第4話 森を抜けて
高等部と中等部の間には森があって、道があって……誰からと言うこともなく、その入り口の前で足が止まった。
さっきからリュンクスが頬に猫パンチしてくる。
【気配察知】に何か引っかかったのだと思った僕は周囲を見回してみたものの、ゴブリンもオークもいなかった。
つまり――
「森に何かいるな?」
「モンスターだろうね」
「他に考えられねぇだろ」
護道くんが吐き捨てて、みんなで頷いた。
森は鬱蒼と木々が生い茂っていて視界が悪い。モンスターらしき姿は見当たらないけれど……何かいることは間違いない。リュンクスを信じるよ。
――森のモンスター……エルフとか?
エルフは人間枠?
それともモンスター枠?
エルフだったら仲間になってくれないかなぁ。
――いや、待て。
希望的観測は禁物だ。
リュンクスの反応を見るに敵対的な存在と考える方が無難だ。
「先頭は篁さん、その後を僕、柊さん、椎名さん。一番後ろを護道くんでどうかな?」
「このメンバーだったら、そのフォーメーションよね」
うんうん頷く椎名さん。
僕は聞き忘れていたことを確認する。
「椎名さん、【鷹の目】って使いながら動けたりするの?」
「……できるようになるはずって矢守が言ってたけど、まだ慣れてないの」
「了解。僕らの目的は中等部だから、ここは一気に駆け抜けよう」
指示を出しているのは僕だ。
『有名人だらけのこのメンツで、なんで僕が?』って体育館を出てから何度か問いかけてみたけれど、みんな『お前が言い出しっぺだろ』の一点張りだった。言い争っている時間がもったいないから、流れで僕がリーダーをやることになって現在に至る。
――今のところ、何の問題も起きてないな。
空を見上げると――まだ、かなり明るかった。
日が暮れるまでには時間があるにしても、モタモタしているほど余裕があるわけでもない。
覚悟を決めて通路に足を踏み入れると――
「せいッ!」
篁さんがいきなり長剣を一閃。
なにかが地面に落ちる音がした。チラリと目をやると、真っぷたつにされた矢だった。短めの矢だけど、矢尻が鋭い光を放っている。
「森から撃ってきた!?」
奇襲?
リュンクスの【気配遮断】が効いてない?
疑問を浮かべた僕の前方、頭上から飛びかかってくる小さな影がふたつ……いや、3つ。どれも小さい。ゴブリンじゃない。
「邪魔だ!」
篁さんが剣を振るう。
倒されたモンスターは光の粒子となって僕のカードに封印されていった。
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名 称:コボルド・レンジャー
タイプ:ユニット
種 族:コボルド
属 性:土
レベル:1
ランク:1
コスト:1
攻撃力:1
防御力:1
魔法力:1
スキル:【気配察知】レベル1
特殊能力:なし
装備品:なし
レアリティ:N
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「【気配察知】を持ってる! 【気配遮断】が相殺されてるんだ!」
「そういうことか!」
コボルド。
犬の頭を持った二足歩行のモンスター。
ゴブリンやオークに負けず劣らずファンタジー定番の雑魚だけど、よりにもよって【気配察知】を持っているなんて!
正反対のスキル同士が打ち消し合って、僕らは丸見えになっている模様。おそらく【射撃】を持った個体もいるに違いない。ステータス的には矢を食らっても耐えられそうな気がするけれど、ワザワザ試したいとは思わない。
「こっちからも撃ち返してやるわ!」
「椎名さん待って! コボルドは無視して通過優先で! ここで矢を使ったら回収できない!」
「もう、わかったわよ!」
納得してくれてよかった。
椎名さんは貴重な遠距離攻撃要員だけど、矢の数には限りがある。
僕らの目的が中等部の救援である以上、ここでの撃ち合いは無意味な消耗にしかならない。
矢を回収するためにコボルドだらけの森の中に踏み込むのは、危険極まりないからね。
僕はオークを起動して並走させた。文字どおりの肉盾だ。
「あの矢はカードにできねぇのか?」
「……ごめん、ダメっぽい」
「わかった、走れ!」
前から突っ込んでくるコボルドを、片っ端から篁さんがぶった切っていく。
這う這うの体で森を抜けたところで、椎名さんがポツリと呟いた。
「桧川のオーク、ハリネズミみたいになってるわよ」
「囮みたいなもんだから、別にいいよ」
「便利なスキルねぇ」
集中攻撃を受けたオークが消えた。
手にしていたオークのカードは、イラストが白黒になっていた。
雑魚ユニットが死んでもたいして困らない。色彩を失ったカードはクールタイム(ランク×日数)が経過すれば、また使えるようになるのだ。
「ひ、桧川、あそこ! セミナーハウス見て!」
今度は何なのさ!?
柊さんの声に顔を上げると、小さな建物の入り口にオークが殺到していた。中に入ろうとしているように見えて……そのうち一匹が不自然な姿勢で後ろに跳ね飛ばされた!
「誰か戦ってる!?」
「生き残りか! お前ら、行くぞ!」
言うなり駆け出す護道くん。
その後に篁さんと椎名さんが続いて……僕と柊さんが最後列。
突撃の指示は出してないけど、息が整っていたら同じことを口にしていたから問題なし!
「た、体力ゴリラどもめ……」
柊さんの悪態には同意せざるを得ない。
護道くんと運動部ふたり、体力ありすぎるだろ!
なお、体力ゴリラもとい篁さんたちが加勢したおかげで、僕たちが辿り着くころにはオークは全滅していた。
セミナーハウスの入り口に立っていたのは……小さな女の子だった。艶やかな黒髪をツインテールにしていて、僕よりも背が低い。
何より特徴的だったのは、カンフー映画みたいな構えをしていること。
油断なく僕らを見据える眼差しは、ちょっと釣り目気味で鋭い光を宿している。
「……誰?」
「はぁ、はぁ……君は中等部だよね? 助けに来たよ」
息が苦しい。むしろ僕を助けてほしい。
その本音を飲み込んで、どうにかこうにか言葉を絞り出した。
果たして――反応は劇的だった。
助けに来たと言った瞬間、目の前の少女が纏っていた空気が緩んだ。目尻にわずかに涙が滲んでいるようにも見えた。
そこに触れるべきではないと思った。
感極まった少女の声が、僕らの耳朶を震わせる。
「高等部の先輩たち……来てくれたんだ」




