#003「女神」
謎の声「黒豹王の加護です。
この加護がある限りあなたの言動は全て黒豹王に相応しいものへと補正されます。」
?????
急に頭の中で声がした!
ただでさえパニックになっている現状なのに次は何だ!?
またしてもキョロキョロと、今度は虚空を見て目を泳がせる俺を見て、
王「ん?・・・どうなされたか黒豹王殿?」
俺「いや、今声がしなかったか?」
王「声?いや、我は聞いていないが、それは一体どのような?」
俺「女性の声で、黒豹王の加護があるからどうとか・・・」
王「おい、皆の者。今しがた女性の声が聞こえた者はおるか?」
皆顔を見合わせては首を横に振っている。
どうやら誰一人聞こえていないようだ。
謎の声「それは当たり前です。あなたの頭の中に直接語りかけているのですから。」
俺「いい加減にしろ!気味が悪い!何者だ!?」
王「黒豹王殿、誰と喋っておられる!?一体どうなされたのだ?」
王がそう言い終わるや否や部屋の中に大きな光が現れた。
「なっ、なんだ!?まぶしい!!!」
「くせ者!くせ者だーーー!!」
ケイラス「アモン!すぐに陛下のそばへ行けー!」
アモン「合点承知ーー!!」
謎の声「焦らずともよいのです。私はある一人の女神。
少なくとも黒豹王の召喚にほんの少し関わっています。」
皆唖然とした。
宙に浮かんでいるまばゆい光から女性の声がしたのだ!
謎の声「すみません。少しまぶしすぎるようですね。」
そう“光”が喋ると、少しずつまぶしさが和らいでいった。
皆あっけに取られ、ポカンと口を開けたままその光を凝視している。
真っ先に我に返ったのは王だった。
王「今『女神』と申されましたか?それでは我々の願いを叶えて頂いたのはあなたなのですか!?」
女神「そう、とも言えるし、そうではない、とも言えます。私はただ『承認』しただけなのです。」
王「承認?」
女神「あまり詳しいことは言えません。神も“世界規約”に従わざるを得ないのです。」
俺「これはどういうことだ!?規約とはなんだ?これは夢なのか現実なのか!?」
女神「残念ながら現実なのです。」
俺「!!!!!!」
俺は次の言葉が出ずに凍りついてしまった。
女神「あなたはとても低い確率の中で、偶然にも『抽選』に選ばれました。」
俺「は?抽選???一体何のことだ?そんなものに応募した覚えはない!!」
女神「そうです。誰一人応募者がいない抽選なのです。
ですが、厳正で公平な抽選の結果、あなたが偶然にも選ばれました。」
俺「公平??応募もしていない物に当選して何が公平だ!!冗談はやめろ!俺を元居た世界に返してくれ!」
女神「それはできません。あなたはこの世界で黒豹王としての運命と闘い、生き抜くしかないのです。」
絶句した。
こんな理不尽はさすがに社会人としての経験にも存在しなかった。
この現状に対し、全く納得できるはずもなく憤りを覚えているが、
その一方で、ある日突然、事件や事故に巻き込まれ人生を狂わせられる人たちがいて、
たった今、自分もその当事者になったんだという気がした。
俺「これではまるで誘拐ではないか!本当に方法は無いのか?元の世界に戻る方法は!?」
女神「ありません。
『黒豹王の召喚』はそれほど大きな儀式なのです。
神の力をもってしても無かったことにはできません。」
俺はその言葉を聞いて女神とおぼしき光から目線を切り、国王を睨みつけた。
まるで「どうしてくれるんだ?」と言わんばかりに。
王「・・・。」
王はうなだれたように下を向いた。
王「すまない。そなたを平穏な世界から連れ去り、人生を狂わせてしまったようだ。
申し訳ない。」
王は深く頭を下げて謝った。
俺「・・・。もうよい。顔を上げられよ、コルニールの王よ。」
加護のせいか?
またしても俺はサラリーマンらしからぬ口調を炸裂させた。
俺「して、黒豹王の運命とはなんだ?俺に何をさせるつもりだ?」
女神「あなたはこのコルニールという小国の守護神となり、
やがてはこの世界を滅亡から守るための、辛く苦難に満ちた冒険を成し遂げることになります。」
俺「・・・。そんな馬鹿な。俺はただの人間だぞ。それも優秀とは言えない男だった。」
女神「存じております。あなたが当選した時からあなたの人生をさかのぼって見させて頂きました。」
俺「勝手にそんなもの見るんじゃない!神にプライバシーという概念は無いのか!?」
女神「申し訳ありません。これも私の仕事なのです。
抽選の段階で悪意に満ちた人間は条件的に排除していますが、万が一漏れがあってはいけません。
当選した人間がどういう人間なのかを見ておく必要があるのです。
黒豹王の加護という強大な力を悪人に渡さないためにも。
それにあなたは優秀でなくとも『正直』だったではないですか。
誰にでもできる生き方ではありません。」
俺「・・・ ・・・」
そう言われると言い返せない、と思いつつ、
少し間があいてから言った。
俺「つまり・・・結局俺に選択肢など初めから無いということか。」
女神「そうなります。あなたにとっては災難という他ないですが、
私もできる限りのサポートをさせて頂きますから、どうか絶望なさらないで下さい。
それに、異世界転生物はお好きだったでしょう?」
俺「なっ!!・・・それとこれとは別だ!
第三者としてあくまで物語として楽しんでいるから楽しいのであって!
いざ当事者になると恐ろしい作品が多いんだ!」
女神「そ、そうなのですか。
少しはお喜び頂けるかも?
ラッキーなんて思っちゃいましたが・・・ダメでしたか。」
俺「こっ・・・この」
クソ女神!と言おうとしたところで忌まわしい黒豹王の加護が起動して口は閉じてしまった。
女神≪クソ女神なんて酷いこと言わないで下さい。これでも悪いと思っているんですよ。≫
俺≪なっ?聞こえていたのか!?≫
女神≪はい。私もあなたもお互いに念じるだけで頭の中で会話できるのです。
言い訳をさせて下さい。
先程言いました“世界規約”についてです。
この世界規約は存在している世界ごとに作られています。
勿論あなたが転生したこの世界にもあります。
とてつもなく分厚い本なのですが、あなたが転生したこの世界に関する規約、
ルールのようなものがびっしり書かれています。
大体どの世界規約も似通ったような物なのですが、世界ごとにやはり特色があります。
そしてこの世界における最も特殊な規約の一つが「黒豹王」なのです。≫
俺≪・・・≫
女神≪実はこの黒豹王という規約は元々存在しないはずの物でした。
しかしとある女神・・・確か私の先先先先先先先代ぐらい?
だった気がしますが、その女神がある理由で加えた規約でした。≫
俺≪ある理由?≫
女神≪あなたがこれから直面する可能性のある事象について話すと、
未来予知に近い神託になってしまい、規約違反になるため今はまだ詳しく話せませんが、
黒豹王の規約が追加されるより前から、この世界には『厄災』と呼ばれる大問題があったのです。≫
俺≪厄災?≫
女神≪はい。この厄災の正体についても今はまだお話しできません。
ともかくその女神がこの厄災をどうにかするために作り出した規約こそが『黒豹王』でした。
ちなみに“くろひょう”ではなく“こくひょう”なのは、「何となくそっちの方がかっこ良くね?」という理由だそうです。≫
俺≪なんじゃそりゃ!≫
女神≪その女神は獣人萌えだったそうなのですが、とにかく「どんな動物の頭がいいのか悩み過ぎて頭が変になった。」そうです。≫
俺≪うむ。変なのは間違いない。≫
女神≪そして三日三晩徹夜してたどりついたのが黒豹だったんだとか。≫
俺≪うむ。カッコいい動物を選んでくれてありがとう・・・じゃなくて!
要するに俺がこんな頭になったのはその女神に原因があると?≫
女神≪そうなんです。ふ~~。やっとお分かり頂けましたか?ホッ……≫
俺≪ホッ、じゃない。それで誘拐まがいの行為が正当化されると思うな。
それで俺の元の体は一体どこへ行ったんだ?
元の世界に残っているのか?≫
女神≪いいえ。今のあなたのその体が元の体です。≫
俺≪は???訳の分からないことを言うな!元の体と似ても似つかんだろ!!≫
女神≪あなたの体は黒豹王召喚の際、素材としてありがたく使用させて頂きました。
あっ、あなたの国の風習にならいちゃんとお線香も上げました。≫
俺≪そうか線香も上げてくれたか、それは実にありがたい。
ってちがーーーーう!!!
俺の体がどうなったかと聞いている!≫
女神≪黒豹王を召喚する際、当選者の肉体を使用する必要があるのです。
肉体に加護の力を付与して待つこと3分。
あっという間のでき上がり。≫
俺≪インスタント麺と同じ時間じゃないか。
3分召喚とは・・・全く便利な世の中になったものだ。
ってそうじゃなくて!!
じゃあ元の世界から完全に消失したってことなのか!?
親が心配して行方不明届けを出すだろう!?≫
女神≪そのあたりは抜かりありません。
ご両親とも夢で私と直接お会いししっかり話をさせて頂きました。
「息子さんを私に下さい!!」
と勇気を振り絞ってお願いしたところ快くお引き受け頂きました。
「我々の息子も立派になって!
世界を救う役に立てるなんて・・・親としてこんなに光栄なことは無い!」
と涙を流して喜ばれました。≫
俺≪女神・・・貴様やったな?
なにかしら嘘をついたな?
親はだませても俺はだまされん!!
親をSNS詐欺から守った俺の実績を甘く見るな!!≫
女神≪あ~・・・その節は災難でしたよね。
私をあんな詐欺師と一緒にしないで下さい。
これでも心は痛んだんです。
ご両親があなたを愛していたことが伝わってきました。
あっそうだ!
ご両親よりお言葉を授かっています。
『正直に生きろ』だそうです。≫
俺≪・・・
・・・ ・・・
うっ≫
その言葉を聞いて思わず泣いてしまった。
もうこれから一生会えないかと思うと寂しい。
だがこの一言の餞別が、
これから過酷な運命が待っているであろうこの世界で
生きていく支えになることは間違いないと確信した。
俺≪ありがとう。父さん、母さん。
俺、やってみるよ・・・。≫
女神≪そうですか!やってくれますか!
よろしくお願いいたしますね!
あっ、ちなみに私「アリアスティール」と申します。
長いので呼ぶ時は「アリア」でいいですよ。≫
俺≪そうか・・・。分かった。よろしく頼んだぞアリア。≫
アリア≪はい!
あっそろそろ戻らないと・・・皆さんお待ちかねですね。
では私は一旦これで。≫
アリアがそう言うと、部屋の中の光は天へ昇って行った・・・。




