#001「消失」
ここではないどこか別の世界・・・。
小さなお国「コルニール王国」がありました。
周りを大国や、人々から恐れられる土地に囲まれ、常に戦禍が絶えず・・・。
王族や国民はそれでも絶望することなく懸命に国を守り闘っていたのです。
これは・・・平均年収にも遠く及ばず冴えないが「正直」であろうとし続けたある一人のサラリーマンが、
ある日突如としてその小国に古くから伝わる伝説とも神話的ともいえる存在・・・
『黒豹王』として召喚されてしまう物語。
【黒豹王の物語】
◇第一部~序章~◇
その日は何でもないような一日のはずだった・・・あの日あの時、俺が『抽選』にさえ選ばれなければ・・・。
「ふ~~っ・・・」
口に出そうと思ったのではない。
近頃勝手にこのような深いため息が出て来るのだ。
自分の能力が低いのか才能が無いのか?
努力が足りないのか、たまたま自分を活かせる仕事に巡り合っていないだけなのか?
こんな俺でも社会の荒波に揉まれればそれなりの社会人となり、それなりの大人になれるものだと思っていた頃が懐かしい。
親に小さい頃から「人様に対して正直であること。だまして陥れるような嘘はダメ。」
と言われて育ったせいか、仕事においても正直であろうとしているのだが、
どうにも上手くいかない。
今日も低空飛行する我が営業成績の事でこっぴどく上司に絞られ、ロボットのように規則的に頭を下げ、残業をたっぷり終えて帰宅の途に就く。
しかしながら上司よ、こちらにも言い分はある。
主力となるはずの商品の需要は落ち込んでいる上に新商品も無い今、
一体どうやって数字だけ上げろと仰るのか?
俺はお客様に対して自社製品を正直に説明するようにしていた。
商品について嘘は言わないのは勿論だが、メリットとデメリットもきっちり説明する。
すると・・・決まって最後に言われるのは
「あなたのことは信用できるが、その商品はちょっと・・・」
「そうですか。また何かありましたらご連絡下さい。」
これがいつものやり取りだった。
その“何か”があって同じお客様からお電話があっても、俺は決まって蚊帳の外となり別の社員が注文を受け付ける。
我が社はとにかく数字至上主義であって、数字に表れない部分の評価など無に等しい。
例えどんな手を使ってでも注文を取った者の数字が上昇し評価され、お客様が商品で何か不利益があってもどうでも良い事なのだ。
「コンビニでお酒とおつまみでも買って帰ろうか・・・。」
家に帰って好きなアニメでも見ながら少しばかりの晩酌を楽しめば、良い気分転換にはなる。
コンビニを出てまた思う。
この世界には「正直者は馬鹿を見る」という悲しい言葉がある。
そのような経験が無いと言えば嘘になるし、それも真理なのかもしれないが、
少なくともこの言葉を作った人とは友達になれそうもない。
そんなとりとめもないようなことを思いながら暗い夜道を歩いていた時の事だった。
突如としてその異変は我が身に降ってきた!
ビニールに入ったコンビニで買った商品を片手に俺は間違いなく家に向かっていた。
そしてある時・・・そう、あれは右足!
間違いなく右足だったはずだ!
とある何でもない道にあった、とある何でもないマンホールの上にその右足が乗った瞬間!!
「・・・ ・・・」
「・・・ ・・・」
「・・・」
俺は、俺が生きていたはずの世界から消え去った。
~次回へ続く~




