番外編 リバーシブルラバー ヨナムールとマリアーノの巻 その二
それからしばらくして俺は一週間の休みを申請した。
学園は十二月に卒業の為、十月くらいから仕事の慣らしで休む生徒は結構いる。
俺は表向きの実家となっている家に入り、隠し通路を通っていくつかのカラクリを越えて本宅へ行く。両親の仕事が暗部な為、家はこんな作りをしていた。
「ただいま」
「おかえり」
「やぁ、帰ったね」
ぶっきらぼうな犬のふりした猫族の母と、顔と物腰だけは優しい犬族の父に出迎えられた。とりあえず今日は休んで明日から動く事にしよう。その日は結局帰って来た理由や計画などを両親に報告し、俺が主体で動くことを了承させた。
両親、特に母親の方は何でもサクッと殺りたがるからな。注意が必要なのだ。
そうして色々画策し六日目の夕方。下準備は済んでいて今日はその仕上げ。出ようとしたら母が何故か仕事着で玄関にいた。
「面倒だからサクッと殺ろう」
ヤル気みなぎる母の言葉にげんなりした。
「俺の獲物を横取りするな」
ついてこようとする母を抑えつつ父を呼んだ。言い方はぶっきらぼうだが母は俺に甘い。まぁ一人での仕事はまだ二回目だしな。でも侯爵家といえどもあの家の警備はザルだ。人望がないと仕事にも身が入らないのだろう。今日、マスティフ家の裏資料を盗んで終わりだ。
「こらこら、いくら弟子が心配だからって甘やかさないの」
「あ、甘やかしてなどいない! 手際の悪さが目に着くだけで……」
「それで親が何でも代わりにしてやるのは子供の為にならないだろう? ほら、ヨナムールを離しなさい。ちゃんとヨナムールにさせないといざという時に役に立たなくなるからね」
父の説得にようやく手を離す母。
「へまして死んだら殺すからな。気を付けて行ってこい」
そう言い置いて母は部屋へと戻っていった。
「本当に僕の妻は幾つになっても可愛いいねぇ。さぁヨナムール行っておいで。無理はしないようにね」
「あぁ」
「抵抗されたら殺していいからね。君が怪我をしてきたらお仕置きだよ、いいね?」
「……あぁ」
この家で父に逆らえる者はいない。父の仕置きを思い出し一震えした後、気を引き締めてマスティフ家へ向かった。
根回しが上手く行き、特に問題なくマスティフ家の裏の証拠を集める事が出来た。
それを城の暗部にいる父に渡し、俺の役目は終了。
帰り際に城の他の暗部からスカウトが来たので、アレキセー王子の忍びにならなっても構わないと言っておいた。どうせ守るならマリアーノと係わりが深いアレキセー王子やオルフェの方が身が入る。
しかし言った次の日の朝に、それが決定事項となるとは思わなかった。俺は卒業後アレキセー王子の忍びとなる事が決まった。ただしあくまでも補佐だ。アレキセー王子専属忍び頭はいつの間にか父になっていた。
どんな手を使ったんだか……
「親と同じ職場……」
気付いてちょっと項垂れた。恐らく父の下に母と俺が付くんだろうな。母の手綱を握れるのは父しかいない。まぁ、仕事はしやすいだろうな。連携は大事だ。
「お疲れ様。今回の仕事が城の暗部に評価されたよ。父としても師としても嬉しいね。ヨナムールは本当に優秀だからね。これからもビシバシ鍛えようね」
笑顔で言う父に薄ら寒いモノを感じて震えた。ちょっと卒業が嫌になったのは仕方ないと思った。
七日目の夜に学園に戻り、部屋へ帰ってくるとマリアーノは居なかった。代わりにとても怪しげな箱が置いて有った。
「うまいんぼう? 何だこれ? 巻物の新味か?」
巻物に似たお菓子が箱に綺麗に並んでいる。まぁ、マリアーノのものだろう。出しっぱなしにしていくとは珍しい。取り敢えず飯と風呂に向かった。
戻ってくるとマリアーノが愛おしそうにその箱を撫でていた。巻物はレアなんだろうか?
「ただいま戻りました」
「ヨナムール!!」
声をかけると気付いたマリアーノに名を呼ばれた。マリアーノの表情は苦し気で、俺が成した事を知っているのだと気付いた。豆柴忍び、優秀過ぎるだろう。
「アレキセー王子から話は聞いた。君はなんて危ない事をしたんだ。君は、君は……僕はそんなつもりで言ったんじゃ……」
「余計な事だったか?」
豆柴忍では無かったらしい。まぁ証拠は城の暗部に届けたからな。アレキセー王子に話がいっても不思議ではないか。まぁ特に口止めもしていなかったからな。余計な事をしたかと聞けばマリアーノは言葉にならないのがぶんぶんと首を振って否定した。
「ありがとう。本当に、ありがとう。君が無事で良かった」
心からの言葉に顔がにやけた。でも仕方ないだろう。これでやっと本心を晒して心置きなく抱けるのだから。
「あいにく嫁を他人と共有する気はない」
地声と元の男言葉に戻しそう告白すれば、その言葉の意味に気付いたマリアーノが驚きに固まった。どうした? もうマスティフ家はない。婚約の話は立ち消えた筈だ。
「未来の旦那は変わっただろう?」
更に言い募ればマリアーノが花咲くように笑った。
「あぁ、今望む様に」
泣き笑い俯こうとするマリアーノの顎に手を置いて顔を近づける。二人とも身長は同じくらいだからかがむ必要もない。重なった唇を数回ついばみ、「ベッドに来るか?」と囁く。
「あぁ、僕の処女をやるからお前のもくれ」
「いいだろう」
ストレートな物言いにマリアーノらしさを感じて笑う。男の場合は処女ではなく童貞というんだと訂正する余裕もない。惚れた女の肌に溺れた。
そうして次の日朝。
「ルム。起きてくれ」
昨日散々教え込んだ閨呼びで起こされた。
「ノア?」
こちらもマリアーノの閨呼びで返す。目を開けるとマリアーノはいつもの男装スタイルだった。
「何で服を着ている。今日は休みだろう?」
「交代だ。今度はルムの処女を僕が貰うよ」
「は?」
「ずっとずっと、願っていたんだ。これ」
頬を染めた可愛らしい顔でマリアーノが見せてきた紙は昨日置いて有った巻物型の菓子の説明書だった。
【豆柴甘露亭の新作。
貴腐人の皆さまお待たせ致しました。新商品のお知らせです。
これを食べれば馬の様な一物が貴女のモノに。
商品名:馬淫棒《うまいん棒》
愛される体から愛する体へ。意中の彼を虜にしましょう。
用法用量を守って正しく楽しくお使い下さいますようお願い申し上げます】
「……は?…え、いや、え?」
紙に書かれた内容に思考が固まる。と、昨日のマリアーノの台詞を思い出した。
『僕の処女をやるからお前のもくれ』処女を、くれ……処女を……
「ま、マジか」
動揺が引かなくてマリアーノの方を見れば何と彼女は菓子をすでに食べ終えていた。服を脱げば胸は無く代わりに馬の様な立派な一物が……
「―――っ!」
もともと男装が似合い過ぎる程似合っていたマリアーノである。目の前にいる裸体の美少年に言葉を失った。
「ルム」
声をかけられてハッと我にかえる。そうだ見惚れている場合ではない。まさかの貞操の危機なのだ。
「ちょ、ちょっと待てノア。嘘だろう?」
「嘘に見えるのかい?」
いいや全く。全く違和感の欠片もないが現実がぶっ飛び過ぎてて処理しきれない。想定外過ぎるだろう!!
「愛しているよ、僕のルム」
「ちょ、待って!」
「男の僕は嫌い」
「いや、好き嫌い以前に想定外だ」
「大丈夫、優しく溶かしてあげるから」
ドキッとした。イヤイヤしっかり俺! 何をときめいている!
「どうしても嫌かい?」
そう悲しそうな顔でマリアーノに聞かれると「ウッ」と言葉につまってしまう。チュッと額にキスをされて微笑まれると照れと羞恥とときめきに頭がパンクしそうになった。
「ずっと、ずっと昔から僕は君に恋をしていてね。その時からずっと君をこうして愛したかったんだ」
「っ、愛されるだけじゃ……駄目なのか?」
「君が好きすぎてそれだけじゃ足りないんだ。だからどうか……僕を受け入れてルム。愛してるよ」
そうして好きな人に熱心に口説かれてしまえば俺も弱い。まぁもうこれもマリアーノだしなと思い受け入れた。
その後まさかのめくるめく官能のテクニックに俺が骨抜きになったのは言うまでもない。
「お前、男を抱いた事があるのか?」
「初めてだよ」
「手慣れ過ぎだろう」
俺より抱くの上手いとかもう何だそれ。無茶苦茶気持ち良かった。男のプライドがって思ったがもう今はマリアーノも男だからいいかとそこら辺は放棄した。俺は快楽に弱かったらしい。
「年期の差じゃないかな。本当に昔から愛していたからね」
「年期……子供の頃会った覚えはないが?」
どんなに記憶をさかのぼってもマリアーノに会った記憶はない。俺は記憶力は良い方だから会ったのなら覚えているはずだ。
「いつか話すよ。僕はルムを愛する為に生まれてきたって話をね」
キザで大げさだと笑い飛ばそうかと思ったがマリアーノの表情がどこか切なく不安げで出来なかった。
「まぁ、どんな話が出てきても受け入れてやるから。そんな顔すんな」
そう言って起き上がってマリアーノにキスをする。
「君は本当にすごいな。どれだけ惚れさせれば気が済むんだ」
俺だけがマリアーノに惚れさせられるのは面白くないからな。存分に惚れ抜けよ。
「心配しなくてもどっちのお前も愛してる、ノア」
言った俺がマリアーノにもう一度抱かれる羽目になったのはもう仕方ねぇなと思った。
【お終い】
【狼王子と可愛いワンコの繋ぎ方】を御愛読頂きありがとうございました。
これにて完結とさせて頂きます。
沢山の方に糧を頂き支えて頂いた物語でした。
完結まで書けて本当に良かったです。
私事ですが、今体調を崩していまして……
更新や新作はお待たせいたしますが、待っていてくれたら嬉しいです。
御愛読をありがとうございました。
藍蜜紗成




