第3話 こ、このスキルは!?
「ちゃんと一之瀬くんとお話ししてね」
「わかっています」
「ちゃんとだよ、絶対だよ。一之瀬くんが起きたら、すぐにだよ」
ウザがられるのを承知で一之瀬さんに何度も念を押した。
最強の剣と最強の盾を持った勇者に追い回されるのは勘弁してほしい。
「じゃあ、私たちは校内を回ってくるわ。一応聞いておくけど、何か欲しいもの、ある?」
「カード。新しい奴。モンスターの情報でもいいです」
「アホか」
校舎に向かう護道くんたちを見送って、僕たちも体育館を後にした。
レベル上げに参加するメンバーは生徒会長の『円城 環』先輩、副会長の『飛田 誠』先輩、書記の『門真 香織』先輩、【勇者】一之瀬くんの妹こと『一之瀬 日葵』さん、そして最後のひとりは……
「うはははは、オレの時代キター!」
不謹慎の極みな雄たけびをあげる『小森 太志』くん。
僕と同じ高等部の二年生なんだけど……一度も話したことがないな。僕が言葉を交わしたことがある相手を探す方が難しいと言う点は、ひとまず脇に置いておくとして。他のメンバーに聞いてみても『誰だっけ?』とか『こんな奴いたっけ?』と実に微妙な反応が返ってきた。影が薄いオタク、つまり――
『僕の同類ってこと?』
『全然違うだろ』
篁さんは、なぜか頬を膨らませた。
彼女だけでなく、みんなも『似てない』って意見を一致させていた。
なお、僕らのやり取りを聞いた小森くんは、不機嫌そうに唸り声をあげて篁さんを睨んでいた。うむむ……
――まぁ、確かにあんまり似てないかな。
体型的には、やや太り気味。さっきの叫びから察するにオタクっぽい?
僕も大概オタクだけど(カードゲーマーがオタクじゃないわけがない)、小森くんよりは周りの空気読んでるつもり。
一方で少し親近感を感じているところもある。
両親を亡くして以来、僕は元の世界が好きではなかった。
世界がぶっ壊れてゲームみたいになって、チートなスキルを手に入れて……ワクワクする自分を抑えることは難しいよ。
……なのに、なんか小森くんには嫌われているっぽいんだよね。解せない。
「じゃ、僕がモンスター釣ってくるから」
「釣る?」
「モンスターをここまで引っ張ってくるってこと。追いかけるより待ち伏せた方が楽でしょ」
「……それは私がやる」
言うなり篁さんは走っていってしまった。
止める暇もない。困ってしまって柊さんに目を向けると『そりゃ、篁だよ』とのこと。僕だと不安なのか。今さらゴブリンやオークに遅れは取らないはずなのになぁ。
ほどなくして篁さんは一体のゴブリンを連れて戻ってきた。
レベル0メンバーに緊張が走る中、篁さんは振り向いて剣を振り下ろして――振り上げた。Vの字切りだ。スパ〇ボで見たことある!
両腕と両脚を失って地面に転がるゴブリン。ドン引きする会長たちに、オークから奪い取った槍を差し出した。
「先に決めておけばよかったけど、誰から行くんです?」
「オレに決まってるだろうが!」
尻込みする会長たちを余所に、槍を受け取ったのは小森くんだった。受け取ったというか分捕ったというか……篁さんと柊さんの視線が痛い。ふたりとも、お願いだからここでキレないでね!
「ざまぁねぇな、ゴブリン! オレの無双伝説の礎になれっての!」
口振りはともかく、ためらいなくゴブリンに槍をブッ刺せるのはポイント高い。だから『至れり尽くせりしてもらって何を言っているんだ?』とか『無双したいんだったら、昨日のうちにレベル上げればよかったのにね』とか聞こえよがしに言わないでってばぁ……
意気揚々と『ステータスオープン!』と叫んだ小森くん、彼が手に入れたスキルは【暗黒魔法】だった。
「どんな魔法があるの?」
「あ? そんなもん、言うわけねーだろ」
「……なんでだ?」
「はっ、お前は何にもわかってねーな、篁。こういう手札ってのは迂闊に人目に晒すもんじゃねーんだよ!」
「そうか、勝手にしろ」
ひっ!
篁さんの声が氷点下!?
背中に氷柱を差し込まれたような悪寒がヤバいんだけどッ!
昨日から今日まで、僕の記憶にある限り彼女は飄々としていたり好戦的だったりしていたものの、ネガティブな感情を表に出さないよう努めていたように思う。
そんな彼女がここまで機嫌を損ねるなんて……小森くん、言ってることは間違ってはいないんだけど、それは危ういよ。
「いいんじゃないの? 桧川が魔法カード買えばわかるでしょ」
柊さんまで、そういうことを……
普段はクールな彼女が怒りをあらわにしているの、ゾクゾクする……じゃなくって、本気って感じがする。ふたりとも小森くんとパーティ組むことはないだろうな。
――ああ、それもあるか。
パーティは最大6人まで。僕らはあと3人までメンバーを募れる。単純に考えると枠を空けておくメリットは少ない。人数が少ない方が経験値を集中できる(であろう)点はメリットと言えなくもないけど、縛りプレイでもない限りは強力なメンバーを集めて戦うのがRPGのセオリーだ。みんなの不興を買うような言動を繰り返して『桧川と一緒に戦うのはイヤだ』なんて撥ねつけられたら困る。
人間関係超苦手なんですけどぉ……
「桧川はいつもどおりにしていればいいんだ」
「そうそう、今さら取り繕っても手遅れだしね」
『それ、どういうこと?』って聞く前に、再び篁さんはゴブリンを求めて駆け出して行った。柊さんは柔らかい笑みを湛えていたものの、答えてくれる気はなさそうだ。機嫌は直っているみたいだから……まぁ、いいか。
残りの4人も、無事にレベルを上げることができた。
門真先輩は【神聖魔法】と【槍術】、飛田先輩は【忍者】、一之瀬さんは【演奏】とエクストラスキル【聖女】だった。一之瀬兄妹、遺伝子だけでなくスキルまで強すぎる。
最後のひとり、会長は……何だろう、首をひねっている。
「会長、どうかしました?」
「いえ、レベルは上がってスキルもあるんですが……」
「ないと困りますしね、スキル。それで、どんなスキルだったんです?」
「【AMAZ〇NES】です」
「アマゾネスって……ギリシャ神話の女戦士だっけ?」
自分で言っておいて、柊さんは眉を寄せていた。
僕も首をかしげていた。会長は文化系の人だと思っていたので、女戦士と言われてもピンとこない。
「いえ、そっちではなくて、その……」
モジモジする会長の姿を見て、脳裏に閃光が奔った。
まさか!?
「そっちじゃないって……ひょっとして、ネット通販の方!?」
「……はい」
オイオイオイオイ、話変わってきたな!
劇的な反応を見せたのは、僕のほかだと柊さんと小森くん。
ほかのみんなは『何をそんなに驚いているの?』って顔をしている。
「……日本円です?」
「いえ、PPって書いてあります」
「魔石ですね。これ、入れてみてください」
「入れるってどうやって……あ、10PP入りました」
マジかよ!?
魔石で買い物できるってこと!?
サバイバル環境でネット通販って、最強スキルじゃないか!?
「これは……レイアウトも商品もだいたい一緒ですね」
慣れてるっぽい手つきでウィンドウを操作していた会長の傍に、どこからともなく小さい三角のものが落ちた。
「なっ!?」
それは、おにぎりだった。
つい先日までなら、コンビニとかで見慣れていたもの。今となっては貴重なもの。
一部始終を見守っていたみんなの顔色が変わった。ようやく会長のスキルのすごさを理解したらしい。
どう見ても会長が主人公です、本当にありがとうございました。




