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黒豹王の物語 ◇第一部~序章~◇  作者: 種広交明
はじまり

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12/24

#012「二つ名・不滅の絆」


近衛騎士団の団長ケイラスに基本の動作を一通り教えてもらってから

少し模擬試合をすることになった。


ケイラス「では、私はここで構えていますので

 どこからでもどうぞ。」


レグス「で、では参る・・・」


とは言ったものの・・・


剣で斬りかかるどころか、

ろくに人を殴ったこともない自分が、

いくら木剣とはいえ

人に向けて振るうことに怖さを感じる。

しかも、黒豹王のとんでもない力を目の当たりにしたばかりである。


それに、隙が全く無いケイラスの立ち姿からは

ただそれだけで武芸の美しさと極みを感じさせて、

どうにも一歩踏み出すこともできなかった。


ケイラス「そちらが来ないのなら、こちらから参りますぞ!」


ケイラスがそう言い終わるや否や、

ほぼ同時と感じるほど、

気が付いた時には自分の顔の前に木剣の切先きっさきがあった。


ケイラス「一本・・・ですな。」


レグス「お・・・お見事。」


ケイラス「ここが戦場ならば、今命を落としたということです。」


レグス「う・・・」


3メートルほど距離があったはずだが、

それは本当にまばたきほどの時間でしかなかった。

戦場では瞬きをするタイミングすら、

誤れば致命傷になるのだろう。


ケイラス「とは言え・・・

 私も少し大人げなかった。


 今度はもう少しゆっくり攻めます。

 私の剣を受けてみて下さい。」


レグス「わ、分かった。」


ケイラス「では、参ります。


 ふっ!

 ふっ!

 そら!」


レグス「うっ!

 ぐぅ

 くっ!」


ガシッ!

カーン

カン

カキ!

キーン!


ケイラス「レグス殿、大事なことをお教え致します。

 相手の攻撃は絶対に剣のの部分で受けてはなりません。

 そんなことをすればすぐに刃こぼれになります。

 できる限り剣の腹の部分、刃の無い平らな部分で受けるのが鉄則です。

 厳密には受け流して下さい。」


レグス「わ、分かった。」


ケイラス「では、私がまず手本を見せます。

 私はこうして構えていますから、

 私に向かってどこからでも剣を振ってみて下さい。」


レグス「う・・・うむ。

 では・・・」


ザサ!!

カシッ!

シュシュル!

ガシュ!


レグス「す・・・すごい!」


ケイラスの剣(さば)きは素人目にも「異様」と言いたくなるほどの

驚くべきものであった。

確かに剣に当たっているはずなのに、

まるで宙にぶら下がった布切れに向かって剣をぶつけているかのように

手応えが薄い。


ケイラス「さあ、もっと強くしてもいいですよ。

 遠慮なく。」


レグス「わ、分かった。」


ズバババ!

シュビビ!

シュババ!


黒豹王の力もあり、剣の風圧で少し砂埃が舞うほどの勢いで振っているのに

ケイラスは先程と同じように受け流していた。

さすがに少し手応えは大きくなったが、

見事と言うほかなかった。


レグス「す、すごい・・・お見事。」


ケイラス「いや~、これほど重い剣を受けるのは久しぶりです。

 私以外の者なら剣がはじき飛ばされていたかもしれない。

 私にとってもい訓練になりました。

 さあ、次はレグス殿の番ですよ。


 では・・・参ります!」



ガガ!

カシッ!

カーーン!


ケイラス「いいですよレグス殿!

 その調子です!


 では・・・

 こんなのはどうですか!

 ふんっ!」


レグス「うぅっ!!」


ケイラス「また一本・・・ですな。」


レグス「す・・・すごい!

 一体何が起こった?」


あまりに一瞬のことで分からなかったが、

左下から振り上げたはずのケイラスの剣が消えて

逆に右から眼前に突如現れた。


ケイラス「これはフェイントです。」


レグス「フェイント?」


ケイラス「そうです。

 まあ剣が消えたように見えるレベルに到達するのは並大抵ではありません。

 私が得意とする手です。


 しかし、この前アモンに見破られてしまいましてね。

 ははは、私もまだまだ甘い。」


レグス「え!?

 ア・・・アモン??」


ケイラス「そうです。

 あっ、そういえばまだ紹介していませんでしたね。

 アモンは近衛騎士団副団長なのです。」


レグス「えっ!えええええええええ!!!!!」


あまりの衝撃に頭が真っ白になった・・・

あのアモンが?

天真爛漫な少女にしか見えなかったアモンが

()()()??


レグス「はっ、ははは!

 さすがに冗談がきついですよケイラス殿。」


ケイラス「やはり信じられませんか?

 まあ当然の反応ですかね。

 アモンはあまりに特殊です。


 才能・・・などという言葉だけではもはや生ぬるい。

 アモンを的確に表せる言葉はこの世に存在しないかもしれない。


 あまり使うべき言葉ではないかもしれませんが・・・

 あれはある意味化け物です。」


レグス「ばっ、ばけもの!?」


もしかしたらこの異世界に来て以降最大の衝撃かもしれなかった。

あのアモンと化け物という言葉があまりにかけ離れていて

自分の中で結び付かない。


しかも、ケイラスの先程の神技とも言うべき剣技を見破っただと?

多くの男子が兵職に就いているこの国で、

実力でそれらを押しのけて、

しかもあの年齢で副団長の地位に就くなどということがあり得るのか?


レグス「で・・・ではアモンの強さは・・・」


ケイラス「そうですね・・・

 はっきり言って常軌を逸しています。


 アモンは尊敬と畏怖の念を込めてこう呼ばれています。

 『神速しんそくのアモン』と。」


レグス「神速の・・・アモン。」


ケイラス「まあ、強いは強いのですが・・・。

 レグス殿も知っての通りあの性格ですからね。


 アモンの素顔を知る人達からは、

 別に怖がられることもなく慕われています。


 しかし、アモンに恐怖するのは敵国でしょうね。

 つくづくあの子が味方で良かったと思いますよ。」


レグス「そ・・・そうだったのか。

 自分はその強さに少しも気付くことができなかった。

 やはり、戦士ならば見てすぐに分かるものなのか?」


ケイラス「いや・・・アモンのことを全く知らずに

 初めて見る兵士は、皆最初馬鹿にしたものです。

 しかし、一度手合わせするや否や

 皆何が起こったかも分からない内に負けます。」


レグス「・・・。」


ケイラス「事実、私も一度手合わせするまでは全く分からなかったのです。

 しかし・・・

 忘れもしない。

 最初にアモンと手合わせした時の事です。


 あの子が戦闘状態に入った途端・・・

 『空気』が一変しました。」


レグス「空気?」


ケイラス「そうです。

 私は確かに感じました。

 肌の表面がビリビリとしびれる感覚・・・

 あれは超一流の戦士を前にした時にしか感じない

 特殊な感覚です。


 あとほんの少し、それに気付くのが遅れていれば

 私も負けていたでしょう。」


レグス「す・・・すごい話だ。

 その勝負見てみたかったものだ。」


ケイラス「アモンは戦闘状態に入るとほとんど別人になります。

 まるで、戦闘時だけアモンの中に存在する戦闘の神が表に出て来たかのような・・・

 実は・・・そのことで思わぬ影響が出ていまして。


 普段の明るいアモンと、戦闘時のアモンとのギャップがあまりに大きいことから

 心を射抜かれる者が続出中なのです。」


レグス「心を、射抜く!?」


ケイラス「はあ・・・

 私も最近知ったのですが、一部の者達が『闇アモン様ファンクラブ』なるものまで

 作ってしまったらしいのです。」


レグス「や、闇アモン!?」


ケイラス「そうです。

 レグス殿・・・

 気を付けないとあなたも射抜かれますよ。」


レグス「はっ、はは。

 またまたご冗談を。

 ケイラス殿こそ射抜かれるのでは?」


レグスはこの時知るよしもなかった。

自分も、その闇アモン様の餌食えじきとなることを!!


ケイラス「それこそまさかですよ。

 私にとっては、アモンは年の離れた妹のように感じます。

 あの子は少し常識外れなところもあるので、

 見ているといつも不安でね。」


レグス「それにしてもファンクラブ・・・。

 異世界推し活とは珍妙な・・・。」


ケイラス「おしかつ?

 なんですかそれは?」


レグス「いや、こちらの話だ。」


ケイラス「すっかり話がそれてしまいましたが、

 少なくとも、この国で最も強い女性はアモンです。

 とは言え・・・この国にはアモンに勝つことのできる人間も、

 私も含めれば片手で数えられるぐらいならば存在します。


 そしてそういう人達は、皆アモンと同じように別名があります。

 まあ、私も『極技きょくぎのケイラス』などと呼ばれていますが。」


レグス「極技の・・・ケイラス。

 か・・・かっこいい!!

 我も・・・我もそのような二つ名が欲しい!!」


俺はこの世界に確かに存在する『二つ名』という概念に

強く打ち震えた!!

中二病を罹患りかんする患者の一人として

この好機を絶対に見逃すわけにはいかない!!


ケイラス「えっ?

 二つ名・・・ですか?」


レグス「そうだ。」


ケイラス「あはははは、何をおっしゃるか。

 あなたには黒豹王という立派な名前があるではないか。」


レグス「そうではない。

 もっとこう・・・

 なんというか、

 こう・・・


 中二病ちゅうにびょうをくすぐるような。」


ケイラス「ちゅ?ちゅーに?

 なんですかそれは?」


レグス「いや・・なんでもない。

 こちらの話だ・・・。」


確かにケイラスの言う通りだ。

『黒豹王』という大層な大看板を背負っている自分に

これ以外の別名が付くことなどあるだろうか?

このような好機を目の前にして

ただ手をこまねいていることしかできないとは・・・

深い失望感に襲われた。



レグス「それはそれとしてケイラス殿に少しお聞きしたい。

 貴殿はなぜ近衛騎士団長を目指されたのか?」


ケイラス「ああ、それは私にとってごく自然なことなのです。

 我が家は代々近衛騎士団の家系なのです。」


レグス「なるほど・・・そういうことであったか。

 合点がてんがいった。」


ケイラス「と、申されますと?」


レグス「うむ。

 貴殿には強さだけではない。

 品性や知性、そして強い気高さが感じられる。

 名門の出ということであれば納得がいく。」


ケイラス「あはははは、そう見えていたのなら光栄です。

 もっとも近衛騎士団長にまでなったのは私が初めてだったようですが。

 団長を目指した・・・というより気付いたらそうなっていただけです。


 私はとにかく剣が好きでした。

 この国に男として生まれれば剣を握ることは自然なことなのですが、

 にしても、私ほど剣を愛する人間もそうはいないと自負しています。」


レグス「・・・。」


ケイラス「幼少の頃より、剣を握っている時だけは

 全ての雑念から解放され

 自分の魂が剣に宿っていると感じられました。

 ですから、毎日夢中になって剣を振り続けてきたんです。


 そして気が付けば・・・近衛騎士団長と呼ばれる自分がいました。

 身に余る光栄です。」


レグス「そうだったのか。

 貴殿はまさに剣と共に生まれて来たかのようなお人なのだな。」


ケイラス「あはははは!上手いこと仰る!

 そう・・・

 確かにそうかもしれません。

 レグス殿・・・

 あなたとは良き友人になれそうな気がします。」


ケイラスはそう言うと、右手を前に出した。


レグス「うむ。

 我もそう思う。

 今後ともよろしく頼む・・・ケイラス殿。」


レグスはその右手をとり握手をした。


ここに・・・

二人の強き男の絆が固く結ばれた。


これはただのあいさつ程度の握手とは似て非なるものである。

これは二人にとって

生涯続く不変の友情であり

共に困難な戦いに身を投じる戦友であり

国を思う同志であり・・・


それは、何物にも代えがたく

また、何者にも断ち切ることのできない

絆が交わされた歴史的な握手だった。


神秘的な黒豹王の大男と

美しい白い兵装を身にまとった近衛騎士団長が

握手を交わすその光景は・・・


もしそこに人がいれば

まるで重要な歴史の一幕を垣間見かいまみたかのような

絵画の中から飛び出して来たかのようなその光景に

息を呑んだに違いなかった。


だが・・・そのだだっ広い訓練場に

他に人の姿は無かった。


その光景を唯一見ることができたのは

たった一人

女神だけだったのかもしれなかった・・・。




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