第五話 ザグバ・プロマクスは、戦わずして実力を示した!!
ザグバの筆記試験が壊滅的であるとバレてしまった。
クラスメイトは、なにやら残念な視線をザグバにぶつける。その中には、戦友であり親友でもあるクレスも含まれていた。ただ、他のクラスメイトに比べて、クレスの視線は柔らかい。
「まぁ、ザグバだからね」
クレスは仕方ないよねと言った感じで笑っている。だが、他のクラスメイトは、何故かと視線で疑問を投げかけていた。強者であれば、勉強もできるはずだと言いたげである。
ザグバは、グッとサムズアップして、気持ちのいい笑顔で応える。
「俺は冒険者で生きていけるから、勉強は不要だと思ってな。それに、魔獣討伐だけでも国に貢献できる。そしてなにより、俺は貴族も名誉も興味がない。それに、魔導学園に落ちても、他の学園なら受け入れてくれるという話だった。つまり、勉強しなくとも、俺の目標である青春は達成されるのさ!」
「ちなみに、白紙じゃないよね?」
「ふっ、舐めるなクレス。白紙は歴史と戦術だけだ。礼儀作法、魔術理論、魔生物学はしっかり書いたぞ!」
「そ、その……礼儀作法と、魔術理論、魔生物学は……ほ、本来なら不合格点でした」
「なにー!?」
割と自信があったようだが、こちらも壊滅的だったらしい。
エピフィラ先生の言葉と、ザグバの反応に対して、クラスメイトの呆れと驚愕と笑い声が一斉に起きた。もちろん、ザグバに聞こえないようにではあるが、ザグバは聴覚がいいので丸聞こえである。
とはいえ、色々と規格外な男ザグバ・プロマクスをすでに受け入れているかのような反応だ。
「はは、予想はしてたけどね。それでも、この学園に必要な人材だと認めさせたわけだ。文字通り、実力で。でも、そっかぁ、やっぱり筆記は壊滅的だったんだね。ザグバに合わせた結果にしたつもりだったけど、意味なかったかなぁ」
ザグバはクレスの言葉に納得した。クレスは頭も良かったのでなぜ九位なのかと思っていたが、どうやらザグバに合わせていたようだ。
「まぁ、学園には入学できたし、結果的にクレスと同じクラスになった。終わりよければ全てよし、だ!」
「こ、講義は、う、受けてくださいね……せ、せめて、て、テストを半分取れるようにお願いします……」
何度も頭を下げるエピフィラにザグバは大きく頷いた。
「承知しました、エピフィラ先生。可能な限り、努力することを誓います!」
返事だけはいいザグバに、クレスは苦笑いである。
「エピフィラ先生よぉ。話は終わりか?」
声を上げたのはデューラだ。デューラの怒っていそうな言葉遣いに対して、エピフィラは素直に頷く。エピフィラの顔に、恐怖の色はない。ザグバに対してと、えらい違いである。
「は、はい……せ、説明会は以上になります」
「ならよ、ザグバ、クレイス! とっと、殺り合おうぜ!」
意気揚々と立ち上がるデューラに、ザグバもまた勢いよく立ち上がる。
「うむ!」
「エピフィラ先生、どこかに修練場はありますか? なるべく学生がいない場所だといいのですが」
クレスがエピフィラに聞くと、エピフィラはコクコクと激しく頷く。
「あ、あります。下剋上制度で利用する闘技場です。み、皆さんの戦いは命に関わる危険性がありますので、と、特別に許可します。と、特殊な魔導具を体に付与することで致命傷を受けても無かったことになりますので」
「む、魔導具……スーも行きたーい」
魔導具の言葉に反応したマギクム令嬢が手を挙げた。狸寝入りではないと思っていたのに、魔導具と聞けば意識が覚醒する。マギクム令嬢の生態が気になるザグバ。
だが、マギクム令嬢に話を聞こうとする前に、次々に声が上がった。
「私も行こう。ザグバの実力がどれほどのものか見たい」
「もちろん、私も行くなの。おっきな魔術も見たいし、ザグバに肩車してほしいの!」
「もちろん、いいぞ! 他に行きたい者はいるか!?」
ザグバが問いかけると、ニュンペリアン令嬢がスッと小さく上げた。
「その……わたくしも、ご一緒させてもらっても宜しいでしょうか。とても興味がありますので」
「お嬢様が行くなら、私たちも」
「我々も、ぜひお供させてください」
ニュンペリアン令嬢が来れば、双子もセットのようだ。
「おう、もちろんだ!」
ザグバはもちろん了承する。
そして、反応のない学生が一人。
ザグバはノシノシと近づいて声をかける。
「では、クストース令嬢も一緒に行こう!」
「え、あたし?」
「そうだ。これは言わば、クラスメイトとの親睦会。人と関わりたくない理由は、きっと過去に何かあったせいだろう。しかし、人間のすべてが同じ反応をするとは限らない。諦めずに交流するのも悪くないと思うぞ!」
ゴツゴツの手を差し出すザグバに、クストース令嬢はパチパチと大きくまばたきする。
「あ、あんた……私が怖くないの?」
「こわい、コワい、コワイ……怖い?」
ザグバは、クストース令嬢の言葉を聞いて、思考が宇宙へと飛んでいった。
目の前に座る彼女は、怖いよりも綺麗という言葉がよく似合う。長いまつ毛、高い鼻、潤んだ黒い瞳。すべてが合わさって、とても美しい顔立ちだ。
正真正銘の美女である。それに、声もいい。女性にしては少し低く、とてもセクシーな声をしている。
だからこそ、ザグバには、彼女の質問の意味がこれっぽっちも理解できなかった。
怖い。
つまりそれは、恐怖。
恐怖の感情など、約十年前に消え去ったザグバにとっては思い出すこともできない。
そのせいで、ザグバは虚無の顔でフリーズしてしまう。
「な、なんで疑問形なのよ……あと、その顔はどういう表情なわけ?」
「ああ、いや、すまない。こんなに美しい令嬢に対して恐怖の感情など浮かぶはずもないだろう」
「う、う、美しい!?」
ボンッと言う音を立てたクストース令嬢のお団子ヘアー。それと同時に、クストース令嬢の顔が信じられないほど真っ赤に染まる。
「ど、どうした、クストース令嬢! 顔が真っ赤だぞ! まさか、照れているのか!? 男に免疫がないとは思わず、申し訳ない!」
「ま、ちょ、いや、その……ハイン……」
焦っていらんことを言うザグバに、ポンっと肩を置く人物。
「ザグバ、やめてあげようね。クストース令嬢、申し訳ないがザグバの提案に乗ってあげてくれないかな。たぶん、君の不安も解消されると思うからさ」
「……ハイン」
空返事のまま停止するクストース令嬢。微動だにせず、瞬き一つしない。
「おい、これはダメじゃねぇか?」
「完全に固まっているな」
そんな彼女を見て、デューラとフロガーもまた呆れたように呟く。
「デューラ、運んであげてなの!」
「いや、いいのか? どこかで休ませたほうがいいだろ、これ」
「みんなで一緒のほうがいいの! これは親睦会なの!」
ドヤ顔のアクア令嬢に、デューラは何やらやりにくそうに頬をかいた。
「まぁ……サラサが言うならやるけどよぉ」
スッと手を前に出すデューラに対して、制止を求める人物が一人。
「お待ちください。淑女を魔術で運ぶのは良くないです。わたくしにお任せください……来てくださいモコモコさん」
ニュンペリアン令嬢が祈るように声を出すと、空気中に魔力が集まる。すると、そこに穴があいて白い毛に覆われた何かが出てくる。
「これは!!」
「精霊召喚だね。精霊の愛し子がいると聞いていたけど、実際に見るのは初めてだよ」
ザグバが赤い瞳をギラギラとさせていると、クレスが感想を述べた。
穴から出てくる白い毛玉はどんどん大きくなる。全身を出すと、なんとザグバよりも大きい二足歩行の毛玉である。モコモコさんと呼ばれたそれは、溢れる魔力は膨大でとても強そうだ。
召喚された精霊モコモコさんは、ニュンペリアン令嬢を見てから辺りを見渡す。そして、ザグバ見て素通りしたと思いきや、綺麗な二度見。大きな目をさらに大きく見開いた。
「!!!」
「も、モコモコさん!?」
召喚された精霊モコモコさんは、ザグバを見るやいなや、主のニュンペリアン令嬢を守るようにザグバの前に立ち塞がり、両腕を上げた。
それを見た双子が何やら興味深くモコモコさんを眺めて呟く。
「威嚇していますね」
「そのようです」
ロールとオストが静かに呟いた。二人の発言に驚いたのはザグバではなく、ニュンペリアン令嬢だ。
「い、威嚇? こんなことは初めてです……。大丈夫ですよ、モコモコさん。彼は味方です。悪い人ではないです」
「!?」
ニュンペリアン令嬢の言葉を理解できるのか、モコモコさんはバッとニュンペリアン令嬢に振り返る。そして、何度もザグバとニュンペリアン令嬢を交互に見て「え、これっすよ、マジっすか」的な感じでザグバを指さしている。
「本当です……信じてください、モコモコさん」
言葉に嘘がないと分かると、モコモコさんは後頭部をかいた。どうやら、ザグバに敵意がないと判断したのか、モコモコさんは落ち着きを取り戻して、威嚇のポーズを解除する。
「どうして急に威嚇なんてしたのでしょうか……」
ニュンペリアン令嬢は、そう呟きながらモコモコさんの毛並みを優しく撫でる。
「それほど強いということではないでしょうか」
「少なくとも、モコモコさんより強いということかと」
ロールとオストがそういえば、モコモコさんは全速力で首を立てに振った。
「これが、異界級ということですね。戦わずして、実力示すとは末恐ろしいです」
ニュンペリアン令嬢は呟きながら、ザグバに顔を向ける。
「はっはっは、本当に何もしていないがな!!」
ザグバはただただ、豪快に笑うのであった。
「つうかよぉ、くっちゃべってないでさっさと行こうぜ! もう、待ちきれねぇ!!」
「そうなの!! ザグバ、はやく肩車を所望するの!!」
いい加減、我慢の限界に達したデューラとアクア令嬢が声を荒げる。
「アクア令嬢、男性とくっつき過ぎるのは、淑女としてよろしくありません。この学園がパンツスタイルであっても、です。プロマクス令息の代わりに、モコモコさんの肩をお貸しします」
そこへニュンペリアン令嬢が、アクア令嬢に対して待ったをかけた。ザグバも少しだけ思っていたことだ。令嬢が末端とはいえ令息に肩車をしていいものなのかと。
「ということは、ザグバも見下せるの!? なら、その案で行くの!! モコモコさん、クストースちゃんを運びながら、サラサに肩車をするの!!」
「ヴ」
アクア令嬢がお願いすると、モコモコさんは唸るように返事をして、クストース令嬢を抱えてアクア令嬢を肩車する。
「サラサが一番デカいのー!! わっはっはなのー!!」
「ヴ」
はしゃぐサラサに、モコモコさんも何やら満足気である。
「よし、では行くとしよう!!」
ようやく準備が整ったと思い、ザグバは先頭で歩き出す。
「あ、あのー、そ、そっちじゃないです……」
ザグバはエピフィラ先生の言葉に足を止めた。
「む、そうでしたか! では、案内をお願いします!」
「は、はい!!」
ザグバの大きな声に怯えながら、エピフィラ先生はザグバにつられて大きな返事をする。
そして、そのまま全員を闘技場へと案内するのであった。




