晩餐 六
「結局、こうなるんだ…」
三太は重い荷物を背負いながら誰にも聞こえない程度の声音でつぶやいた。背負った荷物は三太の背丈を超え、一見すると巨大な岩のようにも見えた。そんな荷物を背負いながら道なき道を行くことになるとは。
いや、昔からそんな役回りだったなと三太は思い直す。
稽古の一環で山籠りをした時も荷物持ちは三太の仕事だった。というか、最近も同じようなことを思い出した気がする。とにもかくにも三太は山登りには慣れていた。
坂道を登りながら、充満する緑の匂いを吸い込む。周囲に伸びた背の高い木々。木漏れ日の眩しさに目を細め、三太はゆっくりと息を吐いた。
「三ちゃん大丈夫? 辛かったらママが持つからね?」
「大丈夫です。あと、ママはやめてください」
「あ、男の子だからお母さんの方がよかったかしら?」
「そういう話じゃないです」
最近では慣れてしまったやり取りに三太はなんだかなぁという気分になった。ただ、実際問題として疲労は特になかった。もともと慣れていたこともあるがここ二ヶ月近くの鍛錬で肉体的にも充実しているからだろう。様々な試作品を食べ続けたのも良かったのかもしれない。食が肉体を作り、鍛錬が体力を作る。そういうものなんだと三太は改めて理解した。
「おーい、そろそろ休憩するぞぉ」
先頭を歩く文七が言った。
休憩するような場所は当然ない。その場に座り込むだけた。
三太は荷物を丁寧に下ろし、中から全員分の水筒を取り出した。順次手渡しして、三太も地面に腰掛けた。
水筒の水を一口含み、姿勢を楽にする。
静かだった。
不思議だったのは虫の声が聞こえないことと虫や獣の気配が全くしないこと。これだけ緑が青々と茂っているのに生物がまるでいないと感じるのはなぜだろう。
「意外と体力あるのね」
ぼんやりとしていると瀬菜が声をかけてきた。
今回は彼女も同行している。およそ山登りにふさわしいとは言えない薄着だったが息も切らしていない様子だった。三太にとっては逆にそれが意外だった。
「まぁ、実家の稽古で慣れたから。それより瀬菜の方がすごいよ。そんなに体力あったっけ?」
「…あたしはズルしてるだけ。あんたらほど鍛えてたわけじゃない」
ん?
三太は違和感を覚えた。なんというか、瀬菜のズルという言葉がらしくなく感じたのだ。彼女はそういうこととは無縁な性格だったし、どちらかと言えば強引に物事をねじ伏せる性質だった気がする。
最近気づいたが、彼女は自身の変化をあまり前向きに捉えてはいないようだった。
それはそうだ。いきなり自分が燃えるように輝いたら誰だって驚くし、人外の能力を発揮して何も感じない方がおかしい。
そもそも、三太は彼女の変化の理由もいつからそうなったのかも何も知らない。
学生時代の瀬菜しか知らないのだ。
機会があればと思いながらも今の今までずるずると聞けずにいた。
今なら、聞けるかもしれない。
すぐには話してくれなくてもきっかけにはなるんじゃないだろうか。
三太は、そう思って話そうとして、
「出たぞっ!」
そんな大声が聞こえた。
文七だ。
いつの間にか文七は一人で先に進んでいたらしい。
三太たちは水筒を持ったまま、文七の元へ向かった。
「なんだ、これ」
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