第四話 ザグバ・プロマクスは、転生者だと告白した!!
「……聞いていて面白い話ではないな。力があるのなら、国に貢献すべきだと、私は思う」
反応したのは、イグニ令息だ。眉間に皺を寄せて、ジッとザグバを睨んでいる。しかし、その程度の威圧でザグバが怯むことはない。むしろ、子犬のような威嚇とさえ感じていた。
魔獣をばかすか相手にしてきたザグバだ。今さら学生の威圧に怯えることはないのである。
「まぁ、そうだろうな! 国に仕える貴族に生まれて、この考えは愚かだろう」
「なら、なぜ?」
「俺は、転生者だからだ!」
ザグバは、堂々と告白した。その単語に、疑問を浮かべるものが多いなかで、イグニ令息は目を見開いて顎に触れる。どうやら、転生者に聞き覚えがあるようだ。
「……なるほど。前世の記憶による強い後悔か。過去にも似たような事例があると聞いた」
「ふっ、そういうことだ! それに」
「それに?」
「国への貢献なら、すでに済んでいるはずだ!」
ニヤリと笑うザグバに、イグニ令息は一瞬だけ目を見開いた。
そして、ザグバの言葉に対して、小さく頷く。
「……そうだったな。貴殿は、冒険者のトップクラスだ。異界級の貴殿が学園に来るまでの活躍は耳にしている。特異級、異界級魔獣の討伐、未踏破のダンジョン踏破。ダンジョンで手に入れた貴重な素材は冒険者ギルドを経由して国に売却。他にも聞き及んでいることが多数ある。小さいところで言えば、聞いていないこともあるのだろう。確かに、これほどまで功績をあげているのなら、もう十分とも言えよう」
ザグバの功績を口にしたイグニ令息は、眉間の皺を解き、フッと笑いかけた。
「貴殿は貴族の矜持を十二分に果たしている。故に、一個人にこれ以上望むのは愚行だ。謝罪する」
イグニ令息は、小さく頭を下げた。
「フロガーが頭を下げるなんてよぉ。さすが、ザグバだぜ」
フロガーの行動に驚いたデューラが声を上げた。驚かされたのはデューラだけでなくザグバである。イグニはクラスメイトの中で最も貴族らしい人物だと思っていたからだ。プライドが高く、自分の意見を簡単に曲げないのが貴族という人間だと思っていたが、そうではないらしい。
イグニ令息は、国のことを一番に考える本物の貴族。貴族の(・)矜持の務めを果たす人材。上に立つに相応しい人間だと。
ザグバもまた、イグニの笑みに応えるように笑う。
「なに、謝ることはないさ。俺も自分が異端であることは理解している。むしろ、理解してもらえるとは思わなかった。ありがとう。とはいえ、特異級や、異界級の魔獣が現れたなら、その時は駆けつける。冒険者は、魔獣を殺す存在だからな!」
「だとしたら、私から言えることはない。私も、貴殿に追いつけるよう精進させてもらう」
「そうか。強くなりたいなら、ぜひ声をかけてくれ、イグニ令息!」
名前を呼ぶと、イグニ令息は首を横に振る。
「フロガーと呼んでくれて構わない。私も……君をザグバと呼ばせてもらう」
「おう、よろしくなフロガー!」
「ああ」
他に何か言いたい事がある学生がいないか確認する。何かは言いたげな視線を感じるが、言いたくないならいいなと、ザグバは自分の席へと戻っていく。
ようやく終えた自己紹介に、ホッと息を吐いたエピフィラ先生は、教壇に立ち話し出す。
「じ、自己紹介は以上になります。も、もう少しだけ、み、皆さんのお時間をいただきます」
エピフィラは、何度も頭を下げてから言う。
「と、特別クラスの皆さんが、ら、来年も特別クラスでいられるとは限りません。そ、それはですね」
「下剋上制度ってやつだよな」
エピフィラが説明する前に、デューラが口を挟む。ザグバからは後ろ姿で見えないが、恐らく笑っているのだろう。
「は、はい。こ、ここは魔導学園です。じ、実力が全てと言っても過言ではありません。み、皆さんの実力を学園側は存じ上げております。と、とはいえ、け、結果に納得していない学生もいるのです」
思うところがあるのか、それともデューラのように下剋上制度を知っていたのか、不安になるような声は上がらない。
「げ、下剋上制度を使えるのは一級クラスのみ。さ、さらに言うとですね。と、特別クラスの六位から十位の学生にしか挑めません。ちょ、挑戦権は一年に三回。み、皆さんが三年生になるまでの計六回です。な、何か質問はありますか?」
全員特にないらしい。エピフィラは、ホッと一息ついてから、話を進める。
「そ、それと、特別クラス同士で下剋上制度を使うことも可能です。にゅ、入学試験の結果は、ひ、筆記テストも加算されています。ち、知識の広さも実力のうちですからね。た、ただし、じ、実力が全ての魔導学園ですから、ち、力で五本指に入ることも許容されています」
エピフィラの説明が終わると、フロガーが礼儀正しく手を挙げた。エピフィラは、どうぞと小さく言う。
「それは、一位の人間が十位の人間に挑むことも可能なのですか?」
「そ、それはできません……あくまで下剋上という名目ですから」
「ふむ、そうか……」
何やら納得がいかないのか、フロガーはザグバに顔を向けた。
「ザグバ、私は自分の順位に納得していない。このクラスでは、間違いなく君が一位だろう。どうだろう、俺に下剋上制度を使うというのは」
「ふむ、それはまだ断らせてもらう!」
「なぜだ?」
「一級クラスの学生たちと交流するにはいい機会だからな。特別クラスと一級クラスにどれほどの差があるのか確認しておきたい!」
「それに何の意味が?」
「仲間探しの一環だ。まあ、俺は挑戦する人間が好きだからな。どうしても特別クラスに入りたい人間を鍛えるのも一興だろう。強くなる権利は平等だからな!」
「なるほど……つまり、我々も現状維持で胡座をかいていると、一級クラスに落ちる可能性があるということか」
その言葉に対して、空気がひりついた。
「ふ、それもまた一興というやつだ!」
「まだ、ということは、いつかは使ってもらえるのだろうか」
「もちろんだ。二年の最後に使うとしよう。フロガーの成長次第では、本気を出すことを約束しよう!」
「そうか。その言葉を聞いて安心した。異界級の本気、引き出してみせよう」
フロガーが話し終えると、教室が静かになる。エピフィラ先生は、クラスの空気を読み取って話し出す。
「え、えっと、も、もう大丈夫でしょうか?」
「問題ないです。感謝します、エピフィラ先生」
フロガーがそう言うと、エピフィラは小さく頷く。
「で、では、最後に……く、クストースさん。ま、マギクムさん。で、デイフェルさん。ぷ、プロマクスさん。」
「……はい」
「……」
「はい」
クストース令嬢とクレスは返事をするが、ハーフエルフのマギクム令嬢の返事はない。恐らく、また眠っているのだろう。隣の席を見れば、背筋をまっすぐ伸ばしているが目は瞑っているし、規則正しい寝息がザグバの耳に届く。だが、耳だけはピクピクと動いていた。もしかしたら、起きているのかもしれない。
「む、俺もか?」
自分の名前が呼ばれて、ザグバは思わず聞き返す。
「は、はい。あ、あなた方はすでに功績を得ていますので、そ、卒業資格があります。じ、自由に学園生活をお過ごしください……と、言いたいところなのですが……」
エピフィラは、魔女帽子をギュッと握りしめてザグバを見上げる。
「ぷ、プロマクスさんは筆記の試験がその……か、壊滅的でしたので、こ、講義を受けてもらいます」
その言葉に対して、クラスメイトの「まじか、コイツ」という視線が突き刺さった。
なお、ザグバ本人は何も気にしていない。
どこか残念な男、ザグバ・プロマクスは色々な意味で規格外である。




