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終末の鐘が鳴り響く、この空のもとで ~ゲームみたいになった世界で、僕はカードを手に無双……無双は出来てないな?~  作者: 鈴木えんぺら
第1部第3章

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第1話 あの名ゼリフから始まる。(202X年6月25日)

 目蓋を上げると、知らない天井だった。

『知らない天井だ』って呟くより早く、学校の体育館だと気が付いて、ちょっと恥ずかしくなった。気を取り直して、起き上がろうとして――


「あだだだだだっ」


 身体中がバッキバキに痛い!

『何なんだこれ!?』って叫びたかったけど、痛すぎて声が出ない。


――そう言えば、昨日は……


 思い……出した。

 世界がファンタジーでゲームみたいになって、僕たちはモンスターとの戦いを余儀なくされて、講堂から逃げてくる生徒たちを守ったり、中等部救出作戦を敢行したりと走り回っていたのだ。

 つまり、これは筋肉痛だった。

 板張りの床に横たわっていたのもダメだったっぽい。


「起きたか、桧川」


 優しい声が降ってきた。

 顔を上げると――黒髪ポニーテールの美人『篁 亜衣』さんと、眼鏡の美少女『柊 真都』さんがいた。昨日行動を共にした僕の仲間……って言っていいのかな?

 世界がこんな風になるまで話したことなかったんだけど。


「おはよう、桧川」


「ふたりとも、おはよう。篁さんも柊さんも、身体は大丈夫?」


「……メチャクチャ痛い。完全に筋肉痛だね」


「私は何ともない。桧川と柊は大変そうだな」


 篁さんは、ふわっと笑って腰を下ろした。

 柊さんは自己申告のとおり筋肉痛が酷いらしく、出来損ないのロボットみたいにギクシャク動きながら顔をしかめて床にドスンと座る。普段から身体を動かしていない組同士、親近感が湧くね。


「ほら、朝食だ」


「ありがと、ふたりは?」


「まだ食べてない。一緒に食べようって……」


 柊さんのお腹が『ぐ~』っと鳴って、頬が真っ赤に染まった。『気にするな、私も腹が減っている』と笑う篁さん。


――お腹が鳴るか鳴らないかって結構大きな違いなんじゃないかな?


 柊さんは半泣きで篁さんを睨んでいた。

 朝食は……缶に入ったパン(乾パンではない)とイチゴジャム、味噌汁、ミネラルウォーター。ペットボトルに口をつけると、何の味もしないはずの水が身体にしみ込んでいく感覚に感動を覚える。水っておいしいなぁ。


「非常食って、乾パンみたいに味気ないものばっかりかと思ってたけど、そうでもないんだね」


「あのさ、昨日羊羹食べたでしょ?」


「言われてみれば、そのとおり。さすがウチの学校、私立だけあるよね。こういうところにもちゃんと金をかけてるところがポイント高い」


「現金だね」


 苦笑いしつつも、柊さんも否定しなかった。

 彼女の隣では、篁さんの眉間に少し力が入っている。


「どうしたの?」


「ん? ああ、たいしたことではない」


「そうなの?」


「本当にたいしたことじゃないぞ。味噌汁には白米がよかったなと思っただけだ」


 本当にたいしたことじゃなかった。

 呆れる僕に『だから言ったじゃないか』と篁さんは口を尖らせた。


「ご飯系を水で戻そうとすると一時間ぐらいかかるらしくてなぁ……さすがに持たんよ」


 そんなにかかるんだ……

 でも、コメ食べたいって気持ちはある。インスタント食品みたいに、お湯をかけて3分でってわけにはいかないんだね。


――まぁ、今となってはお湯そのものが貴重か。


 僕はパンを齧りながら手元のバインダーを開いた。1日1枚カードがタダで手に入ることを思い出したからだ。ちなみに起動したままだった白猫リュンクスは僕の傍で丸くなって眠っていた。【気配察知】スキル、仕事してる?


『土属性ユニットピックアップ』

『土属性魔法ピックアップ』

『アイテムピックアップ』

『地形ピックアップ』


 今日は土曜日だから土属性推し。

 四種類のバナーを睨んでいると、柊さんから視線を感じた。


「どうかした?」


「『ご飯食べながら行儀悪いよ』って言おうとしてた」


「おっと、確かによくないね」


 僕は慌ててパンを飲み込んで味噌汁を喉に流し込んだ。

 ひと息つくと『……まぁ、桧川だし』と柊さんに嘆息された。なんだか諦め入っている含蓄深い声色だ。


「それじゃ、今日のカードは……」



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 名 称:封魔の結晶

 タイプ:アイテム(消耗品)

 ランク:1

 コスト:1

 特殊能力:封魔の結晶(対象:魔法ひとつ)

      ・対象が『ランク:3以下』の場合、その効果を打ち消す。


 レアリティ:R


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「どうだった?」


「う~ん、当たりだと思う」


「当たりだったら『う~ん』はいらなくない?」


 柊さんが胡乱げな眼差しを向けてくる。

 アイテムカードを引いた。アイテムを選んだのは、昨日のジェネラル戦で『魔法のロープ』が大活躍したことを思い出したからだ。アレはいいカードだ。コスト1で敵の動きを封じられるって強いし、レアリティが低いイコール引きやすいってこともある。

 なお、購入でゲットできるカードの排出率は【万象の書】の説明テキストにあった。


 R(レア):71.0%

 SR(スーパーレア):28.987%

 SSR(スーパーSレア):0.01%

 UR(ウルトラレア):0.003%


 SSR以上のカードなんて、まず出てこない。確率がカス過ぎる。

 昨日の戦いで手に入れたカードのほとんどはN(ノーマル)やC(コモン)だったけど、これらは『カード購入』では手に入らない模様。取得難易度が低いのだから自力でゲットしろってことみたい。

 今回手に入れた『封魔の結晶』は魔法のロープの魔法版。魔法のロープが相手の動きを封じるカードなら、こっちは相手の魔法を封じるカードだ。

 同名カードの枚数上限でカードに封印できなくなった魔法は、これで打ち消すことになる。コスト1でランク3の魔法まで防げるメチャクチャ使えるカードだ。

 ……とは思うものの、高レアリティのカードが欲しかったなという気持ちもある。我ながら度し難いね。


「みなさん、おはようございます! 生徒会の『円城 環』です。お休みになられている方、お食事中の方、いろいろおられると思いますが……少しだけ、私の話を聞いてください」


 壇上からよく透る声が聞こえてきた。

 生徒会長の『円城 環』先輩だ。あと少しで引退って聞いていたけど、こんな状況になったら引き継ぎもクソもないよな。かわいそうに……

 憐れみを込めた僕の視線に気づく様子もなく、会長は演説を続けている。


「状況の変化から目を逸らすことはできません。私たちが知っている平和な世界は終わりを告げました。外にはモンスターがたくさんいて、私たちに襲い掛かってきます。悪夢のような……いえ、ゲームのような世界です。でも、これは夢ではありません。この世界を生きていかなければいけません。何をすればいいのかわからない人も多いと思います。大丈夫です。すでにモンスターに戦いを挑んだ仲間がいます。彼らは、レベルを上げて戦う力を手に入れたそうです。ですので……みなさん、一緒にレベルを上げましょう!」


 みんなで一丸となって、この危機を乗り越えましょう。

 そう締めくくった会長を前に、生き残った生徒たちの反応は……何もなかった。賛同も、反論も。

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