#008「犠牲」
晩餐会が終わり皆が出て行った後、王と二人きりになった。
王「レグス殿、まだ召喚されて間もない今、お疲れのところ申し訳ない。
だがどうしても話しておきたいことがあるゆえ
今しばらく付き合ってほしい。
ところで、その頭になっている黒豹という動物はご存知か?
実はな、我らの世界にはそのような動物はおらぬのだ。
伝承には、その動物の詳細についても含まれておらぬ。」
レグス「そうなのか。
我が元居た世界には実在した。
“こくひょう”ではなく“くろひょう”と呼ばれていた。」
王「そうであったか。
一度見てみたいものだ。」
レグス「エイブン王、我も気になることがある。
先程、黒豹王の召喚は国家機密と申されたな。
この城の大きさでこの人数とは驚きだが、これだけ減れば怪しまれるのではないか?」
王「その通りだ。
何かが起きていると思われかねない。
だからこの召喚に合わせて本当に信頼できる者達を選別し、
それ以外の者の多くは、今は一時的に城外で働いてもらっている。
1年ほどかけて少しずつ転属させて、徐々に城内の人数を減らして来た。
その一環として、この時のためにわざわざ別荘まで建築して、
そちらで多くの者が妻の世話をしている。」
レグス「そうか、そちらに王妃殿下が滞在されているのか。
是非一度お会いしたいものだ。」
王「・・・う、うむ。
また機会があればな。」
なぜか少しエイブン王の表情が曇ったように見えた・・・。
王「このような小細工をしても人数がここまで減れば怪しまれるのは必然。
だが何が起きているかまでは悟られまい。
とにかく黒豹王の召喚を敵国に知られるのを1日でも遅らせるための時間稼ぎに過ぎぬが、
このような召喚が成功したと知られれば何を仕掛けてくるか分かったものではない。
今から召喚における重要な場所に案内しよう。
さあ、こちらへ。」
俺は王に案内されるまま部屋を出た後、しばらく歩くと何やら小さな扉の前についた。
王「ここだ。」
王はそう言うと横にあった燭台を持ち上げ、ロウソクに火をつけて扉を開いた。
王「ここから先はかなり暗い上に階段が続く。
足元に気を付けて参ろう。」
扉の先には暗く螺旋状に続く階段が下へ続いていた。
空気が流れない場所のせいか少しカビくさい。
怪しい雰囲気の中、階段を抜けた先にまた扉があった。
王「着いた。中に入ろう。」
王に続いて中に入ると、多くの燭台に照らされた祭壇のような物があった。
レグス「あっ!!」
その祭壇の上部中央を見て思わず声を上げてしまった。
全身が大量の血にまみれている一人の男性の遺体がそこにあった。
王「驚かせてすまない。
あれが我が父レイブン・フォン・コルニールなのだ。」
レグス「・・・・」
王「このような姿になっているのには理由がある。
彼の血が黒豹王の召喚に使われたのだ。」
レグス「召喚に・・・使う?」
王「そうだ。
黒豹王の召喚にはコルニール王族の血が必要なのだ。
それも少量ではない。
軽く致死量を超える大量の血だ。」
レグス「・・・。」
王「我がコルニール王家では親から子へ、黒豹王に関する伝承を口伝えすることが伝統となっておる。
黒豹王の召喚方法やその犠牲についてもだ。
そしてその伝承の中で、この王家において黒豹王の召喚を担う役目のある人物は
生まれる前から決められていると聞く。
そして事実・・・我もそうであった。」
レグス「・・・ ・・・。」
王「我には物心ついた時から自分に重大な役目があることを認識し、
しかもそれが黒豹王に関わるものであることがなんとなく分かっていた。
伝承によれば黒豹王を召喚できるのは千年に一度。
しかも決まって『厄災』が現れる時だという。」
レグス「厄・・・災・・・。」
王「そうだ。
我は自分に与えられた役目のために自分の近親者誰か一人を犠牲にしなければならなかった。
そして・・・
我が父が自らその名乗りを上げた。」
レグス「・・・。」
王「父は『老いたこの身を国のために捧げられるなら本望』と言っていたが、
これ以上捧げる必要が無いほど
彼は国のために粉骨砕身戦い続けてきた人生だった。
ものの例えなどではなく、本当に彼は戦ってきたのだ。
いわゆる戦争だ。
我が隣国『ブランダール王国』とのな。」
レグス「ブランダール王国?」
王「そう。我が国と長年にわたり戦争を続けている大国だ。
我の代でもしょっちゅう小競り合いはある。
だが聞くところによれば、
近年で最も苛烈を極めたのは我が父の代だったという。
事実、我が幼い頃より1年の半分以上は家に帰らなかった。
戦争のための遠征に前線まで出ていたのだ。
軍略や武芸にも優れ、勇猛果敢なその姿を称し
『賢武の王』と民に慕われ
広く国内外にその名を知らしめていた。」
レグス「素晴らしい御仁であったのだな・・・。
我が召喚の犠牲となる前に、一度お話ししたかった。」
王「そうか、主にそう言われれば父も喜ぶであろう。」
エイブン王はそう言うと、祭壇の前まで行きひざまずいて両手を組んで
召喚の犠牲となった父レイブン前王に祈りを捧げた。
言わずもがな、
レグスも同様に後に続いた。
エイブン王とレグス「・・・ ・・・ ・・・」
どれほどの時間目をつぶって祈っただろうか。
(レグス・・・レグス殿)
!!
(この国のことを・・・よろしく頼みましたぞ)
レグス「はっ!!!」
レグスは驚愕し立ち上がった!
突如声が聞こえた!!
少ししわがれた男性の声だった。
レグス「い・・・今声が!」
王「声?・・・わしには何も聞こえなんだが。」
レグス「少ししわがれた声で『この国のことをよろしく頼む』と。」
王「なんと!!
・・・我が父の声かもしれぬな。」
俺には霊感などない。
しかし、信じざるを得なかった。
このような声が聞こえたのは、間違いなく加護の影響だろう。
レグス「レイブン殿、しかと任されました。
あなたの武勇には遠く及ばないまでも
我が力、この国のために使わせて頂く。」
レグスはレイブン前王の最初で最後の言葉をかみしめながらそう言った。
王「うっ・・・
そなたにそう言ってもらえて・・・
少しばかり会話もできて。
父も大変喜んでおられるはずだ。
本当に良かった。」
王は涙を流した。
しばらくして王が口を開いた。
王「明日、国に前王の崩御について触れを出す。
後日、国葬を執り行う予定だ。
なにしろあの『賢武の王』の国葬であるからには、それなりのものにしたい。
本当ならば、黒豹王のそなたに国葬を飾って欲しいところだが、
そういうわけにもいかぬ。」
レグス「いや、我はここで別れを告げることができて良かった。
お言葉も頂いた。
国葬の役に立てないのは残念だが、十分満足している。」
王「そうか。ならば参ろう。」
エイブン王もレグスも、もう一度祭壇に向かって深く礼をしてから
レイブン前王を目に焼き付けるように見つめて
その場を後にした。




