#006「まじまじと・・・」
神聖な儀式を終えた俺は、大きな窓に近づいた。
「なんと!・・・これは壮観だな!」
眼下に広がっていたのは世界遺産で見るような美しい街並みだった。
ビルやコンクリート、アスファルトなど近代的な構造物が無いことで
心に染み入るほどの情緒ある街並みがそこにあった。
オレンジ系の色を基調とした美しい屋根、優しいパステルグリーンの窓枠。
趣のある石畳の路面。
街を優しく包むように鮮やかな緑の木々が伸びている。
はるか遠くには高くそびえる城壁らしきものが見えた。
しばらく時を忘れて、この贅沢な風景を楽しんだ。
景色を十分に堪能した後、
俺はふと、自分がとんでもない体に生まれ変わってしまったことを思い出した。
はっきり言って引くほどの体つきである。
何を思ったか、少し力を試したくなった。
おもむろに床に手をつき腕立て伏せをしてみる。
!!!!
全く重さを感じない。
この巨体を持ち上げるのは並大抵ではないはずだが、
何の抵抗もなく体が持ち上がってしまう。
元の体で味わったことのない感覚に衝撃を受け、
夢中で腕立てを繰り返し
気が付けば100回を超えていただろうか?
ほとんど息も乱れていない。
これは・・・俗に言う「チート」なのでは?
と思った。
「っと、こんなことをしてはいられない。
今の内に風呂場へ行っておこう。」
俺は部屋を出て、アモンに教えてもらった風呂場へ足早に向かった。
「お~、ここか・・・よし、誰もいない。」
入口を入ると簡易的な脱衣所があり、早速服を脱ごうとしたのだが・・・
なにぶん見たことも無いような衣装でどう脱げばいいのかも分からず、
おまけに筋肉が張っていて余計に脱ぎにくい。
焦りながら悪戦苦闘してようやく脱ぐことができたのも束の間
「なんじゃこりゃーー!」
大きい。
あそこが・・・元の自分のモノとは似ても似つかなくなっていた。
「し・・・信じられん。」
もしここに人がいたら、豹頭の大男がポカーーンと大きな口を開け、
己の股間を凝視しているその様がどれほど異様に映ったかは言うまでもない。
衝撃、と同時に大きくなったことに対し少しだけ嬉しいと思ってしまうのは男の性なのだろうか。
加護の力で何とか平静を取り戻した俺は
ようやく脱衣所の先にあった扉を開いた。
「お~、これはこれは。」
美しい石造りの風呂場だった。
サイズはさほど大きくないが床から壁、浴槽に至るまできれいな石の文様が出ている。
四隅には大きな木の柱が立っていて、その上には木製の屋根がある。
半ば露天風呂のようになっていて、開放感があって気持ちいい。
浴槽に近づいてお湯に手を触れてみる。
「ん?なまぬるい・・・
それはそうか・・・電気やガスがあるわけでもなし。」
と思ったが、浴槽の端になにやら管があることに気づいた。
その管に木製のついたてのような板が挟まっていた。
「ん?なんだこれは?」
少し恐る恐るその板を外してみると、温かいお湯が出てきた。
「おおおお!」
どうやら少し離れた所でお湯を沸かしていて、入浴者が適宜必要量だけお湯を入れるというシステムらしい。
浴槽のそばに木製の桶があったので、温かいお湯をすくいながら体を流した。
恐る恐る、獣と化してしまった頭にも湯をかけたのだが、
「うわ~、なんか変な感覚。」
毛が水分を吸って重くなりあまり気持ち良くない。
体をブルブルと震わせてすぐに水分を飛ばしたくなる犬や猫の気持ちが分かる気がした。
周りを見回したが、現代のシャンプーやボディーソープにあたるような代物は見当たらない。
お湯を止めて、仕方なくかけ湯のみで湯船につかることにした。
「ああああ、気持ち良い♪」
風呂無しのアパートで生活していた自分にとって、湯船につかれること自体が嬉しく、
もはや贅沢な行為なのだ。
気持ちの良い外気も感じながら、心ゆくまで異世界銭湯を楽しんだ俺は湯船を出た。
ふと、壁際に鏡があることに気づいた。
周りに誰もいないことを再度確認して、自分を映してみる。
改めてとんでもない体だ。
ボディービルダーの嘘のような体・・・が一番近いだろうか。
恐らく身長はゆうに2メートルを超え、体重も軽く150キロオーバーだろう。
体の全ての部位の筋肉が異常なほど盛り上がっていて、人に恐怖を与えるには十分過ぎる造形だ。
黒豹王を作った女神は筋肉フェチでもあったのだろうか?
そして鏡に近づいて、間近で改めてまじまじと頭を見てみた。
黒豹なので黒い毛で覆われているが、
よく見るとそれだけではないことに気がついた。
かなり分かりにくくうっすらとだが、グレーのような毛もあり、
ところどころまだらで豹柄になっていることが分かった。
そして核心部分に迫る。
動物の頭と人間の体の境目部分だ。
首を見てみると黒豹の黒い毛が徐々に薄くなり、
グラデーションのように人間の胸毛に変わっていた。
「なるほど・・・上手いことできてるな。」
そして一通り観察し終えたところで、鏡に映った体を見ていて、
俺はやらずにはいられなくなってしまった。
「ふん!・・・ふん!」
ボディービルダーのようなマッチョポーズを決める!!
俺が元の世界でどれほど筋トレを頑張ったところで、
こんな体を手に入れられることはあり得ない!
「すごい!!・・・これはすごいぞ!
ここも!・・・ここも!!
なんて体だ!!
ふん!!
ふん!!
いいよ!
キレてるよ!
デカいよ!
パワーーーー!!」
男なら誰もが憧れるような体になってしまったことで、
訳の分からないテンションに突入した
元中肉中背男性の掛け声はしばらく続いた・・・。
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レグスが鏡の前でマッチョポーズを決めに決めまくっていた頃・・・
同時刻・・・
とある部屋。
???「まさか・・・まさか!!
本当に実在するのか?
あんなこの世ならざる存在が!
黒豹王などただの伝承ではなかったのか?
今でも自分の目で見た物が信じられない!
一体どうすれば・・・
とりあえず陛下に報告するしかない。」




