第7話 攻防、そして
魔王。
オークの少女プリムプラム(UR)は、そう叫んで僕を――僕の【万象の書】を睨みつけてくる。ざわりと僕らを取り巻く空気が震えた。最前列でオークと対峙している篁さんと護道くんはともかく、後のメンバーから不穏な眼差しを感じる。
ヤバいよ、この雰囲気。何か言い返さないと!
「それって僕のこと? 言葉が通じるのは意外な気がするけど、どういうことか教えてほしいかな」
あえておどけて尋ねてみたが、答えは返ってこなかった。彼女を取り巻く強そうなオークが武器を構えて前に出てくる。篁さんたちとの距離が徐々に縮まっていって、高まる緊張感のせいでピリピリと肌に痛みを覚えた。自分自身のことながら魔王なんて呼ばれるのは凄く気になる。でも、もう対話は無理だ。
そして――状況が一気に動く!
「とにかく倒せばいいだろう!」
篁さんが踏み込んで剣を振るい、わずかに遅れて護道くんが動いた。プリムプラムのバフが乗ったオークが篁さんの剣を盾で受け止めた次の瞬間、轟音とともに僕たちの背後でドアがブチ破られて強烈な殺気が襲い掛かってきた。同時に篁さんたちの真横のガラスが割れて、こちらからも大きな影が飛び出してくる!
――背後!?
それに横!?
挟み撃ちだって!?
そんなバカな!
プリムプラムたちと相対する前に、ちゃんと確認した。
隣の教室にオークはいなかった。あんなデカい図体のモンスター、いたらひと目でわかるはずだ。
なんで?
どうして!?
プリムプラムが口の端を吊り上げている。
してやったり。彼女の表情がその心情を雄弁に物語っていた。
――そうか、教室の壁をぶち抜いて回り込んだのか。
そして彼女は自らの身を危険にさらして僕らの注意を引き付けた。
やられた。今さら気づいても、もう遅い。
一瞬の油断が――
――え?
命取りにはならなかった。
パニックになりかけた僕が正気を取り戻すことができたのは、するすると僕らの間を抜けて前に出てきた小さな人影が視界をよぎったおかげ。
「疾ッ!」
中等部の王さんだった。
【気功術】が乗った強烈なキックが、篁さんに襲い掛かろうとしたオークの喉笛に突き刺さる。オークの首が変な方向に折れた。すご。
「『オーク』起動!」
我に返った僕はオークを起動し、背後のやつに押し付けてやった。オーク同士で派手にぶつかりあったところへ、中等部の近接コンビが手にしている武器を叩きつける。そこに柊さんが錬金爆弾を投げつけて、これが後ろを取ってきたオークへのトドメとなったと後で知った。
このとき、すでに僕は前に視線を戻して床を蹴っていた。
椎名さんが放った矢は、プリムプラムが生み出した炎の壁に阻まれていたけれど……篁さんは止まらなかったからだ。
「桧川!」
「任せて!」
炎の壁が光の粒子と化して僕のカードに吸い込まれていく。
驚愕に目を見開いたプリムプラムに篁さんは剣を振り下ろした。相手が人の姿をしていようが、会話ができようがまったく容赦がない一撃だった。直撃、致命傷だ。
肩からお腹にかけてバッサリと切り付けられて赤い血を溢れさせる少女に、僕はカードを掲げる。
「……君には負けたよ。でも、僕らの勝ちだ」
プリムプラムは何かを言いかけて――光に包まれてカードに収まった。
彼女は、最後に何を言おうとしたのだろう?
あとで聞こう。聞けるかな?
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名 称:オーク親衛隊
タイプ:ユニット
種 族:オーク
属 性:火
レベル:-
ランク:3
コスト:3
攻撃力:3
防御力:3
魔法力:2
スキル:【剣術】レベル1
【盾術】レベル1
特殊能力:護衛の心得(対象:このユニット)
・このユニットが戦場に存在する場合、常時発動する。
パーティに【種族:ハイオーク】のユニットが存在する場合、
対象に【攻撃力:+2】【防御力:+2】を付与する。
装備品:ロングソード
アイアンシールド
レアリティ:R
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名 称:ファイア・ウォール
タイプ:魔法【精霊魔法(火)】
属 性:火
ランク:1
コスト:3
効 果:ファイア・ウォール(対象:ユニット1体)
・対象を行動完了させる。
効果適用後、対象を攻撃するユニットすべてに
【火炎:3】ダメージを与え、行動完了させる。
レアリティ:C
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戦いは、ほんの一瞬だった。
結果だけ見れば一方的な勝利だったとも言える。
でも、戦術では完全にプリムプラムに上を行かれた。王さんがいなかったら僕はもっとあたふたしてしまって、ここまできれいに完封できなかったに違いない。
――冷静にならなきゃ……
カードゲームだって冷静さを失ったら負ける。
僕は年齢の割にはキャリアのあるプレイヤーだったと自認していた。
ダメだ、足りてない。命懸けの戦いに挑まざるを得ないこの状況では、これまで培ってきたゲームの経験だけでは足りない。
負ければ命を失うんだ。
僕だけでなく、僕を信じてついてきてくれた人たちの命も。尊厳すらも。強くならなきゃならない。レベルの話じゃない、心の話だ。
「先輩、中に人がいます! 息があります!」
最上さんの声に、俯きかけていた顔が上を向く。
教室の中を覗き込もうとして――柊さんにチョップを食らった。
冷たい声と眼差しが僕の胸を抉ってくる。え……なんでぇ……心が痛いよ、柊さん……
「男子はあっち向いてろ」
予想どおりと言うべきか、生き残っていたのは女子だけだった模様。




