晩餐 二
「さ、召し上がれ」
用意されていたのはいつもの料理とはまるで違っていた。というか、三太がよく見慣れた食卓だった。
焼き魚、漬物、米、味噌汁、その他。
懐かしさに箸の進みが早まりそうになったが、それとは全く別の感想が思い浮かぶ。
これまでは明らかに三太の世界のそれとは全くの別物の料理が出てきたのに、ここでこれが出てきたのだ。
それが異常でなくて何なのか。
「あの、市村さん」
「ママ」
「…市村さん、これって」
謎の指摘を無視して三太は言葉を続けた。
市村ヨネはまだ納得行かなそうだったが、話の内容が内容だっただけに諦めたようだ。
「うん、ネタ切れ」
あっさりとしたセリフだったが自体は深刻だ。
なにせ食事会まではすでに一月もない。
だというのに、
「結局、決まらずですか」
「なかなか難しいのよね。どうしてもピンとこないというか」
市村ヨネは困ったように笑った。けれど、三太としてはとても笑える気分ではなかった。
ここ二ヶ月の間、市村ヨネは様々な料理を試作しては三太達が平らげてきた。どれも絶品で満足する出来栄えだったが、当事者である市村ヨネと使用人が納得しなかったのだ。
これでは、あの男は満足しないと。
「重ねて謝罪を。我らが主人は食に興味はありませんが、好みには人一倍うるさいお方です。以前他国との和睦の会食で出された料理が気に入らずに破談になったこともありました。結局、その場で大暴れをして他国の賓客を皆殺しにしてしまいました」
「そもそも決戦だしね。私の料理であのクソ野郎を屈服させないと」
なんだか物騒すぎる話は無視して三太たちは市村ヨネが納得いくまで試食を重ねることにした。
食材も膨大な量があるったし、三ヶ月があればある程度の指針はできると思っていた。それが甘すぎる考えだったと三太は痛感する。
そもそも、彼女自身が素人なのだ。主婦として料理をしたことがあるとは言え、料理人でもない彼女が振る舞う料理などたかがしれいてる。もちろん、三太としては絶品の料理だった。けれど、あの男は腐っても王様なのだ。美味しい料理なんてのは食べ飽きているんだろう。
食文化がないと女の使用人は言っていたが、彼女達の様子を見る限りそれは的外れだったようだ。
というか、出鱈目に近かったんじゃないだろうか。
「何か御用でしょうか?」
三太の視線に微笑みを浮かべる女の使用人。ジイと同じ顔のはずなのに、なぜか可愛らしく見えてしまった。
いや、今は彼女に構っている暇はない。
「そもそも、あの王様が好きなものってなんなんですか?」
「それがわからないのよ」
「え?」
嘘だろう、と三太は市村ヨネを見たが彼女は真剣な表情そものだった。
まさか、そんな初歩的な情報すらなかったとは。
三太は頭を抱えたくなった。
「あー、その、じゃあ、あなたなら知ってるんじゃないですか?」
とりあえず男の使用人に三太は質問した。
たしか、この男はあの王様の側近でもあったはずである。長年一緒にいれば好みの食べ物くらいは理解しているはずだ。
いや、と三太はそこで気づいた。
「重ねて謝罪を。我が主人は食事の際は基本的に自身で狩ったものを食します。けれど、同じものであってもその時の気分によって好き嫌いを判断しているようきらいがあります。ですから、私ども家臣一同は主人の食には常々頭を悩ませておりまして」
わかっていれば最初から情報を共有しているはずである。
そもそもの出だしから間違っていたという事実に、三太はこの二ヶ月がどれだけ無駄な時間かを過ごしてきたのかを思い知った。
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