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黒豹王の物語 ◇第一部~序章~◇  作者: 種広交明
はじまり

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19/24

#019「神速」


そんなこんなで・・・

実は黒豹王の大男と実は近衛騎士団副団長の小さな少女との

波瀾万丈の珍道中は何とか無事に終わり・・・

二人ともがお互いにバレたら終わりという危険をくぐり抜けて

命からがら城への帰還を果たした!


アモン「たんだいまーーー!」


レグス「ひょうへん。

 はーーー・・・

 なんとか帰って来られたか。」


王「おお、待っておったぞ!

 ふ~~・・・わしは心配で心配で。

 今日一日公務も手につかんかったぞ。」


レグス「陛下、心労をかけて申し訳ない。

 だが、非常に有意義な時間であった。

 素晴らしい街、素晴しい人達と出会うことができた!」


王「ははは、それは良かった。」


と、会話しているとどこからともなく

怨霊?の声が聞こえてきた!


「ア~モ~ン~さ~ま~」


アモン「ヒッ!

 なにこの声!?」


と!!


ピト


っとアモンの肩に人の手の感触があった!


アモン「キャッ!!!」


アモンはおそるおそる・・・

ゆっくりと首を後ろに回した。


アモン「ギョッ!ギョエーーーーーーー」


そこにあったのは世にも恨めしい表情のアリスの顔だった!!

アモンは腰を抜かしてへたり込んでしまった。


アモン「ヒッ!ヒィーーーー!

 おっ!おたすけーーーー!!」


アリスはゆっくりと両手をアモンの両(ほほ)へと伸ばし挟んだ。

そして、その手によってアモンの左右のほっぺはみるみる中央に寄せられていく!


アリス「私は今日を楽しみにしておりました!

 それを目前で奪われたこの無念・・・お分かりですか?」


アモン「ほっ! ほへんははい!!」


アモンの顔が究極まで中央に圧縮され、

とんでもない変顔になっている!

もはや笑うなと言う方が難しい造形と化していた!!


王とレグス「ぷっ!!ぶはははははは!!」


アリス「よ~~~く見ると、肌ツヤまで良くなっています。

 さぞ一日充実されていたのでしょうね。」


ギューーーー

ムギューーーーー

処刑継続中・・・


アモン「ほへんははひ・・・フヒュヒュ」


アリス「分かればよろしい。」


アリスは『両頰究極圧縮の刑』からアモンを解放した。


この人は・・・もしかすると、

一番怒らせてはならない人なのかもしれない。

アモンのお姉さん役として、

時に優しく、また時に厳しい処刑も辞さないこの人がいれば、

アモンもよりよい人間に育っていくに違いない・・・

と思えた。



アリス「レグス様、アモン様の街案内はどうでしたか?」


レグス「あ、ああ。

 素晴らしいの一言だ!

 我は十分満喫させてもらった。」


アリス「そうでしたか。

 アモン様、よくやってくれました。」


アリスは、処刑から解放したばかりで頬が赤らんでいるアモンの頭を撫でた。


アモン「うん・・・ありがとうアリスねえ

 それでさ、この後少しレグス様と手合わせすることになってさ・・・。」


アリス「そうですか・・・。

 確かにこの機会に、レグス様にアモン様の強さを知って頂くのもよいかもしれません。

 ただ・・・アモン様と立ち合うならばお気を付け下さい。」


レグス「気を付ける? なにをだ?」


アリス「それは・・・実際にやってみなければ分からないことでしたね。

 すみません、余計なことを申しました。」


レグス「??」

例の“別人”になるという話だろうか・・・?


アモン「レグス様、先に訓練場行っててよ。

 いいもの見せてあげるからさ!」


レグス「いいもの?」


アモン「いいからいいから!」




アモンにそう言われて訓練場に行き、

待つこと数分・・・


今日の楽しい時間を振り返りつつ、

ボーーっとしていると・・・


不意に後ろから、

「アモン様けんざーーーん!!」


と言って、

高く飛び上がったアモンが宙返りして

颯爽と現れた!!


レグス「おおお!! アモン!

 その衣装は!?」


アモン「へへん!

 中々イケてるでしょ?」


アモンは、見るも美しい近衛騎士団の正装に着替えていた!

ケイラスと同様に白を基調にしているが、

アモンの髪色と同じ赤いラインが所々にあしらわれている。

そしてケイラスの兵装よりも女性らしさが際立つ

美しいデザインだった。

頭部には戦の女神「ヴァルキリー」を思わせるような

きれいな意匠を着けていた。


アモン「今日はレグス・・・というかレインと一緒にさ、

 久しぶりに楽しかったからそのお礼!

 特別だよ。

 これ着るのめんどっちーし大変なんだから。」


レグス「ありがとうアモン。

 よく似合っている。

 素晴らしいものを見せてもらった。

 ケイラス殿にも引けを取るまい。」


アモン「へへ、ありがと!

 じゃあおっぱじめますかー!


 ・・・とその前にさ。」


レグス「ん? なんだ?」


アモン「実はその・・・

 もし私が勝ったら・・・

 っていうか絶対勝つけどさ、


 そしたらその・・・


 一つお願いがあって。」


レグス「お願い?

 一体なんだ?」


アモン「それはその・・・

 勝ってからのお楽しみっていうか。


 いや・・・そんな難しいお願いじゃないんだけどさ、

 とにかくお願い!


 レグスにしか叶えられないお願いなんだよ。

 だから・・・ね?」


レグス「うむ・・・。

 アモンには今日一日世話になった。

 我に叶えられることであれば応えよう。」


アモン「あ、ありがとう!!

 よーーーし!

 やる気出てきたーーー!!」


ん?

この少女は一体何を企んでいるのか?

確かにこの勝負、自分にほぼ勝ち目など無いのだろうが・・・

なんかすごく嫌な予感がしてきた。


レグス「ではアモン、我が勝ったらどうするのだ?」


アモン「え? う~ん・・・

 仕方ない。

 アモンお気に入りの人形を一つあげましょう!」


レグス「・・・そ、そうか。

 では記念の戦利品としてありがたく頂戴しよう。」


アモン「まーたまたそんなこと言って、

 勝つ気でいるの?」


レグス「うむ、最初から負けるつもりで戦うわけにはいかぬ。」


アモン「う~ん・・・仕方ない。

 ちょっぴり本気出すよ。」



そう言って二人はそれぞれ木剣を取り、

距離を取って向かい合った。



アモン「じゃあ、準備いい?」


レグス「うむ、どこからでも」


と言い終わるや否や・・・


!!!!!!


レグスは衝撃を受けた!!


その衝撃の正体は、

アモンの「姿勢」だった!

戦闘開始と共に、

アモンの姿勢が常軌を逸するほどに低くなった。

脚を前後に大きく広げ、

頭の位置が膝よりも低く、

もはや顔が地面に付きそうなほど低くなり

うつむいている!


レグス「あっ・・・」


その異様な光景に言葉を失い、

ただ一歩前に足を出すこともできなくなり

凍りついてしまった。


すると・・・

アモンがうつむいた頭を徐々にもたげ始めた。

少しずつ顔が見え始めて、

前髪の隙間から目が見えた瞬間!!


!!!!!!


再び、今度は背筋が凍るような衝撃を受けた!


“別人”だったのである。

髪色も髪型も変わってはいない。

しかしその表情は、今日街で見た楽しそうなアモンの面影は微塵も無かった!

殺意すら感じるような鋭い眼光!

一切の笑みが消えた冷徹な表情・・・。

元の世界で殺し合いをした経験などない自分にとって、

そのまごうことなき本物の殺気には恐怖を覚えた。


しかしそれでも・・・

この一ヶ月ほど自分なりにケイラスの指導に懸命に向き合ってきた。

せめて一撃だけでも入れて一矢報いたい。

そう自分を奮い立たせて

やっと一歩前に足を出した瞬間・・・


アモン「ふっ!」


!!!!


消えた!

なにが?

アモンが!!!


レグス「えっ?」


アモン「すっ!」


一瞬!!

急にアモンが眼前に現れたような・・・

残像が見えたような・・・気がした。


???


次の瞬間!!


ピト・・・


首筋に冷たく固いものが当たる感触がした・・・。


それはいつの間にか背後から突き出された木剣だった!


レグス「あっ・・・」


アモン「弱すぎ。

 そんなんじゃすぐ死ぬよ。」


!!!!


俺は耳を疑った!

その声は普段のアモンとは似ても似つかないものだった。

口調も声色も全くの別人だった!

俺は思わず声のする方を二度見した。


レグス「ア・・・アモン?」


アモン「なに?」


レグス「おぬし、本当にアモンなのか?」


アモン「そうだけど。」


レグス「・・・。」


アモン「ちょっと待って。

 ・・・・・。


 いや~~・・・

 ごめんごめん、怖がらせちゃった?」


ほっ・・・

いつものアモンの声に戻り、

先程までの恐ろしい殺気が嘘のように消えた。

これが噂に聞く『闇アモン』なのだろうか?


レグス「怖いなんてものじゃない。

 こんなに恐怖を感じたのは初めてかもしれん。」


アモン「なんで?

 ただの立ち合いじゃん。」


レグス「いやしかし・・・完全に別人のようだったぞ。」


アモン「ああ、これ?

 えっとね・・・

 なんか戦う時に少しでも本気になるとこうなっちゃうの。」


レグス「そ、そうなのか・・・」


そう・・・

戦う時になるとなぜアモンが別人になってしまうのか?

これもいずれ分かることなのだが・・・。


レグス「以前、ケイラス殿がおぬしと初めて手合わせした時の事を話してくれた。

 その時もさっきのように別人になったのか?」


アモン「ああ・・・その時はね、

 正直なめてたの。」


レグス「なめてた?」


アモン「うん。

 軍に入ってもあんまり強い人いなくてさ。

 だからケイラス様でもすぐ勝てると思って。


 さっきみたいに集中してなかったと思う。」


レグス「そういうことだったのか・・・。」


ケイラスは「あとほんの少し気付くのが遅れていれば負けていた」

と言っていた。

先程のような異様な殺気があれば誰でも異変に気付くかもしれないが、

そうではない状態で超一流であることを見破ったケイラスも凄い。


アモン「ケイラス様の背後を取れたから勝てたと思ったのに・・・

 後ろも見ないで背中越しに私の剣止めちゃったんだから、

 アモンびっくりしちゃったよ!」


レグス「ははは、さすがケイラス殿だ。

 その勝負、是非見てみたかったものだな。


 ケイラス殿は、おぬしと相対した時の感覚を『超一流の戦士』と評していたぞ。」


アモン「へ、へーー、そうなんだ・・・。」


アモンがほほ笑んだ。

本人は、はっきり口に出さないが、

そのように思われたことを今知って嬉しそうだ。


アモン「って!そんな話してたら忘れるところだったよ!


 ほら!ごほーびごほーび!」


レグス「ご褒美?」


アモン「もーー!とぼけちゃって!

 さっき言ってたお願いのこと!」


レグス「あ、ああ。

 それで、我に叶えて欲しいこととはなんだ?」


アモン「その・・・ね?

 えっと・・・

 その頭を触らせて欲しくてさ。」


レグス「頭?

 この豹頭のことか?」


アモン「うん。

 いいでしょ?」


レグス「勿論いいが・・・

 本当にそんなことだけでよいのか?」


アモン「うん。」


なんとも女の子らしい可愛いお願いだと思った。

しかしそれこそが罠・・・

『地獄の始まり』だったのである!!


俺はアモンが触りやすいように

姿勢を低くしひざまずいた。


アモン「お! おおーーー」


アモンは遠慮しがちに

レグスの頭の毛並みを手で撫で始めた。


アモン「すごくいい触り心地!

 アモン感動・・・」


最初は遠慮しがちだったのだが・・・

段々と動きが大きくなってきた。


アモン「はあーーー

 たまらにゃい!たまらにゃいーーー!!」


徐々にアモンのテンションがおかしくなっている。


レグス「ア、アモン!?」


アモン「鼻の横から伸びてる“おひげ”もかわいいーーー!!」


ギューーーーー


レグス「あいたたたたた!!

 アモン、そんなにヒゲを引っ張らないで!」


アモン「よーーーしよしよしよし!

 よーーーーしよしよしよしよしし!!!」


「よーーしよしよし」ってお前は○○ゴロウさんか!!

と思った。


レグス「アモン、まだ終わらぬのか!?

 このままでは我が顔がもぎ取られてしまう!」


アモン「まだまだーーー!!

 う~~ん、なんかお日様みたいないい匂いもするーーー!!」



その後も・・・

アモンの『よーーしよしよし○○ゴロウさん地獄』は続いた。


永遠とも思える“ご褒美”が続き、

ついに黒豹の頭が完全にもぎ取られるかと思われた瞬間・・・

それは唐突に終わりを告げた。


アモン「はあーーーー

 アモン大満足ーー!!」


レグス「ううう・・・(泣)」


アモン「あはははは!!

 なにその頭変なのーー!」


アモンの『煉獄○○ゴロウさん』により、

せっかく毎朝アリスに整えてもらっている自慢の毛並みは、

いたるところに寝癖が付いたかのように

見るも無残な状態と化していた。


アモンは笑い転げているが・・・

いやアンタがやったんでしょーーが!!


レグス「アモン、こんなの聞いてないぞ・・・」


アモン「ふふふ・・・ごめんねレグス。

 いや~、アモンほんとはペット飼いたいんだけどさ・・・

 お城の中じゃ飼えなくて。」


レグス「そうだったのか。」


アモン「本当は毎日モフモフしたいのにさ・・・

 でも私昔からさ、戦うこと以外まるでできないんだ。


 だからお城に来る前だって動物飼おうとしたことあったけど、

 お世話まるでできないからあきらめたの。」


レグス「そうか・・・。」


アモン「ペットだけじゃないよ・・・。

 料理しようとしてもさ、

 『この世の物とは思えない物が出来上がるからやめろ!』

 って言われるんだ。」


レグス「へ、へーー・・・」


この世の物とは思えない料理・・・って怖すぎる!!


アモン「だからペットの代わりにお人形集めてるんだ。」


レグス「そうだったのか・・・。」


アモン「うーーん・・・

 でもこれからは今までモフモフできなかった分、

 たっっっっっっっくさん!

 モフモフするぞーー!」


レグス「ま・・・まさか!」


アモン「よろしくね!

 レーグースーさーま!」


レグス「や、やめてくれアモン!

 そ、それだけは・・・」


アモン「ふっふっふ~。

 アモンのモフモフは誰にも渡さないのだ!!」


レグス「ひっ、ひぃーーーー!

 おっ、おたすけーーーー!!」


黒豹王の力で猛然と走り去るレグス!


アモン「まっ、待てーーー!!

 アモンのモフモフーーーー!」


あろうことか、一人の少女を前に敵前逃亡する黒豹王・・・。


こうして、アリスのブラッシング攻撃に続いてまた一つ、

黒豹王に新たな弱点が出来てしまったのであった・・・。




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