな興味津々って感じだね。
……とは言え、朝から働きづめで疲れているのか、どうにもダルい雰囲気になっているのは否めなかった。
「……で、最後に会長。エクストラスキル【AMAZ〇NES】ね」
「なんだそりゃ?」
「ピンと来てないだろうからザックリ説明すると、ギリシャ神話の女戦士じゃなくってネット通販の方だよ。魔石を使って買い物ができる」
「はぁ」
「ちなみにゴブリンの魔石ひとつでおにぎりがひとつ買える。だいたい10PPで200円ぐらいかな?」
そこまで言うと、沈黙が降りた。
眉をひそめた椎名さんが戸惑い気味に問いかけてくる。
「……おにぎり? え、ちょっと待って。ネット通販って、その、昨日までと同じ感じで買い物できるってこと?」
「椎名さん、正解」
「マジ?」
みんな、開いた口が塞がらない。
僕らが放り込まれたこのサバイバル状況で、会長のスキルがどれだけ強いのかを思い知ってくれたはずだ。
「……と、ここまでが前置き。ここからが本題。昨日の魔石分配について改めて話し合おうかなと」
「カード買ってなかったんですね」
グサッ。
最上さんのツッコミが痛い。
僕が報酬を独り占めする人間に見えるのだろうか。
いや、まぁ、今朝の段階では柊さんと山分けして、速攻でカードを買っていてもおかしくないと言われたら否定できないけどさ……
「お前がリーダーだ、お前が決めろ」
「みんなで納得できるように議論した方がいいと思ったんだけど、それじゃ、僕の腹案から聞いてもらおうかな」
「はいはい。わかったから、サッサと言いなさい」
「うん。まず……えっと、いきなりちょっと触れにくい話題から。昨日助けた3人の下着を用意してあげたいなと」
「妥当だな」
篁さんが即座に頷いた。みんなも異論はなさそうだった。
これは昨日彼女たちに服を着せる段階で問題になっていたことだ。
置きっぱなしになっていた体操服はあったんだ。でも、下着がなかった。当たり前だよ、下着をそこらに放り出す中学生なんているわけない。もともと身に着けていた下着はオークにビリビリに破られていて残ってない。結局素っ裸の上に体操服を着てもらっている。これは見過ごせない。
「僕は女子の下着のことはわからないから、これは女子が会長と相談して決めてほしい」
「そうだね。桧川には任せられないね」
ピンポイントに僕の名前を出す必要あった、柊さん?
そっぽ向いてないでこっち見て。
「次に柊さん。錬金爆弾とか傷薬とか作ってもらった分を必要経費として先に分配しておきたい」
「まぁ、そうだな」
ここでも反論は出なかった。
柊さんの【錬金術】は生産スキルなので魔石を使う。これを彼女自身に負担させるのは公平とは言えない。なお、傷薬の生成に必要だった薬草は、ハーブ的なものでも問題なかった。昨日も園芸部が育てていた(?)ミントで作った傷薬が大活躍だったよ。
「ここまではいいね? それで、残りは……みんなで等分ってことで」
「……いいんですか?」
おずおずと尋ねてきたのは最上さん。
ほかの中等部のメンバーも互いに顔を見合わせてから、僕を見てくる。自分たちは助けてもらった側だからって思った?
僕はそんな風には考えてないよ。
「昨日はみんな頑張った。貢献度的なものを数値化する方法がないし、まだ異変が起きて二日目だからね。魔石の分配についてはこれから追い追い考えていこう。今のところは等分でいいんじゃないかなってね」
頑張ろうが頑張らなかろうが報酬は一緒、それは悪しき前例になりかねない。
でも、まだ細かいところを詰める段階じゃないと思うんだ。命懸けの状況で手を抜く奴なんていないだろうしさ。
「お前がいいって言うなら構わねぇが」
「私は桧川を支持する」
ちなみに、篁さんと柊さんにはあらかじめ話しておいた。あえて貢献度順に並べるならば、篁さん、柊さん、護道くん、王さんの四人は他のメンバーよりも上だったと思う。誰に聞いても似たり寄ったりの答えになるんじゃないかな。この四人のうちふたりに納得してもらっておけば上手く話を持っていけるだろうって意図はあった。
「じゃあ、そういうことで……」
「兄さんはいつもそうです!」
みんなで魔石を分けよう。
そう締めくくろうとした僕の言葉を鋭い声が遮った。
いったい何があったのかな……って、白々しいな。最初から全部聞こえてた。聞こえないふりしてたんだ。僕だけじゃないぞ、ここにいるみんな同じだ。だからみんな目を逸らしちゃダメだよ。
「日葵、お前を危ない目に合わせたくないんだ」
「私だってレベルを上げました。足を引っ張ることはありません!」
「レベルが上がってるとか上がってないとか、そういう問題じゃないんだ。オレは兄として、お前を……」
兄妹喧嘩である。
体育館で仮眠をとっていた一之瀬くんは、目覚めるなり妹さんがレベルを上げた……つまりモンスターと戦ったことを知らされた。寝耳に水の話だっただろうし、自分が一緒にいてやれなかったことを悔いた。
そこで話は終わらなかった。
妹さんこと一之瀬さんのスキル【演奏】は、パーティメンバーに強化を付与するスキルだった。最上さんの【号令】とは違ってMPを消費しない代わりに、楽曲を演奏する必要がある。楽器が必要なのだ。
……で、その楽器を取りに音楽室へ行こうとしてお兄さんと揉めているわけだ。
「もういいです! 兄さんには頼みません!」
「日葵!?」
一之瀬くんでも、そんな狼狽した声を出すんだなぁ。
……な~んて暢気に構えていたら、一之瀬さんがこっちに来た。どっちも一之瀬で紛らわしい。
――なるほど、護道くんか。
納得。
お兄さんの親友の力を借りようってことね。
なるほどなるほど……実に無難な人選だ。美人で有名な彼女にしてみれば、変な男に声を掛けようものなら何を要求されるかわかったものではないとか考えてそうだし、決して自意識過剰ってわけでもなさそうだ。
その点、護道くんなら安心感がある。
「桧川さん、音楽室までご同行願えますか?」
なんて?
ま、また僕ぅ!?




