#016「街・・・デート?(前編)」
いよいよ『豹変ペンダント』を使用して街に繰り出す日がやって来た!!
王「レグス殿、いよいよだな。」
レグス「うむ、いよいよだ。
この城を出るのも初めてか・・・。
緊張してきた。」
王「少ないがこれを持って行くとよい。
何か街中で欲しい物があれば買ってくれ。」
レグス「かたじけない。ありがたく頂戴しよう。」
王「繰り返しになるが、くれぐれもその頭を晒してしまわぬよう注意して欲しい。」
レグス「そうだな。
そんなミスをしては全て水の泡になってしまう。
気を付けよう。」
王「そして、外では念のため別名を使うべきだろう。
そなたのレグスという名は我らが考えた名前だ。
別名はおぬし自身で考えてもらってもよい。」
レグス「そうか。
・・・う~む。
・・・
それではレグスの頭文字を拝借して
『レイン』というのはどうだろうか?」
王「ほう、よいではないか。
では外ではレインと名乗ってもらうとしよう。
今日はアリスに街の案内を任せる。
アリスよ、名前を間違えぬように頼んだぞ。」
アリス「陛下、お任せ下さい。
レグス様にこの国の魅力を知って頂けるよう努力します。」
と、突然部屋の扉が勢いよく開いた!
バーーン!!
「そのお役目!待ったーーーー!!」
王「なっ!なんじゃ急に!
・・・おぬし、アモン!
なぜここにおる。」
アモン「街の案内はアモンがしたいでーす!」
王「な、なんじゃと?
おぬしには街案内のことなど知らせてなかったはずじゃ。
一体どこで聞きつけた?」
アモン「たまたまだよー。
暇でブラブラしてたらさ~、
面白そうな話が聞こえてきたんだもん。
最近お城の中ばっかりでさ、
アモンつまんないつまんない
つ・ま・ん・な・いーーー!!
ね!
王様!!
お願いお願いお・ね・が・いーーー!!」
王「はあ・・・。
と、申しておるがレグス殿?」
レグス「我は別に構わぬが・・・。」
アリス「ちょっ、ちょっとお待ち下さい!
それは私が仰せつかったお役目です!
アモン様、横取りはおやめ下さい!」
アモン「えーー、お願いアリス!」
アリス「だめです。」
アモン「でもさー、アモンの方が強いよ。
レグスにもしものことがあったらどうするのさ。」
アリス「それはありません。
今回レグス様はレインに変身して街を散策されますから
トラブルは無いかと。」
アモン「へ、変身!?
なにそれなにそれーーー!」
(あちゃー)
アリスは頭を抱えた。
口が滑ってアモンが余計に食いついてしまった!
とアリスは後悔したがもう遅かった。
レグス「アモン殿、よーーーく見ておくのだ。
いくぞ。
ひょうへん!」
アモン「どっ!どわーーーー!!
なんじゃこりゃっ!!
アモンびっくり・・・」
レグス「すごいだろう。
女神から授かったこの特別なペンダントの力だ。
実際に頭が入れ替わったわけではないが、
そのように見えるのだよ。」
アモン「アモン絶対行く・・・
ぜっっっっっっっっっっっっっっっったい行くー!!」
アリス「アモン様、どうかご容赦下さい。」
アモン「しょうがないな・・・。
じゃあ正々堂々勝負して勝った方が行くことにしよ。」
アリス「そんな・・・私がアモン様に勝てるわけないじゃないですか。
ずるいですよ。」
見かねた王が口を開いた。
王「アリスよ・・・アモンが一度言い出したら聞かない性格なのは
おぬしも知っておろう。」
アリス「・・・」
王「今回だけアモンに譲ってやってはくれぬか。」
アリス「はあ・・・。
陛下がそう仰るのなら仕方ありません。
アモン様、本当に今回だけですよ。
これは貸しですからね!」
アモン「ありがとうアリス!
ごめんね・・・
きっと埋め合わせするから。」
アモンは喜びのあまりアリスの胸に飛び込んでそう言った。
アリス「本当にしかたないんですから・・・。」
そう言いながらアリスは微笑んでいた。
アモン恐るべし!
この天然の人懐っこい妹キャラで結局自分の望みを押し通してしまった。
ある意味無敵である。
アリス「アモン様、
レグス様に万一のことが無いようしっかりお願いしますね。」
アモン「まっかせてよ!」
アリス「あと、街中ではレグス様ではなくレインです。
間違わないようにね。」
アモン「レインレインレインレイン・・・覚えた。」
レグス「しかし・・・どうせなら3人で行くというのはどうだ?」
アリス「無理です。
私には私のプランがありましたが、
おそらくアモン様が行きたい場所とは全く違いますし・・・
街中でまた言い合いになったら騒ぎになりますよ。」
レグス「そ・・・そうか。
では陛下・・・行って参る!」
アモン「やっほーーーーい♪」
~~~~~~~~~~~~~
そんなこんなの一騒ぎがあってようやく城を出た。
小高い丘にある城から数分歩いて下っていくと
街の入り口が見えてきた。
レイン「おおーーー!!
これが王都の街並み!」
そこに広がっていたのは目にも鮮やかな中世の街並みだった。
オレンジ系の色が鮮やかな屋根
色とりどりの窓枠
趣のある石畳の路面・・・
感動した。
未だかつて、こんなに目の贅沢を味わったことは無かっただろう。
勿論のこと、街行く人たちの服装も現代的な物とはまた違う趣があった。
同時に、この人達こそ
今後自分が守っていかなければならない人達なんだと思うと
身の引き締まる思いがした。
元居た世界でただの一度も海外旅行など行ったことが無かったが、
まさか初海外旅行が異世界になるなど
誰が想像できただろうか?
いや、ここは異世界なのだから
“世界外旅行”
と言うべきかもしれない・・・。
それにしても・・・
アモン「ルンルルンルラ~♪
ルンルルンルラ~♪」
先程からウキウキ鼻歌スキップを続けているこの少女が
近衛騎士団の副団長・・・。
未だに信じられないが、ケイラスの言っていた
『闇アモン』なる姿も
結局未だに見れていない。
アモン「デート♪
デート♪
レッグス様と
デ・エ・ト♪」
レイン「デッ、デート!?
一体なんの話だ?
今日は街案内のはずだが。」
アモン「なに言ってるの!
年頃の男と女が二人で出かければ
それはもはやデートなのだ!」
レイン「年頃って・・・多分かなり年齢差あるぞ。」
アモン「ああ?
照れてるんだなレグス様は!
うぶだ!
うぶなのだー!」
レイン「誰がうぶだ!
あとな、早速間違えているぞ。
我は今“レイン”だ!」
アモン「あちゃっ、いっけない!
ごめんレグ、じゃなくてレイン。
ああ、アモンの頭こんがらがっちゃうよ・・・トホホ。」
そんなおかしな会話をしながら街中を歩き始めたのだが・・・
あれ?
すれ違う人の多くがびっくりしたようにこちらを見ている。
ん?
まさか!!
と思いペンダントを見てみたが、
黒豹の目の部分が光っていて
ちゃんと力は発動しているはずだ。
レイン「アモン、我の頭は今どうなっている?」
アモン「ん?大丈夫だよ。レインは今レインになってる。」
レイン「そうか・・・。」
と、少し注意して耳を澄ますとすれ違う人の声が聞こえてきた。
「で・・・・でかい」
「うわ・・・すごい体格だ」
「まあすごい体・・・素敵だわ」
なるほど・・・そういうことか。
無理もない。
この黒豹王の体は完全な規格外である。
頭を変える道具はあっても、
体を変える道具は作れなかったものか?
そして、よくよく冷静に考えれば、
今頭が黒豹のままだったら
町人はちょっと驚く程度では到底済まない。
皆腰を抜かしてしまうに違いない。
アモン「あれ?
レインもしかして目立っちゃってる?」
レイン「そうだな・・・。
このままではまずいかもしれんな。」
アモン「うーーん・・・
じゃあアモンお気に入りの武具屋へ行こう。」
レイン「武具屋?」
アモン「うん。
国からも支給されてるんだけどさ、
なんかアモンに合わないんだよね。
だからアモンはお気に入りの武具屋があるの。
結構色んなお店試してさ、
やっと見つけたんだよね~。」
レイン「そうなのか・・・それは楽しみだな。」
きたきたきたーー!
まさに異世界っぽいお店の代表格とも言える武具の店!
表面的には平静を装っているが、
内心はドキドキワクワクである!
本物の武器が見れる!
RPGゲームの主人公気分を味わえるとは!
まさに待ち望んだ展開だ。
アモン「ここだよ。」
『双剣亭』
との店名が書かれた木製の板が
店先にぶら下がっていた。
レイン「ほほう!店名も中々かっこいいじゃないか!」
アモンがドアを開けた。
カランカラン
アモン「マルクのおっちゃーーん!ひっさしぶりー!」
店主マルク「ん?
アモン!
アモンじゃねーか!
最近姿見せねーからどうしてるのかと思ってたぜ。」
そのマルクという男性の店主は見た目にもワイルドだった。
丸坊主の頭にモノクロのシックな幾何学模様のバンダナを巻いて
口周りやあごに髭を蓄えていて、もみあげまでつながっている。
重量級の体にぶっとい腕っぷし。
仕事で服が汚れるのを防ぐためか、黒いエプロンを着用している。
マルク「この前頼まれてた武器の手入れ、終わってるぜ。
・・・って!
なんじゃそのどでけえ男は!?」
アモン「紹介するよ。
この人はレイン。
まあ・・・私の同僚ってとこかな。」
レイン「お初にお目にかかる店主。
我はレイン。
以後、お見知り置きのほどを。」
レインは右手を前に出し、マルクはその手を取り握手した。
マルク「よろしくな。
にしてもえらい仰々しい喋り方だな。
お偉いさんかい?」
レイン「いや、これはただの性分だ。
気にしないでくれ。
にしても店主、素晴らしい武具ばかりだな。」
と、武具の知識ゼロの自分が知ったかぶりを言ってしまった。
が、素晴らしいと思ったのは本当である。
品揃えは武器や防具など何でもありで、
剣、鞘、槍、斧、弓、矢、短剣、盾、兜、鎧、籠手、マント・・・
店内はさほど広くないが、
ありとあらゆる装備品が所狭しと置いてあった。
マルク「分かるかい?
さすがアモンが連れて来るだけあって
見る目あるじゃねえか。」
レイン「ん?なんだこれは?」
短剣よりもさらに小さく
まるで簡素な果物ナイフのような小さな刃物が
まとめて束ねられていた。
マルク「ああ、それは投げナイフだ。」
レイン「投げナイフ?」
マルク「こうやって投げて使うのさ。」
店主はそう言うと、一本取りだして
壁にかかっている木製の的に向かって投げた。
グサッ
レイン「おおーーー!!」
マルク「って、あんた軍人さんだろ?
投げナイフぐらい知ってるだろう?」
レイン「いや、これでも我はまだ見習いのようなものだ。」
マルク「は??
冗談言っちゃいけねえや。
こんな立派な体の見習いがどこにいる!」
アモン「いや、ほんとだよマルク。
まだ入って間もないんだ。」
マルク「本当かよ。
この武器は確かアモンの得意武器だったろ?」
アモン「そーだよ。
見ててよレイン。」
アモンはそう言うと
投げナイフを左右両手に2本ずつ
計4本も持った。
アモン「ふっ!ふっ!」
グサグサ!
レイン「すっ!すごい!!」
アモンは左手の2本を投げた後、間髪入れずに右手の2本を放ち
それら4本が的の中心部、
ほとんど同じ場所に刺さった。
アモン「へへーん、どんなもんだい!」
レイン「すごいな~、やはりアモンは本物の副」
アモン「しーーーっ!!」
レイン「えっ?」
アモンが急に俺の言葉を制止して、首を横に振っている。
レイン「ど、どうした?」
アモン「ちょっとごめんマルク。」
と言って、アモンが俺を引っ張りながら移動する。
アモン「私の階級は言っちゃダメ。」
レイン「なぜ?」
アモン「な・ん・で・も」
レイン「? わ、分かった。」
マルク「どうした? さっき何か言いかけたろ?」
アモン「なんでもないよ、今日もマルクのお髭いかしてるな~って!」
マルク「ん? 髭の話なんかしてたか?」
何か話をそらさないとまずいのか?
と思い店主に別の話題を振ることにした。
レイン「店主、
このお店の店名『双剣亭』はとてもかっこ良くて気に入った。」
マルク「ほう、そうかい。
あんがとよ。」
レイン「何か由来はあるのか?」
マルク「由来か・・・。
英雄なんだよ・・・俺にとってのな。」
レイン「英雄?」
アモン「はあ、また始まっちゃったよこの話・・・トホホ。」
マルク「あんたも知ってるだろ。
この国に男として生まれたらみんな剣を握るもんさ。
俺だってそうだった。
立派な兵士になりたくて自分なりには努力したつもりだったさ。
けどな・・・
俺はどうにもならねえほど不器用だったんだ。」
レイン「・・・。」
マルク「だからよ、兵職は諦めるしかなかった。
けど武器は好きだったんだ。
だから武具職人の道を選んだんだ。
まずは凄腕の女鍛冶師に弟子入りして修行を積んだ。
他の国じゃ鍛冶師なんて男しかやらねえ仕事だが、
あんたも知っての通りこの国じゃそうじゃない。
ある程度師匠にも腕を認められた頃、
いよいよ独り立ちしようかと思ったが・・・
店名をどうしようか悩んだ。」
レイン「うむ。」
マルク「それで思い出したんだよ。
あれは、昔俺がガキの頃のことだった・・・。
野盗に襲われちまってな。
危うくさらわれかけたんだ。」
レイン「なんと!」
マルク「その時だった!
両手に剣を一本ずつ持った剣士が颯爽と現れて
あれよあれよという間に野盗を全部ぶった切っちまったのよ!」
レイン「す!すごい!!」
マルク「今でも一日も忘れたことはねえ!
誰がなんと言おうが、奴が俺の人生で最高の英雄だった!!
だから俺のやる店はぜってえ『双剣亭』以外ありえねえのさ!
あいつが来てくれなきゃ俺は今頃生きちゃいねえかもな。」
レイン「そうだったのか・・・よい話を聞かせてもらい感動した。」
マルク「へっ!あんた気が合うじゃねえか!」
アモン「はあ・・・もうこの話100回以上聞いたよ。」
マルク「なーに100回ぽっちで音を上げてやがる!
最低でも1000回は聞いてもらわねえとな!
がーーはっはっはっは!」
レイン「そうだぞアモン。
がーーはっはっはっは!」
アモン「もーー、レインまで・・・トホホ。
じゃーねマルク、今回も武器の手入れ完璧だよ。
ありがとう、また来るね。」
マルク「おーよ、でっかい旦那もまたな。」
レイン「うむ。
店主よ、楽しい時間だった。
またな。」
マルク「おっと、これを持って行きな!」
マルクはそう言うと大きい剣を渡してきた。
レイン「こ、これは?」
マルク「出世払いだ。
そんなでけえ体じゃ、これぐらいデカいの振らなきゃな!」
レイン「そんな!こんなよい物をタダではもらえぬ。」
マルク「野暮なこと言うんじゃねえ!
俺も長く武具屋やってるがな、
こんな立派なガタイはそう見たことねえよ。
しかもこれでまだ見習いだろ?
あんた将来大化けしそうだぜ。
そん時に返してくれりゃあいい!」
レイン「そうか・・・」
マルク「それによ!
双剣亭の由来の話聞いてくれたろ?
“感動した”とまで言ってくれた!
そう言われて逆にこっちが感動するってもんよ。
思いを共有できたアンタとは気が合いそうだと思ったから
大盤振る舞いするのさ。」
レイン「分かった。
では有難く頂くとしよう。」
マルク「その剣の名はな・・・『黒流』だ。」
レイン「黒流・・・。」
マルク「刀身が全体的に黒みがかってるだろ?
特殊な金属を配合してるからだ。
強度が跳ね上がる代わりに錬成の難度も跳ね上がる。
だからこの剣を作れる鍛冶師もそう多くはねえ。」
レイン「すごい・・・。」
黒豹王としての勘なのか・・・
レインはこの剣を手に握った瞬間に、ビビッと電流が走ったような気がした。
偶然だろうか?
レインの正体が黒豹王だと知らないはずのマルクが
渡してきた剣の名が『黒流』で
偶然にも黒豹王と同じ頭文字である。
直感が告げていた。
この黒流とは長い付き合いになり
数々の修羅場を共に乗り越える相棒になるのだろうと・・・。
そして剣名もまたかっこ良く
中二病をくすぐる感じがたまらない!
マルク「剣のメンテナンスが必要になったらうちに持って来い。
まあお代は頂くがな。」
レイン「分かった、そうしよう。
店主、この剣大事に使わせてもらう。」
マルク「マルクでいいぜ、レイン。」
レイン「ではまたな、マルク。」
もしもこの剣に出会うことが運命なら、
凄腕鍛冶師のマルクに出会うことも、
そのマルクの店を愛用するアモンが
偶然街案内の話を立ち聞きし
飛び込んできたことも・・・
全ては細い運命の糸に手繰り寄せられているに過ぎないのかもしれなかった・・・。




