#014「女神えもん」
レグスにとって毎日やることが多く山積みで
目まぐるしい日々が続いた。
その中には座学もあった。
この国の歴史や地理、社会情勢など知るべきことが沢山あったが、
毎日同じ3名ほどの講師が入れ代わり立ち代わり家庭教師のようにやってくる。
こんなに勉強したのは受験勉強の時以来か・・・。
もはや知恵熱が出そうだ。
ただ・・・
この座学に含まれない重要な情報があれこれあることは、
後になって分かることだった。
そんなこんなで城での生活にも慣れ
召喚からはや1ヶ月近くが経とうとしていた。
勿論のこと、教わった剣術の基礎練習をしたり
ケイラスとの稽古も重ねていた。
レグス「ふん!
ふん!」
ケイラス「おおーー。
レグス殿、よい素振りです。
ちゃんとさぼらずに続けておられますね。
本日は一切剣を使いません。
その他の格闘術をお教え致しましょう。」
レグス「格闘術?」
ケイラス「そうです。
戦闘は剣が全てではありません。
もしも戦闘中に手が滑って剣が遠くへ飛んで行ってしまったら?
もしも剣が折れてしまったら?
もしも敵が剣の全く通らない分厚い盾や鎧を用意してきたら?
もしも剣が振れないほど狭い場所で戦うことになったら?
分かりますね。
このようにいくらでも剣を使えなくなる状況があるのです。」
レグス「なるほど。」
ケイラス「ではまず打撃からお教えします。」
と言って打撃技から指導が始まり、
その後は組み技、関節技、絞め技など・・・
まるでこれは現代の総合格闘技ではないか!
と思った。
ケイラス「こうして顔面付近を意識させておいて
急にみぞおちに正拳を入れると・・・」
レグス「ぐう!!
く・・・苦しい。
息ができない・・・」
ケイラス「こうやって相手の重心を崩してから腰を入れると」
ブワッ!
レグスの巨体が宙を舞った!
レグス「あいたっ!」
ケイラス「この関節をこっちに回すと・・・」
レグス「あいたたた!!」
ケイラス「このように襟をつかんで首を絞めると・・・」
レグス「うぅっ!!
く、苦しい・・・
参った。」
散々技を決められ地獄を見た。
なるほど、体の大きさなど関係なく
体術を極めれば
ケイラスよりはるかに大きい黒豹王の体が
いとも簡単に投げ飛ばされたり
関節を決められたりする。
ケイラス「さあ、今日はこのあたりで切り上げましょう。」
レグス「うう・・・酷い目に遭いましたぞケイラス殿。」
ケイラス「ははは、すみませんレグス殿。
しかしこのような技は実際に自分の体で体験してみる以上に
効果のある稽古も他にありませんゆえ。」
その日は体のあっちこっちがズキズキと痛む中
眠りに就いた。
翌日・・・
コンコン
ガチャ
アリス「失礼いたします。
黒豹王様、おはようございます。」
レグス「うむ、おはよう。
あいたたたた・・・」
アリス「ど、どうされましたか?」
レグス「うむ。
昨日酷い目に遭ってな。
ケイラス殿にあれやこれやと技をお見舞いされた。」
アリス「それは災難でしたね・・・。
本日は、陛下よりお話があるとのことです。
朝の身支度が終わったら参りましょう。」
レグス「うむ・・・」
話・・・?
まさか戦地へ送られるのでは?
と少し怯えた。
それにしても・・・
最近アリスの視線がなにやら熱を帯びている気がするのは気のせいだろうか?
いつもの異世界モーニングルーティーンを終えてエイブン王の元へ向かった。
王「おはよう、レグス殿。」
レグス「おはよう、陛下。」
王「早速だが、先日そなたにこの国や人々の魅力を知ってもらいたい
という話をしたことは覚えておるか?」
レグス「うむ。覚えている。
この国のために戦う覚悟についての話だったな。」
王「そうだ。
そこでなんだが・・・
そなたに街を見てもらおうかと思っている。」
レグス「街?」
王「そうだ。
この王都はとても美しい街並みだ。
きっと気に入ってもらえると思う。
しかし問題がある。
その頭のまま街に出てもらうわけにはいかん。」
レグス「そ、そうだな。」
王「我もあれこれ対策を考えた。
大きなフードをかぶるか?
仮面で隠すか?
しかしいずれもかなり目立つ上に
万が一外れてしまったら大騒ぎになりかねん・・・。
何かよい手はないかの?」
レグス「う・・・う~む・・・
では頭を全て覆えるような鎧はあるか?」
王「あるにはある・・・
だがそんな物を使うのは激戦地でのみだ。
しかも視界が極端に狭くなって
死角が生まれやすく、隙も大きいため
近頃は使う兵士もかなり少ない。
ましてや街中でそんな物を着けて歩いている人間など見たことが無い。
かなり目立つ上に人に話しかけても怖がられるだろう。」
レグス「そ、そうか・・・」
二人が考え込んでいると、
部屋の中に見覚えのある“光”が現れた!
≪ありますよ~。そのよい手が!≫
レグス「ん??
まさかこの声はク」
ソ女神 は加護の力が発動し発音できなかった。
≪またそんなこと言う~、ちゃんと名前で呼んで下さい。≫
レグス「随分ご無沙汰じゃないか!
一ヶ月近くも転生者をほったらかしとは
いいご身分だな!」
アリア「何を言いますか。
まだ序盤も序盤。
チュートリアルじゃないですか。
私の力など不要でしょう?」
レグス「し、しかしだな!
異世界で転生者一人・・・
どうしたって不安はあるんだ。」
アリア「でもですね、私が担当してる世界はここだけではないですし
これでも多忙な身なんです・・・。
あなたの様子もちょくちょくは見ていたんですよ。
いや~、ケイラスさんとのあの握手!
男の友情っていいもんですね!」
レグス「はず!お・・・お前な。」
王「おっ、おおーー!
このお声はまさか女神様では!?」
アリア「そですよ~。
女神のアリアスティールです。
先程の頭を隠したいというお話。
私の出番だと思ってはせ参じました。
あなた方を手助けできる良い道具があります。
これで黒豹王の頭を隠せますよ~。
その名も・・・」
レグス「その名も?」
アリア「じゃじゃーん!
豹変ペンダント~~」
ズコーーーー
レグス「○○えもんみたいな言い方すな!!」
アリアが道具名を言うと
レグスの目の前に
可愛らしいデザインの黒豹の頭のモチーフが入った
ペンダントトップのあるネックレスが現れた。
レグス「おお!なんだこれは?」
アリア「それはですね、
黒豹の頭を隠せる道具なのです。
試しにそれを首からかけて
“ひょうへん”と唱えてみて下さい。」
レグス「う、うむ。
で・・・では
ひょうへん!」
王「!!!!
なんとこれは!」
なんと、レグスの頭が一瞬にして人間の男性の頭になった!!
レグス「ん?何も変わらぬが・・・」
王「す・・・すごい!!
レグス殿、そなたの頭が人間の頭になっておるぞ!!」
エイブン王が言うには、
レグスの頭は精悍な顔つきで
肌が浅黒く
短髪黒髪の
男性の頭になっているという。
レグス「なんだとーーーー!!!
アリア!!
これは一体どういうことだ!?」
アリア「いや~~・・・
正確にはですね。
“人間の頭に変わった”
のではなくて
“そのように見せている”
だけなのです。」
レグス「どういう意味だ?」
アリア「この道具はですね、
強力な認識阻害の力が込められています。
つまり、実際に頭が入れ替わっているわけではないが
他の人から見るとそう見えているというだけなのです。」
レグス「なるほど・・・そういうことか。
豹が変わるで豹変か・・・
上手いネーミングを考えたものだな。」
アリア「でしょう?
って別に私が考えたわけじゃないんですが。
ちなみに変化後の頭の種類はランダムで一種類に固定されます。
レグスさんの場合はその頭だけです。
鏡に映せば、自分でも変化後の頭を見られますが、
自分で自分の頭を触っても分からないはずです。」
レグス「ん?
本当だ・・・
自分の頭を手で触っても動物の毛並みのままだ。」
アリア「ペンダント部分の黒豹の目の部分を見てみて下さい。」
レグス「あっ!目が金色に光っているぞ!」
アリア「発動中はそのように色が変化します。
ではもう一度“ひょうへん”と唱えてみて下さい。」
レグス「う・・・うむ。
では、ひょうへん!」
王「おおーー!!
戻った・・・戻りましたぞレグス殿!」
レグス「なんと!!
これは便利だな。」
アリア「良い道具でしょう。
この道具の効果があるのは黒豹王のみです。
だから、もしも紛失したり他の人の手に渡ったりしても
ただのアクセサリーでしかないので
悪用される心配は無いのですが・・・
ぜっっっっっったいに無くさないで下さいね!」
レグス「ん?なぜだ?」
アリア「高いんです・・・。
ものすごく!
元の世界でのあなたの年収よりずっと!!」
レグス「くっ!!余計なお世話だ。
神の世界も金金金とはな・・・。
それよりこんな便利な道具があるならなぜ最初から出さない?
転生時からこれを使っていれば城内の人数を減らす必要も無かったんじゃないか?」
アリア「少なくともこの世界では
私は黒豹王を介してしか他の人間への接触は許されていません。
だから、勿論のこと召喚前にこのような道具の存在を知らせることもできないのです。
ですが、いずれにしろ
最初から黒豹王の存在を知らせるのを
ごく少数の信頼できる家臣のみに絞ったのは英断だったと思います。
(まあ、家臣の中に少し怪しい人物もいましたが・・・
多分放置で大丈夫ですね。)
大きな力であればあるほど
それが争いの火種となり、
収拾のつかない戦争に発展して国が滅んでいくのを
数えきれないほどこの目で見てきました。」
レグス「そうか・・・分かった。
礼を言う。
この道具、有難く使わせてもらうこととしよう。
それはそれとして少し聞きたいことがある。
陛下、また少しアリアと内密の話があるのだがよいか?」
王「うむ、構わん。
好きなだけ話されるとよい。」
レグス≪アリア、今更だが・・・
なぜ言葉が通じるんだ?
俺は日本語で喋っているつもりだが、
この異世界に来て以降、
話すのも聞くのも読むのも書くのも・・・
全く苦労しないんだが?≫
アリア≪ああ・・・それはですね・・・。
またまた“規約”なのです。≫
レグス≪規約!?
今度は一体何だ?≫
アリア≪これまたとある女神が“言語統一”
という規約を作りました。≫
レグス≪言語統一?≫
アリア≪そうです。
しかし実際に言語が統一されているわけではありません。
あなたは日本語で喋っていて、
この王国の人たちはコルニール語で喋っているのです。
これも先程のペンダントと同様に強力な認識補正の力です。
耳から入る言葉、目に入る文字・・・
その全てがそれぞれの母国語として勝手に認識されます。≫
レグス≪おいおい・・・なんでもありじゃないか。
でもなんでそんな規約を作ったんだ?≫
アリア≪その女神がこの規約を作る前・・・
この世界は今よりも更に酷い戦乱の世でした。≫
レグス≪・・・≫
アリア≪言葉の壁がそのまま心理的な壁となり
争いを生む一助になるのではないか?
と考えた女神は言語統一という極めて特殊で
大きな規約を作ることを決意しました。≫
レグス≪うむ。≫
アリア≪しかし、作る規約の大きさによって、
神は自分の“寿命”を犠牲にしなければならないのです。≫
レグス≪寿命!? 神にも寿命があるのか!?≫
アリア≪はい。
人間よりははるかに長いのですが・・・。
その女神が言語統一で犠牲にしたのは、
実に自らの寿命の半分だったと聞いています。≫
レグス≪なんと!≫
アリア≪しかし、その甲斐もあって規約の追加前に比べれば随分平和になったんですよ。
まあ・・・未だに戦争が続いている国もありますが。≫
レグス≪ではもしや・・・『黒豹王』という規約を作った女神は?≫
アリア≪そうですね・・・。
残りの寿命を全て使ったそうです。≫
レグス≪なんと・・・≫
アリア≪規約追加と同時にほぼ即死だったらしいのですが、
最後の執念とでも言いましょうか。
一言だけ言い残しました。
『ただ一目だけでも黒豹王をこの目で見たかった!獣人万歳ーーー!!』
と叫んで死んでいったようです。≫
レグス≪・・・南無阿弥陀仏。
って一々女神のクセがすごい!!≫
アリア≪まあそんなわけでして・・・。
正直自分の寿命を削ってまで新たな規約を作ろうだなんて
よほどの思い入れがないとできません。≫
レグス≪そういうことだったのか・・・。
ところでなんだが・・・
うちの親はどうしてるんだ?
元気で暮らしているのか?≫
アリア≪気になりますか?
私も当選者のご家族に対しては責任がありますから、
時々話させて頂いております。
あなたがこっちの世界で結婚できるかどうか?
を心配なさってました。≫
レグス≪くっ、余計なお世話だ。
大体こんな豹頭と結婚する人間がどこにいる。≫
アリア≪それは分かりませんよ~。
案外マスコットみたいで人気出るかも?≫
レグス≪お前な・・・
他人事だと思って・・・。≫
アリア≪あっ!!
そういえば、実は最近また詐欺に引っかかりそうになって、
寸前のところで難を免れたようです。≫
レグス≪なっ!なんですとーーーーー!!
こうしてはおられん!
俺を元の世界に帰してくれ!≫
アリア≪それは・・・≫
レグス≪できないんだったな・・・
知っている。
はあ・・・
ところでアリア、
お前どんな姿をしているんだ?≫
アリア≪なんですか急に?
もしかして見たいですか?
あまりの美しさに鼻の下がすぐに100メートルぐらい伸びますよ!≫
レグス≪誰が伸ばすか!≫
アリア≪仕方ないですね~。
まじめに頑張っているお礼です。
ほれ。≫
パッ
頭の中に急に女神のイメージが流れ込んできて、
レグスは一瞬にして鼻の下を軽く200メートルは伸ばした!
レグス≪こっ!これは!!≫
アリア≪ふっふっふ~。
どうですかこの美しさ。
・・・まあ嘘ですけどね。≫
レグス≪は?・・・嘘??≫
アリア≪そんな簡単に見せるわけないじゃないですか~。
ミステリアスな女の方が魅力的でしょ?≫
レグス≪はあ、お前という奴は・・・
そんなことだろうと思った。
とりあえずありがとうアリア。
この道具で街へ繰り出すとしよう。≫
アリア≪どういたしまして~。
ではまた!
レグスさん。
寂しがらないで下さいね。
あなたの心の友アリアは
いつもあなたのそばにいます!≫
レグス≪心の友・・・ねえ。≫




