晩餐 三
「とりあえず飯を食っちまおう。なに、まだ時間はある。今日は一旦休みにして明日またどうするか考えようや」
重苦しい雰囲気の中、文七はそう言って飯を食べ始めた。
それが問題の先延ばしでしかないことは三太にもわかったが、この場で話し合っても意味がないこともわかっていた。つーか、何が好きかもわからないんじゃどうしようもねーじゃん。下手な鉄砲数撃ちゃ当たるじゃあるまいし、通りであんだけ試食を作るわけだ。
三太もとりあず箸をつけ、ヨシツネや瀬菜も食べ始めた。不意に、三太は気付いた。瀬菜があり得ないほど険しい表情を浮かべていることに。
料理がまずいわけじゃない。というか、むしろ美味すぎる。
ようはこの状況に不満を感じているのだろう。けれど自分が主役でもないから黙っているつもりらしい。ヨシツネは何というか、基本的にどうでもよさそうにしている。
市村ヨネは市村ヨネで困った表情を浮かべているが焦りが見えない。
三太は釈然としないまま、食事を平らげた。
✴︎
食事を終え、食器を片付けると瀬菜に袖を引っ張られた。
呼び出しである。
瀬菜はそのまま台所から消えたので、三太は部屋に戻るふりをしながら後をつけた。
辿り着いたのは瀬菜が泊まる部屋だった。
中に入ると殺風景な印象を受けた。三太も人のことは言えないが2月近い滞在期間があっても生活臭がまるでしないのが不思議だった。こまめな掃除もしているのだろう。埃一つなさそうな様子は素直に感心した。
が、瀬菜に険しい表情で睨みつけられ、三太は気を引き締め直した。
「あんた真面目にやってんの?」
キツい一言。
開口一番に叩きつけられたそれに、三太は学生時代のことを思い出す。
そう、彼女は本来こういう性格だったのだ。間違ったことを正さずにはいられない性分。この状況で、瀬菜が何かを言いたくなるのは当然の流れだった。
「厳しいね」
「当たり前でしょ。あんた、どこか他人事みたいに考えてるんじゃない?」
「そんなことないけど」
「だったら何でこんなことになってるのよ。あんた王位継承権とかいう厄介なもの押し付けられてんのよ? 期限の半分が過ぎて何も決まってないなんてあり得ないでしょ」
ごもっとも。
反論の余地がない正論に対して三太は何も言えない。それを見て、瀬菜は険しい表情のままわざとらしくため息を吐いた。
「ほんとに何も考えてなかったのね、あんた。どうしてそう行き当たりばったりなのよ」
「あはは。まぁ、なんとかするしかないよね」
「するしかないでしょ。で、考えはあるの?」
「あるって言えるかはわからないけど、一応は」
「そ。じゃ、それ話して」
なんで?
そう言いたくなったが瀬菜が三太のことを心配しているのはわかっているので素直に話すことにした。
またも学生時代を思い出す。
何か問題があった時、瀬菜は必ず三太の相談相手になってくれた。三喜夫のやつもそうだったが、人間関係全般に関しては三太も三喜夫もポンコツそのものだった。そんな時頼りになるのが瀬菜だったのだ。
だから、三太は素直に話した。
「気分が大事だっていうなら気分を良くしてやればいい。それをどうするかって話なんだと思う」
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