晩餐 四
「気分を良くする? なに、座興でもしようっての?」
「そこまでは考えてないけど。なにか贈り物みたいなものを渡すのもありなんじゃないかなって思ってさ」
「当てはあるの?」
「それは明日話してみてかな」
「ほんと行き当たりばったり。もう少し考えなさいよ」
「そこまで言うことないだろ。他に何か案があるっていうの?」
「あるわよ。それを伝えようと思ったから連れてきたんじゃない」
「え?」
意外な返答に三太は驚いた。
売り言葉に買い言葉かとも思ったが瀬菜は太々しい態度を崩さない。
三太は動揺を隠しきれず、単刀直入に聞いた。
「えっと、具体的には?」
「酒」
「…は?」
「あんたら肝心なことを忘れてんのよ。どんな宴席でも一番大事なのは酒よ。酒こそがお互いの蟠りを溶かす最高の緩衝材であり、最高の円滑材。極論、酒さえあれば全て丸く収まるわ」
何を言ってるんだろう。
まるで居酒屋の親父が話す戯言のような言葉に、三太はどう反論すればいいのかわからなかった。けれど、案の一つとしては面白いのかもしれない。頭から否定するのは議論をする上では一番やってはいけないことだと三太は自分自身に言い聞かせる。
自信満々で得意げな表情の瀬菜。三太はとりあえず肝心なことを聞くことにした。
「えっと、じゃ、どんなお酒を出すの?」
「あたしの酒」
「え」
「だから、あたしが作る酒を出すのよ」
✴︎
なぜか自信満々な瀬菜に対して三太はこれ以上の話は明日にしようと切り上げた。
瀬菜も明日を楽しみにしてなさいとか言っていたので、とりあえずは問題ないだろう。そもそも瀬菜がどうして酒造りなんてことを言い出したのかはわからないが意外にやる気があったことを喜ぶべきなんだろうなと三太は思う。
なにより、彼女は具体的な案を出してきたのが大きい。
未だに三太は曖昧なことしか出せていないのだから、瀬菜を非難などできるはずもなかった。一晩あるのだから、三太も具体的な内容を練らなければならない。
とりあえず自室で考えてみようと戻ってみれば、
「おーおー、女の部屋からお帰りとは随分楽しんでやがりますなぁ。なんだい、おいらは仲間はずれかい?」
なぜか文七が不機嫌そうにあぐらをかいていた。煙管の煙が濃い。食事の後、まっすぐ三太の部屋に来たらしい。タバコ盆まで用意しているあたり、結構な時間待っていたらしい。瀬菜との対話自体、そこまで長くなかったような気がするがすぐにここにこなかったことが気に食わなかったのだろうか。
わかりやすすぎるほど機嫌の悪い文七にビビりながら、三太は聞いた。
「えっと、文七さんも明日の件ですか?」
「ああ。けど、お前さんがなかなか戻って来ねえからこうして待ってたってわけだ。乳繰り合うのもいいがもうちょっと空気ってやつを読んでほしかったねえ」
茶化すように言っているが目が笑っていないのは気のせいだろう。
猫の姿で凄まれるのははじめてだが迫力が半端ない。
三太は正座して文七の言葉を待つことにした。
「すいませんでした。それで、どういった話ですか」
「ふん。ま、これ以上時間を無駄にするのもあれだしな」
文七は言った。
「おれとヨシツネとお前さんで狩りに行くぞ。大物を引っ提げて土産話の一つでもしてやろうぜ。あの男はそういうのが好きそうだからな。稽古の成果を見せてみろ」
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