晩餐 五
「いや、それじゃ同じじゃないですか」
とりあえず話を聞こうと考えていた三太だったがあまりに単純すぎる返答だったので反射的に否定してしまった。
というか、それではこれまでと何も変わらない。
あれか、ぬるま湯の環境すぎて不満が溜まってしまったのかもしれない。機嫌が悪かったのもそれが原因の可能性が一番高いことに三太は気づいた。
「いんや、違うね。獲物の質と規模が違う。お前さんも度肝抜かれること間違いなしだ」
にゃははは、とこれまで見せたことのない肉食獣の笑みを浮かべる文七。
やはり、相当不満が溜まっているらしい。
ようは暴れたいということなんだろう。三太はどうやって文七を押し留めるよう説得するか知恵を絞らなければならないなと気合を入れ直した。
「でも、文七さんがそこまで言う大捕物となると準備にも時間がかかるんじゃないですか? あと一月あるとはいえ、市村さんにも負担がかかりますし」
「なに、こいつを獲れればすべてチャラさ。よくよく聞けば、こっちの世界は丸焼きが基本みたいなもんだしな。シンプルな方がウケは間違いなくいいだろうよ」
「丸焼きって…」
それこそここ二ヶ月近い時間を全否定する行為である。
文七の影響力を考えれば三太と瀬菜の案など真っ先に忘れられてしまうだろう。そもそも、三太と瀬菜には拒否出来る権利も意思もないと言っていい。止めるなら、三太と文七が一対一で話している今を置いてないような気がした。
「たとえば、何ですけど」
「ん? なんだ、お前さんも考えがあるのか?」
よかった、話を聞いてくれるくらいには理性が残っているらしいと三太は安堵した。獣の本能が明らかに強くなっているがまだ辛うじて手遅れになってはいないようだ。
「お前さん、今失礼なこと考えたろ」
「いえ、そんなことありません」
やはり勘が冴え渡っている。
三太は動揺を表に出さないよう勤めて冷静に対処する。
文七は訝しげな視線を向けてくるがそれすらも無視して、三太は言葉を続けた。
「余興ではありませんが、市村さんにこれまでの半生を語ってもらうのはどうでしょう。普通の対話では語りきれないところもあるでしょうからある程度年表というか出来事を挙げてもらって、それを紹介するようにしていけば」
「…なるほどな。まぁ、そこまで準備が必要なさそうだし悪くはねえのか? ま、とりあえず明日みんなの前で話してみればいいじゃねえか」
意外に冷静な対応だった。
だめだ。否定されればそこに売り言葉に買い言葉で有耶無耶にできるかとも淡い期待を抱いていたがそれもできなくなった。三太は別の角度から話を進めることにした。
「瀬菜は、あの、酒が大事って言ってました」
酒。
三太には重要性が理解できなかったが文七のような大人には理解できるのではないだろうか。そちらに賛同してもらえば、狩りなんて野蛮な真似は止めてくれるんじゃないかと思って、
「あいつが酒を作るって言ったのかっ!? だったら、ますますあいつをやらなきゃならねえじゃねえかっ!はは、あいつの酒は絶品だぜ!」
やる気を上げてしまった。
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