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終末の鐘が鳴り響く、この空のもとで ~ゲームみたいになった世界で、僕はカードを手に無双……無双は出来てないな?~  作者: 鈴木えんぺら
第1部第2章

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第5話 ひと休み、ひと休み

 警戒を解いたカンフーな女の子は『王 白鈴(わん ぱいりん)』と名乗った。中等部の三年生でスキルは【格闘術】と【体術】、そしてエクストラスキル【気功術】とのこと。

 護道くんに続くスキル3つ持ちだ。つよい。


「【気功術】はHPを消費してステータスを引き上げたり、傷を癒したりできるの」


 自分にしか使えないけど。

 肩をすくめる王さんに続いてセミナーハウスに入ると、座り込んでいる中等部の生き残りが3人いた。

 僕らを見上げてくる顔には、安堵と不安が入り混じっている。無理もない、僕らだって似たり寄ったりの有り様なんだ。後輩の前だから強がっているだけだよ。


「私たち、グループワークでここに来ていて……いきなりモンスターが出てきたので籠城してたんです」


 そう言ったのは『最上 乃愛』さん。何となく委員長っぽい雰囲気な彼女のスキルは【指揮】で、突っ立っているだけでパーティメンバーのステータスを向上させることができる。護道くんの【カリスマ】と同じようなスキルみたいだ。

 残りのふたりは【打撃】と【槍術】だった。前者は野球部員、後者は薙刀の経験があるとのこと。


「全員レベル上がってるんだ、凄いね」


 やるじゃん、中等部。

 感心したのは僕だけじゃなかった。

 脳裏に浮かんだのは、口だけ煩い高等部の連中だ。

 僕らがこっちに来ている間に、あっちでレベル上げとかやっててくれないかなぁ?


――やめやめ。この思考は不毛すぎる。


 ドアに厳重に鍵を掛け、僕らも腰を下ろした。

 体育館への撤退戦からコボルドの森を突破して、なんだかんだで疲労が溜まっている。

 お互いの状況――高等部が備蓄食料を有する体育館に避難したことや、それぞれのスキルなどを説明しあった。なお、相変わらず僕の【万象の書】については要領を得ない顔をされてばっかりだ。唯一『つまり、何でもできるスキルってことですね』って言ってくれた最上さんだけは理解してくれたみたい。

 何でもはできないよ、できることだけだ。

 そして――


「甘いもの、助かる~」


 王さんの笑顔が弾ける。

 重苦しかった室内の空気が、ふわりと軽くなった。

 僕が背負っていたリュックに入っていた羊羹をみんなでわけたのだ。

 この羊羹は、中等部救出に当たってミネラルウォーターのペットボトルと一緒に円城会長から託されたもの。備蓄食料の一部だ。


「ホントだね」


「羊羹、別に好きじゃないのに食べちゃうわ」


「がっついちゃダメだよ、喉が詰まっちゃうから。水も飲んでね」


 疲れたときには甘いもの。

 わかっちゃいたけど、こんなにありがたいなんて。

 口の中に広がる甘味に、疲れ切っていた全身が喜びを訴えてくる。

 甘いものなんて絶対に食べなさそうな護道くんすら、無言でバクバク食べていた。

 ペットボトルの水を回し飲みしながら、みんなせっせと羊羹を身体に詰め込んでいく。間接キスだなんて言っていられない。

 ……気にしているの、僕だけかな?


「えっと……最上さんたちはここで立て籠もってたってことは、校舎の方は?」


「すみません、そこまでは……」


 最上さんは項垂れてしまった。

 言い方が悪かった。そんな顔をさせたいわけじゃない。


「気にすんな。お前らは十分にやれることをやっている。胸を張れ」


 護道くんの慰めに中等部メンバーは『ありがとうございます』と頷いていた。羊羹パワーと合わせて、ほんのりと顔に生気が戻ってきたように見えた。仲間を助けに行けなかった自分たちを、心の中で責めていたのかもしれない。

 こういう時に気の利いたことを口にできる人、カッコいいよ。


「……で、これからどうするかという話になるんだが」


「4人を保護して引き返すか、当初の予定どおり校舎を見に行くか、だよね?」


 柊さんが言うなり、全員が僕の方を見た。

 体育館で凝視されたときほどではないにしても、視線からプレッシャーを感じる。

 今回の救援パーティの言い出しっぺは僕だったとは言え、いつの間にかリーダーに祭り上げられていた。

『なんでこのメンバーで僕が?』って今でも思っている。

 その一方で『みんなが認めてくれている以上、僕が決めなきゃ』とも思っている。 相反する気持ちが心の中に同居している。いつまでも『僕はボッチだから』とか『他人なんかどうでもいい』なんて言っていられない。僕は、みんなの命を預かっているんだ。


「……全員で中等部の敷地を見て回ろう」


「全員でか?」


「うん。中等部をここに残しても、オークが来たらさっきと同じ状況になる。一緒に来てもらった方が守りやすい。あと、凄く言いにくいんだけど……生き残りがいたとして、僕らだけだと、その人たちを守りながら戦うのは難しいよ。ここと行ったり来たりするのは時間がかかりすぎる。だったら、その人たちは中等部にカバーしてもらって、僕ら高等部は戦いに専念した方がいいかなって」


 言いにくかったのは生き残りが無事でいる保証がないからだ。

 ゴブリンにせよオークにせよ、僕が実際に見たことやほかの人から聞いたことを繋ぎ合わせると、どいつもこいつも『男は殺せ、女は犯せ』な行動をとっていると考えて間違いない。つまり、生き残りはレイプ被害者かつ女子の可能性が高い。

 そんな人たちに『足手まといだ。すぐ戦え、レベルを上げろ』とは言いづらい。

 彼ら……いや、彼女たちを守る人手がどうしても必要で、それを中等部に受け持ってもらいたい。


「……妥当だな」


「ああ、俺も異存はねぇ」


「桧川って、意外とやるじゃない」


 三者三様の答え。

 言葉にしなかったメンバーも頷いてくれている。

 どうやら僕の選択は、みんなのお眼鏡に適ったらしい。ちょっとホッとしたよ。


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