第6話 僕らを見おろす、その瞳は
生き残りの救助は、まったく功を奏しなかった。
具体的に口にする事を憚るような尊厳破壊めいた死体がそこかしこに転がっていて、つい今日の午前中まで机を並べていた仲間たちの無残な最期を前に中等部のメンバーは胃の中のものを残らず吐き出して、今なお吐き気を堪えることができていない。
僕には、彼らにかける言葉を見つけることはできなかった。
――配慮が足りてなかったな。
中等部を連れてくるという判断は合理的ではあった。でも、彼らの心情を慮った判断ではなかった。
一方で探索と戦闘は目に見えてわかるほどに好調だった。
ふたつのパーティを合わせて5人の前衛で4人の後衛を守るフォーメーションで、襲い来るオークたちを徹底的に叩き潰した。篁さんと護道くんは言うことなし。オークから武器を奪った中等部が復讐に燃えて突出しがちになるのをフォローするのが一番大変だったくらいだ。
「迂闊に突撃したらダメだよ」
「すみません、先輩。でも、オレ……」
「気持ちはわかるなんて軽々しく言うつもりはないよ。でも、復讐するにしても仲間と連携した方が、たくさんのオークを倒せるからね。そっちの方がいいと思わない?」
「……それは、そっすね」
中等部の男子(【打撃】スキル持ち。野球部だったとのこと)は納得いった風に頷いてくれた。人間関係が希薄だった僕が『気持ちがわかる』なんて言っても白々しいし、友だちを殺され食われた彼らの憎悪を蔑ろにすることは言いたくない。
復讐心に飲み込まれると危ないなって思うけど……しばらく戦えば落ち着いてくれるんじゃないかとも思っている。楽観的かな?
――それにしても、生存者ゼロは厳しいな……
モチベーションを維持できないよ。
そう思って上を見上げると――黒い瞳がそこにあった。
パチクリする大粒の瞳。ショートボブの黒髪。なかなか可愛らしい顔立ちをしていて……じゃなくて!
「上、上見て! 生存者だ!」
「なにっ!?」
誰もが同時に顔を上に向けた。
沈黙、そして――
「……誰もいないぞ」
「【鷹の目】でも見えないわ。角度が悪いのかしら」
「いたの、さっき! ショートボブの女の子だ!」
「ま、まぁ……桧川がそう言うなら」
半信半疑ながらも、みんな自然と駆け足になった。
誰も助けられないか、誰かを助けることができるのか。両者の差はあまりにも大きい。僕らのためにも彼女のためにも、ひとりでも助けておきたい。この探索を徒労で終わらせたくないんだ。切実にそう願った。
ここまでの探索は1階から入って校舎を端から端まで順番にチェックしていた。途中でエンカウントするオークは、もちろん皆殺しだ。
でも、最後に残った中等部本校舎は、その方法を採用しなかった。僕が女の子を目にした3階まで一気に駆け上がった。
そして――
「いた、本当にいたぞ!」
「いや……ちょっと待て、護道」
咆哮じみた護道くんの声に、訝しげな篁さんの声が覆いかぶさった。
僕の心境は篁さん寄りだった。どうにも状況がおかしい。目の前の光景に違和感しかない。
女の子は確かにいた……のだけれど、僕たちと彼女の間に武装したオークが立ちはだかっている。ジェネラルほどではないが、雑魚オークよりは強そうなやつが2匹。まるで女の子を守っているみたいな配置じゃないか。
女の子も大概おかしい。
露出度が高すぎる。薄手の布を何て言ったらいいのか……とにかく胸の形も大きさもハッキリわかるし、おへそが丸見えだし、ズボンはスケスケだった。
つまり、彼女はアラビアンっぽい恰好をしていた。
ここ、令和の日本の学校だよ!?
「桧川……あの子、オークだ」
「……マジで?」
柊さんの呟きに、僕は自分の耳を疑った。オーク? あの子が?
どこからどう見ても人間にしか見えない。
でも、この状況で柊さんがウソをつく理由はない。僕は柊さんの真面目な性格をとてもとても信頼している。
「マジ」
そう言って、柊さんは彼女のステータスを教えてくれた。
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名 称:オークプリンセス・プリムプラム
タイプ:ユニット
種 族:ハイオーク/ハイエルフ
属 性:火
レベル:1
ランク:2
コスト:2
攻撃力:2
防御力:2
魔法力:2
スキル:【テイマー】レベル1
【精霊魔法(火)】レベル1
特殊能力:紅玉の王女の進軍 (対象:自軍パーティのユニットすべて)
・このユニットが戦場に存在する場合、常時発動する。
対象が【種族:オークあるいはビースト】の場合、
【攻撃力:+2】【速攻:+2】を付与する。
紅玉の王女の出陣(対象:このユニットのプレイヤー)
・このユニットが戦場に存在する場合、常時発動する。
戦場に【種族:オークあるいはビースト】が配置されるたびに
対象は山札からカードを1枚引いてもよい。
装備品:なし
※1枚制限
レアリティ:UR
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――UR! 1枚制限!
最高レアじゃないか!
その言葉を、どうにか飲み込んだ。
いくら何でも空気読めてなさすぎるしね。
「桧川……」
柊さんの視線が冷たい。
ダメだ、顔に出てたっぽい。
ポーカーフェイスの練習しなきゃ……
「……魔王!」
言い訳を考えていた僕の鼓膜を、甘味が強くてイマイチ威圧感のない声が貫いた。
その声は、相対している美少女ことプリムプラムのものだった。
――魔王!?
おいおいおい、なんてファンタジックな響きなんだ!
【勇者】な一之瀬くんがいるのだから、魔王がいてもおかしくはないけれど……いくら何でも世界がファンタジーになった初日でラスボスと遭遇なんてクソゲー極まりすぎだろ!
何なの、負けイベントなの!?
運営、返事しろ!
「みんな、警戒!」
全力で叫んだら、プリムプラムが怪訝な表情を浮かべた。
彼女の瞳は僕を――僕が手にしている【万象の書】を睨みつけていた。
重い沈黙があって、空気は肌を刺すようにピリピリしていて、頭の中が真っ白になりかけていた僕は、ハッと我に返った。
――え?
魔王って僕のこと!?
な、何でそうなるのさ!!!!!




