#011「ケイラスという男」
短い時間だったが、非常に有意義で大切な話し合いを終えた後、
俺はケイラス近衛騎士団長に訓練場に案内された。
ケイラス「さあ、着きましたぞレグス殿。」
レグス「おおーー!」
ケイラスが大きな扉をガラガラと横に押して開くと
学校の体育館の倍ほどもある、だだっ広い空間が広がっていた。
地面は土、砂地で、例えるなら学校のグラウンドのようだった。
壁は木製でかなり高く、天井も木製だがこれまたかなりの高さだった。
雨天でも訓練できるように、このような屋根付きの立派な訓練場を作ったのだろう。
レグス「ん? あれは・・・」
壁際の一角にとても大きな石が並んでいた。
ケイラス「え?・・・ああ、あれは体作りに使用するのです。
あれを持ち上げたり、振り回したり、投げ飛ばしたりします。」
レグス「ええ!?」
驚愕した。
サイズにばらつきはあるが
一番大きい物はテレビ画面ほどの大きさがあり、
もはや岩である。
ダンベルやバーベルなどの近代的なトレーニング器具など無くとも、
このような原始的な物で体を鍛えているようだ。
また別の壁際には、剣、槍、弓など様々な武器が並んでいた。
ケイラス「あちらに訓練用の木製の剣があります。
先は怪我をしないよう尖っていません。
お互い一本ずつ選びましょう。」
レグス「うむ。」
自分が持ったことのある刃物は包丁ぐらいのもの・・・。
ああ・・・いくら木製とは言え、ついに剣を手にしてしまった。
自分が、着実に一歩ずつ戦いに近づいていることを感じる。
ケイラス「ではまず持ち方からお教え致しましょう。」
と言ってケイラスが目の前まで来た。
しかしこのケイラスという男・・・
はっきり言って死ぬほどイケメンである!!
金髪碧眼、爽やかな短髪。
自分が大男になってしまったため分かりにくいが、
身長もかなり高く180センチ以上だろう。
近衛騎士団長ということもあり、白を基調とした美しい兵装で、
所々に髪色と同じ金色のラインがあしらわれている。
まさに絵に描いたような騎士だった。
イケメンとは言っても現代の男性とはかなり異質なものがあった。
剣術という一つの武芸を究めようとする求道者としての厳しさや
揺るぎない信念を感じさせる力強さが
全身からみなぎっていた。
勿論のこと、毎日の鍛錬により体はがっしりして引き締まっている。
まるでハリウッド映画から抜け出て来たかのようなその雰囲気に
俺は乙女のように見惚れてポッと頰を赤らめてしまったのだが・・・
幸いにも顔が黒い毛で覆われているため、それがばれる心配はなかった。
テレビ画面越しなどではなく、
自分の人生において自分の眼球が直接視認した生物の中で
『最もかっこいい生き物』であることは間違いなく、
知らず知らず目を離せなくなり、
我を忘れてうっとり見つめてしまっていた。
レグス「・・・ ・・・」
ケイラス「ん?・・・レグス殿、どうされましたか?」
レグス「え? い、いや何でもない。」
「あなたがかっこ良すぎて見惚れてました・・・ポッ。」
などと言えるかい!
レグス「えーと・・・これでいいのか?」
ケイラス「あっ、そうではありません。
ガッチリ握り過ぎてはいけません。
卵を持つように柔らかく。
・・・
そうです。」
ケイラスが超至近距離で手取り足取り優しく教えてくれたが・・・
もうやめてくれ。
じゃないと・・・
惚れてまうやろーーーーー!!
ギブ!
もうギブです・・・ケイラス様。
普段、男に対しこんな乙女のような感情などわいたことも無かったのだが・・・
『異世界イケメン』おそるべし!
ケイラス「では、実際に剣を振ってみましょう。
まず私を見ておいて下さい。
上段!
中段!
下段!
いかがですか?」
レグス「す!・・・すごい!!」
ど素人の自分が見ても、その素振りだけで目を見張るものがあった。
動きに1ミリも無駄が無く、
筋肉が生み出す力や重心、荷重の全てが
100%剣先まで伝わっていることがはっきりと分かった。
もしも真剣なら、人の手足など簡単に斬り飛ばしてしまうだろう。
ケイラス「ではレグス殿も実際に振ってみましょう。
まずは上段から。」
レグス「で・・・では。
・・・ふん!!」
ブワーーーーー!!
レグスとケイラス「!!!!!!」
俺が力いっぱい剣を振り下ろすと、
二人ともが驚愕する光景が広がった!
ただ木剣を振り下ろしただけで
まるで突風でも吹いたように砂埃が舞ったのである!
ケイラス「な・・・」
レグス「え?・・・・・」
二人ともが言葉を失い、その場に奇妙な時間が流れた。
・・・・・・
ケイラス「こ・・・これは一体。」
レグス「え・・・わ、分からない。
我はただ振っただけだ。」
・・・
ケイラス「し、信じられない。
こんな素振りは見たことが無い。」
レグス「そうなのか。
確かに先程ケイラス殿が振ってもこうはならなかったが・・・。」
ケイラス「これが黒豹王様のお力か。
素晴らしいものを見せて頂いた。」
レグス「いや、我はただこの力を借りているだけに過ぎない。
ケイラス殿のように剣を振れるよう教えて欲しい。」
ケイラス「で、では改めて二人で素振りをしましょう。
では私に続いて!
まず上段から!
1!
2!
3!」
レグス「1!
2!
3!」
その後、ケイラスに細かく動作を教えられて
約1時間ほど素振りが続いただろうか。
先程のように力を込めすぎると突風が起きるほどなので
力加減をして素振りをした。
ケイラスはじんわり汗がにじんでいるように見えるが、
自分はと言えば、
少しポカポカする程度で、汗も出ていなければ息も上がらず
疲れも感じない。
全く恐ろしい体である。
ケイラス「す、素晴らしい!
なにかもう形になってきていますよ!」
レグス「そ、そうなのか?
自分ではよく分からないが・・・」
ケイラス「これならもう『型』の練習をやっても良いのかもしれない。」
レグス「型?」
ケイラス「そうです。
剣術には型というものがあります。
相手の攻撃のパターン、
それに伴う防御と反撃、回避のパターン。
細分化すればきりがありませんが、
代表的なものをお教え致します。
まず自分の上段付近への攻撃に対する型です。
ふっ!左から
ふっ!次は右から
ふっ!次は上
ふっ!最後に下。」
レグス「お~~」
ケイラス「上段には顔や首など、
わずかな接触で致命傷になり得る急所が多く存在します。
まずここから覚えていきましょう。
では再び私に続いて!
1!
2!
3!」
レグス「1!
2!
3!」
へばる様子もなく付いて来る生徒を前に
すっかり興が乗ってしまったのか
ケイラスの型の指導はまた1時間ほど続いた。
ケイラス「はあ・・・はあ・・・
ふ~~
さすがに疲れてきましたな。」
レグス「う・・・うむ。」
本当は全く疲れていないことは秘密にした。
ケイラス「レグス殿。
先程話を聞いていて、
本来のあなたは戦いなど好まず、
平穏な日々を送っていたのだろうと思いました。」
レグス「・・・」
ケイラス「ですから、剣を習うことに抵抗感もあるかもしれません。
しかし、今日お教えした基本については
できる限り毎日反復練習して下さい。
最も重要なのは結局基本なのです。
戦場では、考えてから動いているようでは命がいくつあっても足りません。
ですから、考えずとも体が動くように、
基本の動作を体に覚えさせる必要があります。
あなたが先程仰った『守りたいもの』の中に
あなた自身も含まれているはずです。
そして、この練習はいつかあなた自身をきっと助けてくれます。」
レグス「分かった。毎日練習することとしよう。」
ケイラス「では、本日の締めくくりに・・・
少し模擬試合をやってみましょう。」
レグス「し、試合!?」
ケイラス「はは、大丈夫です。
実際は寸止めします。
相手に参ったと言わせたら勝ちです。」
レグス「そ、そうか・・・お手柔らかに。」
ケイラス「こちらこそ。
レグス殿、本気で振らないで下さいよ。(笑)
いくら木剣と言えども吹き飛ばされてしまう。」
レグス「分かった、気を付けよう。」




