第5話 初戦闘?
ぷるんと揺れ、薄めの水色あ透き通って見えるその生物の名はスライム。
捕食行動を繰り返し、何時も体内では何かしらを消化していることから”喰尽者”と呼ばれている...と視界に解説文が浮かび上がった。これもDGの機能の一つなのだろう。
それにしても喰尽者とは...仰々しい二つ名を付けられたものじゃないか。
と、前までの俺ならば一蹴に出来たのだろうが、今の俺はそう出来なかった。
それもその筈、スライムの体内には明らかにスライムより大きかったであろう骸が浮いているのだから。
説明を読み進めると、どうやら”強いモンスターを捕食する”のはスライムの習性の様なものらしく、同種族内で派閥争いに陥った際に『こっちはこんな強いモンスター捕食したもんね!』と主張する為のものらしい。
つまりこのスライムは―――
―――明らかに俺よりも強い。
そう頭が理解した瞬間に俺とスライムの両者が動いた。
俺はスライムに背を向けて全力疾走、スライムは俺を捕食せんと言わんばかりに飛び掛かって来る。
「ひっ!」
まるで弾丸の様に俺の肌擦れ擦れを抜けたスライムを見て、俺の口から頼りない悲鳴が零れる。
(あんなの当たったら即死じゃないか!)
言葉にはしないが、心の中で絶叫した。
ただ、逃げるならスライムが遠くに飛んで行った今しか無いだろうと思い、一心不乱に走りその場を逃げ去った。
「はあ、はあ...」
いきなりあんなモンスターの真ん前に放り出すとは、あの優男は優しくない。なので優男から降格してあいつは唯の男だ。もはや鬼男と言っても良いレベル。
「これからどうしろって言うんだよ...」
スライムが見えなくなった地点でぽつりと零す。
あのスライムみたいなモンスターがそこらに湧いていたら、ソロなんてやっていられない。
どうしたものかと頭を悩ませていると、DBが震えだして止まった。
俺はDBを操作して振動の原因であるメッセージを表示した。因みにDBの操作はタッチパネル式の腕時計に似ているので、すぐに慣れることが出来た。
俺はメッセージを読み上げた。
「差出人は...遊戯神の奴か。要件は『DBのメニューの『ログイン/ログアウト』からログアウトが出来るよ』、ね..」
ログアウトか。その存在をすっかり忘れていた。
俺は右手を動かして『ログイン/ログアウト』の画面を表示して、ふと指を止めた。
ログアウトした後のことが気になったのだ。もう一度ログインした際にまた化け物の目前から始めるなんて絶対に嫌だ。
俺の考えが届いたのか、またしてもDBが震えた。
差出人は当然優男だ。内容はと言うと...
GEFは現実を舞台として、DGに映した現実の光景の上にGEFのデータを映像としてリアルタイムでDGの液晶に映し出して行われている。
なので、ログインしていない人にとって俺は『ただ素振りしているだけ』に見えるのだとか。
分かりやすい説明だ。つまり俺は周りからして見れば必死こいて走ってる滑稽な奴ってわけだ。
そしてその結果として、ログインしてGEF内を移動すると、現実でもGEF内での移動に伴い移動しているので、「あれ、俺こんな所まで来たんだ?!」となることがごく一部のプレイヤーに起こることがあるらしい。
今ではその改善策として『現実でのマップをGEF内でも確認出来る』や『VRゴーグルを被り、自宅のベッドの上でキャラクターを動かし、セーブすることによって次にログインした時にその地点から始めることが出来る』などの対策が採られているのだとか。
つまり俺は現実・GEF内ともに移動しているので、ログアウトするとログインした場所と異なる。そしてその逆『次に異なる場所でログインするとログアウトした地点ではなく、異なる地点から始まる』のだ。
『つまり次君が違う場所からログインすると、スライムの前からは始まらないってわけさ。まああのスライムは半ばバグみたいなものなのだけどね』
俺は優男の独り言の様なメッセージを読み上げ、即座に『ログイン/ログアウト』をタップした。
因みに、GEFは常時オートセーブなので、普通セーブの選択肢は無いのだとか。まあそのことについて知るのはかなり後のことになるのだけれど。




