第3話 新パーティ結成!
「……桧川が?」
訝しげな声を上げたのは、一之瀬くんだけではなかった。
ほかの生徒たちもひそひそと僕の方を見ては『なんで桧川?』とか『何カッコつけてんの、アイツ?』とか好き勝手に言っている。
篁さんと柊さんの方から不穏な気配を感じた。怖くて視線を向けられない。
――でも……まぁね、そうなるよね。
カチンとくる一方で、妥当な反応だと納得している僕がいる。
今日の昼過ぎ、異変が始まるまでの僕は積極的に誰かと関わることを避けていた。 大半の人間にとって『桧川 拓郎』とは『なんかよくわからん陰キャ男子』程度の認識でしかなかったに違いない。
対して一之瀬くんはもともと有名人だったうえに【勇者】スキルで体育館までの道を切り開いてきたヒーローだ。わかりやすく、超強い。信頼度に格差があるのは致し方なし。
ため息をつきかけた僕の肩に、ドスンと重みがのしかかった。
「そんな顔すんな。肩を並べて戦った俺が保証してやる。一輝、コイツらはかなりやりやがるぞ」
「竜司?」
謎の擁護が降ってきた。
ヤンキーな外見とは裏腹に一之瀬くんの親友でもある護道くんの言葉に、当の一之瀬くんは戸惑いを隠そうとしない。
今まで目にしたことがない表情で僕と護道くんを交互に見やっている。
――レアだな。
感心しながら、僕は護道くんを見上げた。
オークをぶん殴っていたから格闘系のスキルを持つアタッカーだと思うけど、確認は必要だ。
「護道くんって、どんなスキルなの?」
「【格闘術】と【体術】と、あと……【カリスマ】だ」
カリスマと口にする前に、わずかな間があった。
わかる。『俺はカリスマだ!』とか言いにくいよね。ときどきテレビとかで見る『カリスマ○○』って肩書きの胡散臭さと来たら……
でも、僕は護道くんらしいスキルビルドだと思った。
一之瀬くんを中心に顔が広そうだし、舎弟もとい友人から慕われていそうな雰囲気あるし。
「それで? 【カリスマ】って、どんな効果?」
「突っ立ってるだけでパーティ全員が強くなるんだと」
「オーク・ジェネラルみたいに?」
「ブタと一緒にすんな」
「あ、うん」
こうして話してみても、つっけんどんだが危ない感じはしない。
見た目の威圧感とは裏腹に『いい人』なんだろう。
なんか、こう、自分と比較すると凹むね。
右も左もいい人ばっかりだよ。
「じゃあ、私も行くわ」
いきなり割り込んできたのは――『椎名 月渚』さんだった。
ロングストレートの黒髪とスレンダーな体型、涼やかな眼差しと声を持つきれいな人で弓道部員の二年生。彼女の手には弓があって、後ろには同じく弓を手にした生徒――弓道部の後輩らしき一年生がふたり控えている。
こちらは僕とは縁もゆかりもない人で、正直びっくりした。予想外にもほどがある。
「スキルは【射撃】と【鷹の目】よ。【鷹の目】は上の方から見えるようになるの」
「俯瞰視点ッス、先輩!」
ふわっとした説明に後輩からフォローがあった。
武器は弓矢なので残弾数の制限はありそうだけど……前衛に【格闘術】を持つ護道くん、後衛に【射撃】を持つ椎名さんが加われば、パーティとしてきれいな形になる。
でも――
「どうして一緒に来てくれるのか、聞いていい?」
問いが勝手に口を突いて出た。
僕は椎名さんのことをほとんど何も知らない。
話したことがない人、なにを考えているのかわからない人。
この状況でおかしなことを企んでいるとは思わないけど、外に出るイコールモンスターとの戦いになるイコール命懸けだ。
いや、違う。彼女も篁さんたちと同じで尊厳まで懸けることになる。理由を聞かずにはいられなかった。
「別に。助けられる人は助けた方がいいでしょ。ここで行かずに後で悔やみたくないし、どのみち放っておけない。それに……誰かを見捨てる奴は、いずれ誰かに見捨てられるって思ったの。これで満足かしら?」
早口でズラズラと並べ立てて、プイっと横を向いてしまった。
中等部救援賛成組の生徒たちから歓声が上がったのは、椎名さんの言葉が自分たちを擁護してくれていると感じたからだと思うけど……彼らを見る椎名さんの眼差しは冷ややかで、鋭かった。
――勘違いしているよな、あの人たち。
椎名さんには、彼らに与するつもりはなさそうだ。
彼女の言うところの『誰かを見捨てる奴』って……きっと、ここで何もしようとしない人全員を指している。要は『グダグダ言ってないで動け、働け』って言いたいんじゃないかな。
特に妹の救援を口にした眞鍋さんに。
「いや、待て。ちょっと待ってくれ」
とんとん拍子に決まる話に置いて行かれ気味になっていた一之瀬くんが我に返った。
最初に『行く』って言い出したのに、この展開はちょっとかわいそうかも。
前に出てこようとする一之瀬くんを、護道くんが押しとどめる。
「一輝、お前はここを守れ」
「竜司……」
「中等部を助けたいって気持ちは正しい。お前らしいよ。でもな、ここを守る必要はあるんだ。ここが墜ちたら俺たちはどうなる? 飯もねぇ、水もねぇ、寝るところもねぇ……雁首揃えてモンスターのど真ん中に放り出されちまうんだぜ」
「それは、そうなんだが……」
噛んで含めるような物言いの護道くんに、一之瀬くんはなおも食い下がる。
護道くんが、いきなり僕の方を見た。目力つよッ!
「さっきも言ったが、コイツらはかなりやる。俺も行く。椎名は……まぁ、椎名だ」
「……何が言いたいワケ、護道?」
「頼りにしてるってことだ」
護道くんはニヤリと笑う。
一之瀬くんが僕を見た。僕と彼はまったく話したことがない間柄……ではない。綾香がらみで何度か言葉を交わしたことはある。
たいしたことじゃない、形だけのあいさつみたいなものばかりだ。
それだけの関係だ。別に仲がいいわけじゃない。
『口うるさい従姉妹がご面倒をおかけしてます』と頭を下げようと思ったことはあるけどね。
「いいのか、桧川? 大丈夫なのか?」
「断言はできない。まぁ、最善を尽くすつもりではいるよ」
「一輝、ここはお前が守れ。おい、風間と馬場。一輝のパーティに入ってお前らも戦え」
「「うっす」」
舎弟もとい風間くんと馬場くんが前に出てきた。
どちらも護道くん(たぶん身長190センチ近い)に負けず劣らずの巨漢で強面だ。スキルは【精霊魔法(風)】と【騎乗】とのこと。
【騎乗】は乗り物に乗っていないと効果を発揮しないそうだけど、レベル1に上がっているならゴブリンぐらい蹴散らせるはずだ。
「弓削と矢守も一之瀬くんのパーティに入れてあげて」
椎名さんの後ろにいたふたりは、どちらも弓道部の一年生で【射撃】を持っていた。
一之瀬くんパーティは……ちょっと前衛に不安がありそうかな。【勇者】が強いから何とかなるはず。なると思いたい。
「……ってことで行ってくるわ。帰ってきたら全滅してましたってのはナシだぜ?」
「それは俺のセリフだ。絶対に生きて帰って来いよ」
「ああ」
護道くんと一之瀬くんが腕をぶつけ合った。
あの仕草、なんて呼ぶのか知らないけれど、ふたりがやるとやたらと絵になるなぁ。
存在感が違うって言うか、華があるって言うか……う~ん、一応僕が最初に手を挙げたんだけど(一之瀬くんを除く)。
「桧川、頼りにしているぞ」
そっと耳元に吹きかけられた篁さんの囁きが、僕の胸の奥に蟠っていたモヤモヤをふーっと優しく吹き飛ばしてくれた。ヨシ!




