第8話 苦みが強すぎる
眞鍋さん――この救出部隊を結成する発端となった彼女の妹さんが生存者に含まれていたことは幸いだった……と言うべきだろうか?
『男子はあっち向いてろ』と言われたので直に目にしたわけではないけれど、発見された当時の彼女たちは、とてもひどい有様だったらしい。
生存者は3人。
レイプされたと言う表現が生易しいほどの凌辱を受けていたそうだ。
柊さんと最上さんを中心とした女子メンバーが総出で身体をきれいに拭いてあげて、どこの誰のものとも知れない体操服を着せてあげてはみたものの、3人ともほとんど無反応だったとのこと。心が壊れてしまっているのかもしれない。僕は専門家じゃないから、その辺はよくわからない。生き残りの教師の中に養護教諭の薬師寺先生がいたから、あの人に任せた方がいいんじゃないかって話になった。
「……あとは、中等部の体育館だけだな」
「そうなの?」
問い返すと、護道くんは『ああ』と頷いた。浮かない顔だ。たぶん、僕も同じような表情をしている。プリムプラムを倒した後、柊さんたちが生存者の身だしなみを整えるのを待っている時間を使って、男子3人で校舎を見て回った。生存者ゼロ。どこもかしこもオークが好き勝手にやってくれていた。遠慮なく皆殺しにしてやったけど……あれだけの惨劇を見せられて、ヘラヘラ笑ってなんかいられない。
――体育館か。
引き返すってわけにはいかないよね。
そういうことで、フォーメーションをちょっと弄った。弄ったって言うほどでもない。救出した女子のうち、辛うじて歩けそうなふたりに柊さんと最上さんがそれぞれ肩を貸してあげて、残りのひとりは柊さんの【小型ゴーレム生成】で作ったゴーレムに乗せることにした。
守らなきゃならない人が3人増えて、戦力がひとり減った形になる。最上さんは突っ立ってるだけで戦力になるから戦力減にはカウントしないよ。
――いや、ちょっと違うな。
プリムプラムとの戦闘後に、僕らはレベルアップしていた。高等部メンバーと王さんはレベル4に、他の中等部メンバーはレベル3に。
それだけじゃない。
今回は、スキルのレベルも上がっていた。
レベルアップと連動しているのか、別個に熟練度的なものが設定されているのかはわからない。
このスキルレベルアップで大きな変化があったメンバーは4人。柊さん、椎名さん、最上さん、そして僕だ。
椎名さんは【射撃】の派生スキルとして【矢玉生成】が追加された。MPを消費して矢を作る能力だ。MP5で矢が5本。作成した矢は勝手に消えたりはしない。作り置きができるってことだ。常に残弾数を気にしながら戦っていた彼女にとっては待望のスキルと言ってもいいだろう。
『なんでレベル1にこの能力がないのよ!』
本人はお冠だった。気持ちはわかる。
その一方で『とにかく、これで矢を作ってあげられるわ』と口元を緩めていたりもする。後輩のことを考えてるんだろうな。矢守さんと弓削さんだったっけ?
次に最上さん。彼女は【指揮】がレベルアップして強化倍率が上昇。派生スキルとして【号令】が追加された。【号令】は4種類で、それぞれパーティー全員の攻撃力・防御力・敏捷性・魔法力を上昇させる。号令はひとつしか効果がなくて、後に使った号令が前の号令を上書きしてしまうとのこと。
『やっと私も戦えます』
最上さんはホッと胸を撫で下ろしていた。みんなが戦っている中でひとりだけ棒立ちしていたことに罪悪感を覚えていた模様。
そして、柊さん。【錬金術】に【錬成陣生成】【小型ゴーレム改造】が追加された。
特に気になったのは【錬成陣生成】だ。
このスキルを使うと地面に魔法陣みたいなのが出てくる。見た目が凄くカッコいい……のは置いておくとして、錬成陣の上だとアイテム生成の成功率が上がったり、高品質のアイテムが作れたりする。
『成功率が上がるってことは、失敗する確率があったってことか』
柊さんは身体を震わせていた。合流する前に錬金爆弾の生成を失敗していたら、きっと僕らの未来は今と全然違うカタチになっていたに違いない。ゾッとするね。
『これはいいゴーレムの使い道』
【小型ゴーレム改造】で変形したSFチックな四つ脚ゴーレム、その平べったい胴体には、救出された女子こと布袋さんが載せられている。
最初に【小型ゴーレム生成】で生成したゴーレムはゴブリンぐらいの大きさだった。ぶっちゃけ戦力として期待できない感じだったから、運搬特化のデザインへの変更はアリだ。
最後に僕は【万象の書】に【リユース】という機能が追加された。『コスト×10』のMPを消費して使用済みのカードを再使用可能状態に変化させる能力だ。これまで無駄に余らせていたMPの使い道が出てきたのは大きい。
コスト上限が6になったことと合わせて大幅なパワーアップだよ、これは!
『なんか都合がいいスキルねぇ』
『正直に言うと、墓地利用は専用のカードがあると思ってた』
『そういうもんなの?』
『そういうもんです』
役に立つから使うけどね。
椎名さんも『それでいいんじゃない?』とあっさりスルーしてきた。
何かこの人のこと、ちょっとずつわかってきたぞ。
そして、今――
「……行こうか」
「ああ」
僕たちの前には森――コボルドの巣窟が広がっていて、高等部への道が続いている。
……中等部の体育館はダメだった。
オークは全滅させたけど、生存者はいなかった。




