第2話 これから、どうしよう?
「さっきの会長の話、どう思う?」
椎名さんは、そう言って顔をしかめた。
『さっきの』ってのは、『レベルを上げましょう』とみんなに促した件だ。あるいはその言葉に反応を示さなかった生徒たちの方かもしれない。
「おかしなことを言っているとは思わなかったがな」
篁さんの言葉に、みんなで頷いた。
みんなって言うのは、昨日中等部で戦ったメンバーだ。篁さん、柊さん、護道くん、椎名さん、最上さん。
僕が声をかけて集まってもらった。
昨日の疲れが出ているのか、みんなの表情はハッキリと二分している。体力ゴリラ組と、それ以外で。ま、まだ眠っている残りの中等部には勝ってるし!
「それで、何なんだ?」
「魔石をみんなで分けようと思って」
護道くんに問われて答えたら、揃いも揃って変な顔が並んだ。解せない。
MMORPGとかだと戦闘のドロップアイテムの分配はトラブルを招きやすい。ちゃんと話し合わないとマズいところだよ。僕は詳しいんだ。
「石なんかいらねぇ。そんなことでわざわざ呼ぶな」
「そんなことって……」
「みんなで公平にって気持ちはわかるけど……魔石って桧川と柊しか使えないじゃない。私たちが貰っても意味ないし、置き場もないし、ハッキリ言って邪魔」
「それはまぁ、そうかも?」
椎名さんの意見はもっともなのだ。
柊さんの【錬金術】みたいな生産系のスキルを持っていない限り、魔石っていらないんだ。僕の【万象の書】はエクストラスキルだから、たぶんあんまり一般的な使い道ではないと思う。
僕も声をかけるべきか、少し迷った。
『いらない』って言われると予想は出来ていた。それでも、後のことを考えたら無言で自分のポケットに突っ込むのは危なっかしいって思った。これは柊さんも同意見。僕が声をかけたって事実は大切なんだよ。
「それはもういいとして……これからどうする?」
「どうするって言われてもね。とりあえず会長が言うとおり、レベルを上げないとどうにもならないかなって」
「……まぁ、そうだよな」
昨日、僕が眠ってしまった後の体育館は大変だったらしい。
生き残った生徒たちが家族の安否を心配するわ、家に帰りたいと言い出すわ、挙句の果てにはすすり泣きの大合唱。
気持ちはわからなくもない……いや、僕はイマイチわかってない。安否を知りたい家族はいないし、叔父の家に帰りたいとも思わないし。ここに立て籠もる方が安全だし合理的だって断言できる。
――家に帰りたかったらレベル上げなよって話なんだよね。
彼らがやりたいことをやるにはレベル上げは必須だ。会長も言っていたとおり外はモンスターがウヨウヨしているんだから。
そう、モンスターだ。
日付が変わったころ、体育館の周辺にモンスターが姿を現したと一之瀬くんが言っていた。彼は夜通し見張りをしてくれていて、近くをうろつき始めたモンスターをせん滅してくれたとのこと。今は徹夜がたたって体育館の片隅で眠っている。
「リポップしてるんだよね、モンスター」
リポップ。倒したはずのモンスターが再出現している。
ゲームだったら『そりゃそうだろ』って話だよね。雑魚がいなくなったらレベルを上げられなくなる。この世界がゲームっぽくなったことを考えれば、ごく自然な現象と言えなくもない。
モンスターはいなくならない、らしい。
少なくとも倒せば終わりなんて安直な展開にはならなさそうだ。
どんな内容であれ、生き残ったみんなが望みをかなえるには、レベルを上げなきゃどうしようもないってこと。
「戦えないとか、戦いたくないとか言ってる場合じゃないね」
「……とは言え、無理やりレベルを上げさせるのは拙いですよね。でも……」
最上さんが体育館を見回して嘆息した。
中等部組は僕らと出会う前にはすでにレベルが上がっていた。自分たちより年長の高等部、そのほとんどがレベル0のままで俯いている姿に思うところがあるのだろう。
「そうですね。それは最後の手段にしたいところです」
「……会長?」
振り向くと、いつの間にか会長がすぐ傍に立っていた。
会長だけでなく、生徒会の飛車角こと『飛田 誠』先輩と『門真 香織』先輩がいる。さらに見覚えのない男子もいた。
「どうかしました?」
「桧川さんたちにお願いがあります」
「……レベル上げの手伝いをしろってことです?」
会長は目を丸くして、首を軽く縦に振った。
そんなに驚かなくても……今の話の流れで、それ以外のお願いってある?
「話が早くて助かります。ご協力いただけますか?」
「僕は別にいいですけど。みんな、どうする?」
篁さんと柊さんは僕に付き合ってくれると言う。
護道くんと椎名さん、そして最上さんは……即答しなかった。
「すでにレベルが上がっている人が、まだの人をキャリー……じゃなくって手伝ってあげるってのは理に適ってると思うけど、どう?」
「お前の言っていることはわかる。わかるんだが、俺はちょっと考えてることがあってな」
「……と言うと?」
「使えそうなものを早めにかき集めた方がいいんじゃねぇか?」
「確かに、そちらも急務ですね」
護道くんのアイデアに、会長を含む全員が納得。
この体育館には災害用の備蓄が用意されていたとは言え、足りないものはたくさんある。さすがに学校の敷地の外に足を延ばすのはためらわれるにしても、学校の中にだって今後の生活に役立つものは色々あるだろう。モンスターに好き勝手されるぐらいなら、僕らが有効活用すべきだ。先を見据えているな、護道くん。
「じゃあ、二手に分かれようか。僕と篁さん、柊さんが会長たちのレベル上げ。護道くんたちが校内の使えそうなもの……資源回収ってことで」
「ああ。別に円城に含むところがあるわけじゃねぇ。それはわかってくれ」
「大丈夫です。私の方こそ気が回らなくてすみません」
「気にすんな、非常時だ。すぐに動き回ってる俺たちの方が異常なのさ」
この体育館は一之瀬くんに任せることになった。
ギリギリまで寝てもらって、何かあったら叩き起こして戦ってもらう。
叩き起こすのは取り巻きの誰かにお願いして、いざ出発と思ったのだけれど……そうは問屋が卸さなかった。
「私のレベル上げにご協力いただけませんか?」
そんなことを言いだしたのは、一之瀬くんの妹こと『一之瀬 日葵』さんだった。
腰まで届くストレートの黒髪が印象的な和風美人。同じ和風でも篁さんとはちょっと違って、一之瀬さんの方が落ち着きを感じさせる。
「桧川、どうした?」
「いえ、なんでも」
篁さんが悪いなんてひと言も言ってませんし?
――それにしても……
もう一度、一之瀬さんを見やる。
間近で向かい合っているだけで緊張する。もはや呼吸を忘れるレベル。さすがスーパーイケメン一之瀬くんの妹だ。遺伝子が強すぎる。
一之瀬さんを見て、護道くんが片方の眉を跳ね上げた。それ、どういう感情?
「お前、一輝には話したのか?」
「いいえ。話せば反対されるのが目に見えていますから」
「そうか……ま、そりゃそうなるか」
嘆息する護道くん。一之瀬兄妹の事情に詳しそうな彼が言うならそうなんだろう。一之瀬さんも頷いている。一之瀬くんシスコン説、あると思います。
護道くんは、一之瀬さんを見て――僕を見た。
ん?
僕?
「桧川、すまんがコイツも頼む」
「え、ええ……」
丸投げかい。
自分でも変な声が出たなぁって思った。
護道くんは何と言うか実にすまなさそうな顔をしている。激レア顔じゃないか。そんな顔されちゃうと断れないね。
なお、一之瀬さんは、ほんの少しだけ眉間にしわを寄せていた。ほとんど縁がなかった僕と同行させられて不機嫌になるのはわかるけどさぁ……これ、僕が後で一之瀬くんに怒られる展開じゃないの!?




