#002「召喚」
あの時の感覚を言葉で表現するのは困難を極める。
急に足元のマンホールが光ったことは覚えている。
それも目も開けられないほどのまばゆい光だった。
その後、全身に強烈なエネルギーが流れ込んでくるのを感じた。
そして自分が小さな、そう・・・とても小さな穴の中に大きな重力で無理矢理吸い込まれていくような感覚。
まるでお風呂場の排水溝に自分が液体と化し、吸い込まれていくかのようだった。
その感覚を覚えたところで意識は飛んでしまった。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
(・・・すか?)
(・・・えますか?)
(聞こえますか?)
ザワザワザワ
おおおおおおおお!!
誰かに呼び掛けられる声。
人々のざわめき。
感嘆とも畏怖ともとれるような驚きの声。
グラグラグラ
体が揺れるのを感じる。
誰かに揺すられているかのようだ。
「黒豹王様!聞こえますか?黒豹王様ーー!」
「これこれ、そんなに慌てては申し訳ない。皆の者、少し落ち着きなさい!!」
「お前達!王の御前であるぞ!!静粛に!!」
「えっ?ケイラス様、それってどっちの王ですか?」
「は?・・・バカっ!どっちでもいい。」
「あいたっ!なにするんですか、も~。」
俺「ん?・・・ここは一体?」
「おおおおおおお!!」
「喋った・・・黒豹王様がお喋りになったぞーーー!!!」
わああああああ!!
パチパチパチパチ!!
俺がボンヤリしながら目を開けて一言発したその瞬間。
大きな歓声と拍手が響いた。
目の前にいたのはまるで中世を思わせるような兵士の姿をした小さな男だった。
とてつもなく珍しいもの、まるで天然記念物を見るかのように俺を凝視し見上げている。
周りを見渡すと、まるでヨーロッパの王室を思わせるかのような絢爛豪華な装飾。
そして皆一様に古めかしい姿をしている。
少なくとも、スーツやジャケット、Tシャツというような現代的な服装は一人も見当たらない。
なんだ?俺はハリウッドの撮影現場に迷い込んだ夢でも見ているのだろうか?
ん?待てよ。
全員が小さい。
背の高い人でも俺の胸あたりまでしかない。
そういえば自分の体は?
ふと見下ろすと、そこにあったのは見たこともないほど立派な体と、これまた古めかしい戦士の衣装だった。
自分の体でも服でもない!!なんだこれは?
かつてこれほど訳の分からない夢を見たことがあっただろうか?
いいや無い!あってたまるか。
あちこちを見てキョロキョロし、全く状況を把握できず半ばパニックに陥っている俺を察したのか、
この場で一番偉そうな人が口を開いた。
王「黒豹王、黒豹王殿。」
俺「???」
王「そなたのことだ、皆が今まさに注目しているそなたの事だ。」
俺は自分の指で自分を指してみた。
すると、その人は首を大きく縦に振った。
王「わしはこのコルニール王国を治めているエイブン・フォン・コルニールと申す者。
王様をやっている。
そして、そなたは黒豹の頭を持った神話的な存在『黒豹王』として今まさにここに召喚されたのだ。」
俺「???・・・??????」
俺は訳が分からず大きく首をかしげた。
王「おい、侍従長!メイラスはいるか?」
メイラス「はっ!ここに。」
王「あれを持って参れ。」
王がそう言うと、その侍従長は何やら大きな布がかかった長細い物を持ってきた。
俺の2メートル程先にそれを縦に立てて置いた。
王「黒豹王殿、大変驚かれると思うが、気を確かに自らの姿を確認して欲しい。」
王様がそう言うと、侍従長は一気にその大きな布を置き物から取り去った。
目の前に現れたのは鏡だった。
見覚えのないとんでもない肉体の大男がその鏡の中に泰然と立っていた。
見事な体つきだ。
腹回りや腕、脚など体が露出している部分は例外なくパンパンに張った筋肉が隆起している。
目線を上に上げていくと異変に気が付く。
首回りが黒っぽい。
そして次の瞬間、
「あっ!!!」
思わず俺は声を上げてしまった。
動物の頭がそこにあった。
人間の大男の体の上に、間違いなく動物の頭が!!
何秒か固まったが、俺が自分の手を頭に向かって動かすと、鏡の中の大男も同じように手を頭に向かって動かしていた。
その光景はにわかに信じがたく、心臓の鼓動が早まり、段々と自分の手先が震えているのを感じた。
その震える手で動物に見える黒っぽい頭に触れてみる。
その触り心地は間違いなく動物の毛並みだった。
人間のスベスベとした肌とは似ても似つかない、とても触り心地の良い毛並みだった。
衝撃的だったのは、鏡の中の動物の頭に手が届いた瞬間、自分の頭に触られた感覚があったことだ。
これが俺の頭?
とても悪い夢を見ている気がする。
気がおかしくなりそうだ。
頭の上部に付いている猫のような耳まで手を動かしてみる。
触って耳の形をグニャグニャと変形させてみたが、完全に獣耳だ。
我を忘れるかのように俺が自分の手で自分の頭をこねくり回しているのを見かねたのか、
王「驚かせてしまってすまない。
その様子だと・・・やはりそなたは『黒豹王』という自覚は無いのだな?」
俺「さっきから黒豹王と言っているが一体何のことだ?」
俺は自分の口から出た言葉遣いに自分で驚いた。
王様とおぼしき人に丁寧語も使わずタメ口とは、社会人失格だ。
おまけに自分の声とは全く違う。
声質がとんでもなく低い。
まるで俺が大好きなあの声優さんぐらい声が低い。
俺は「すいません。失礼な言い方を・・・」と言葉を発して謝ろうとしたが、
なぜかその言葉が口から出ることは無かった。
謎の声「黒豹王の加護です。
この加護がある限りあなたの言動は全て黒豹王に相応しいものへと補正されます。」
?????
~次回へ続く~




