第三話 ザグバ・プロマクスは、クラスメイトに宣言した!!
ザグバは、教壇に立つ学生の顔を覚えるために特徴を観察する。
緋色のスポーツ刈りに、オレンジ色の瞳に、左耳には赤のピアス。纏っている情熱的な色合いに対して、氷の様に冷たそうな顔つきだ。眉間に皺を寄せていることも原因だろう。
ただ、クラスメイトを一通り眺め終わると、なにやら満足そうにほんのわずかに口角を上げたイグニは全員の目を見ながら話し出す。
「私はフロガティス・イグニ。自己紹介をしたところで、あまり交流の機会はないかもしれない。各々、やることがあるだろうからな。とはいえ、ここで出会ったのも何かの縁だ。私は、皆と交流したいと思っている。顔を合わせる機会があったら、その時はよろしく頼む。以上だ」
それだけ言うと、イグニは席へと戻っていった。
「お嬢、出番です」
「お嬢様、ささ、あの場に」
「はぁ……分かっているわ」
愛し子をよいしょする狂愛双子に呆れたようなため息を吐いて教壇に向かう女子学生。歩く姿は百合の花の如く美しく洗練された所作である。さすがは、ご令嬢といったところだろう。教壇に立てば、先ほどの不満そうな態度は取り払われ、空気が変わった。
「……む?」
ザグバは、彼女の顔を見て思わず声を出す。
「初めまして、皆さま。わたくしは、ラトゥリィ・ニュンペリアンと申します。布で目を隠していることと、このふざけた目隠しを付けていることを先に謝罪させてください」
ぺこりと軽く頭を下げると、ミルクティーをしたツインのおさげが揺れる。彼女の言葉通り、目隠しをしているのだが、その目隠しはなぜか犬とも猫とも取れる動物の形をしていたのだ。
「少しばかり厄介な瞳を持っているため、このような措置を取らせてもらっております……目隠しの形について触れないで貰えると助かりますわ」
彼女も困っているのだろう。目は見えないが、そういう空気を纏っている。
「話しは変わりますが、先ほどイグニ様がおっしゃられていたように、皆さまと関わる機会は少ないとは思います。ですが、必須講義もあるようなので、その時は何卒宜しくお願いいたします」
それだけいうと、ニュンペリアン令嬢はもう一度頭を下げて、自分の席へと戻っていった。
「……」
次に立ち上がったのは、魔女の末裔と呼ばれるお団子頭の女子学生だ。
彼女が教壇に立つと、ザグバの肌がピリッと電気が走った痛みがした気がした。魔術ではない。原因は、彼女自身が放っている魔力だった。
「……ほう」
ザグバはニヤリと笑ってから、彼女をじっと観察する。
黒い髪に灰色のお団子ヘアの彼女の顔色は、青白い。左の目は前髪で隠されて見えない、右目の瞳は黒く、誰とも視線を合わせず床を見つめている。体調が優れないのか、形の整った眉をギュッと寄せていた。
「メディアン・クストース……アタシには関わらないで」
ギューと腕を強くつかんだ仕草を見せながら言葉を放つと、クストース令嬢は自分の席に戻っていった。
「む、終わりか……魔力を散らしているから、宣戦布告でもするのかと思ったぞ」
「いきなりそんなことするのは、ザグくらいでしょ。まぁ、なにか、問題があるんだろうね。魔女の末裔って言われてるくらいだから」
「そうか……ちなみに、魔女の末裔だとどうして色々言われるんだ?」
「あんまりいい話じゃないけど」
クレスが言い淀むので、ザグバはクレスの前に手を出して首を振る。
「なら、止めておこう。でもそうだな……彼女には、ぜひ学園生活を楽しんでもらいたいものだ。説明会が終わったら、声をかけようじゃないか」
「いいよ。でも今は、クラスメイトの話を聞こう」
「おう、そうだな」
クレスとの話が終わったザグバは、教壇を見る。
教壇に立っている女子学生は、ウェーブの入った腰まで伸びた青髪を揺らして、キラキラとした水色の瞳で全員を見ながら手を振っていた。見た感じ、手を振り返す者はニュンペリアン令嬢くらいだ。
それでも諦めずに健気に手を振る少女。クレスとザグバを見ても、彼女は手を振っていたので、ザグバなりの笑顔で手を振り返す。クレスも、ゆらゆらと手を振り返しているのが見えた。
「おお、ニュンペリアン令嬢と、奥の男の子二人はいい人なの。手を振り返してくれる人は、いい人って相場が決まってるの」
満足そうに頷いた彼女は、両手を腰に当てて少しだけ背中を反った。
「サラサは、サラサ・アクアなの。胸と背は小さいけれど、夢と魔力はとんでもなく大きいの。魔術も大きいのが好きなの。これからよろしく頼むの。あと、灰色髪の人には、後で肩車を所望するの!」
「構わんぞ!」
「やっぱりいい人なの!! これで、サラサも人を見下せるほどの巨人になれるの!」
「おう、任せておけ!」
「やったなの! 楽しみにしてるの!」
アクア令嬢は鼻歌混じりでスキップをしながら教壇から去っていった。
「元気な子だったね」
「ああ、領地の子供たちを思い出したぞ」
「……それ、言わないで上げてね?」
「む……そうだな」
クラスの指摘に、ザグバも頬を掻いて頷くのであった。
ノンデリカシーザグバは、気配り上手のクレスに救われた!
「うっしゃ、ようやく俺様か!」
その言葉と共に、ぶわっと室内に風が吹いた。
パーマスタイルのマンバンヘアでまとまった白髪が馬の尻尾の様に揺れる。教壇の上に立つと同時に、ビシッと真っすぐ指差す。その瞳は、猛禽類の如く黄色い瞳を輝かせていた。
「俺様はデューラ・ウェントゥス。戦うことは、俺様の生きがいだ! 貴族の異端児、特異級冒険者ザグバ・プロマクス! 俺様はお前と戦いたい!!」
指先が自分を示していると思っていたザグバ。どうやら、その通りらしい。ウェントゥス令息の熱い言葉を受け取ったザグバは立ち上がり、腕を組んで叫んだ。
「もちろん、受けてたあああつ!!」
ザグバの発声でビリビリと空気が揺れ、窓ガラスがカタカタ動く。デューラは、ザグバの返事を聞いて、拳と拳を突き合わせた。
「うし、これが終わったら、さっそく殺り合おう!! 話の分かるやつで助かったぜ、ザグバ!」
「おう!! 楽しみにしてるぞ、デューラ!!」
デューラは満足したのか、風魔術を使って席に戻っていった。
ザグバも、静かに席に座る。
「ふ、こういう青春を待っていたぞ」
「……ザグの青春って、熱血だよね」
「ふ、男はぶつかり合ってこそだ。特別クラスにも、話の分かるやつがいて嬉しいくらいだ」
貴族の通う王都魔導学園には、プライドの高い人間や、お上品な者ばかりがいると思っていた。しかし、いざ蓋を開けてみれば、癖の強い者ばかり。
より一層、学園に対しての期待値が増した。
「つ、次の方……あ、あのぉ……す、ステラエステリア・マギクムさん……」
「ん……んー……ん」
規則正しい寝息を立てていたマギクムというハーフエルフと呼ばれる令嬢が立ち上がる。
ゆらゆらと教壇に向かい、クラスメイトに顔を見せる。
オリーブ色の美しいロングヘアから取り出す長い耳、少しだけ目を開くと紫の瞳が顔をだす。
「ステラエステリア……マギクムだよー。魔導具大好きー。魔導具以外あんまり興味なーい。おわりー」
それだけ言うと、彼女は席に戻る。エピフィラ先生の魔導具という言葉に反応していたマギクム令嬢だったが、案の定、魔導具が好きらしい。
「二人とも、自己紹介はしっかりやるのよ」
ニュンペリアン令嬢の声が聞こえる。目線をやると、狂愛双子の両方が立ち上がっていた。
「任せてください、お嬢」
「もちろんですわ、お嬢様」
どうやら、二人で一緒に行うらしい。
「たしか、あの二人は同着だったね」
「成績まで双子とは、面白い!」
ザグバが感想を述べてから、教壇に立つ双子に視線をやる。
二人は、クラスメイトに向き合うと、優雅に一礼。その礼は、何やら仰々しく演技しているような立ち振る舞いだ。
「ロール・フィロゾリアンでございます」
ロール令嬢は紫の長髪をニュンペリアン令嬢と同じくお下げにしている。自己紹介をしてはいるが、琥珀の瞳はニュンペリアン令嬢しか見ていない。
「オスト・フィロゾリアンと申します」
オスト令息も肩までの伸びたワインレッド色の髪をお下げにしている。骨格は男ではあるが、中性的な顔立ちのためか、令嬢と言われても納得できる。こちらもロール令嬢と同じく、茶色の瞳はニュンペリアン令嬢にしか向いていない。
「私たちは、お嬢様以外に興味はありません」
「そう、我々はお嬢以外、眼中にないのです」
その言葉通り、ニュンペリアン令嬢から視線を外さない。
「私たちは、命に代えてもお嬢様をお守りします」
「もし仮に、お嬢様に悪意を向ける愚か者がいた場合」
そしてようやく、二人は揃ってクラスメイトを睨みながら、足を大きく開いて後ろに手を組んで仁王立ち。今までの優雅な立ち振舞とは異なり、騎士団のような威圧感を放ちながら叫んだ。
「例え、上位貴族だろうと」
「例え、自分たちより強者であろうと」
「例え、魔族であろうと」
「例え、邪神であろうと」
「完膚なきまでに」
「徹底的に」
まるで一人が喋っているかのような連携を見せつつ、最後は息を合わせながら……。
「「潰す」」
と、物騒な言葉で締めくくる。
そして、姿勢を崩して、優雅に礼をする。
「以上でございます」
「以上となります」
狂愛双子は、満足気にニュンペリアン令嬢の元へ帰っていく。
「ぃゃぁ……」
ニュンペリアン令嬢の声にならない悲鳴が、ザグバの耳に届いた。教室という閉鎖空間であれば、どんな小さな音でもザグバの耳に届いてしまう。真っすぐ前を見つめるニュンペリアン令嬢だが、内心は冷や汗ダラダラで、頭を抱えたくなっているに違いない。
少しだけ、ニュンペリアン令嬢を哀れむザグバなのであった。
「この後に自己紹介は、気が重いね」
ひりついた空気に、なんともお気楽な声がする。ザグバの親友であり戦友でもあるクレスだ。
「はっはっは、確かに印象に残りにくいな!」
「まぁ、それでもいいけどね。元々、後ろのインパクトが強すぎるからさ」
それだけ言い残して、クレスは教壇に向かう。
クレスが教壇の前に立つと、クレスに意識が向いている学生は四人。
イグニ令息、ニュンペリアン令嬢、アクア令嬢、デューラの四人だ。
一番後ろ中央の席にいるザグバには、彼らの顔のわずかな動きがよく見える。
「クレイス・デイフェルです。田舎の貴族ではございますが、どうぞよろしくお願い申し上げます」
美しい礼と共に、クレスが教壇を去ろうとした時、一人の男が立ち上がった。
「クレイス、俺様はお前とも戦いてぇ!」
デューラである。
「僕はザグより弱いですよ?」
クレスの発言に、デューラはハッと大きく呆れたように笑う。
「魔獣雪崩を一人で止めた傑物がよく言うぜ」
「それは誤解ですよ、ウェントゥス令息。僕は半分しか止めてない。残りは辺境騎士と冒険者の協力のおかげだ。それに……」
クレスはザグバを見て笑う。
「元凶である成り損ないを殺したのは、ザグですから」
その言葉を聞いてもなお、デューラはどこ吹く風のように大きく笑う。
「関係ねぇな! お前は俺様より強ぇ。俺様は強ぇ奴と戦いてぇ。それだけだ!」
「なるほど。なら、お引き受けしましょう。ただし……」
クレスは少しだけ間を置いてから、魔力をデューラに向けながら笑う。
「僕の初見殺しの一撃を避けれたのなら、ね?」
挑発するような発言に、デューラはさらに口角を上げた。
「ハッ、やってやらぁ!」
「では、後ほど」
クレスはそのまま、ザグのところまで戻っていく。
「よし、行ってくる!」
「はい、いってらっしゃい」
ザグバは、クレスと代わり教壇に向かう。
視線が一気に、ザグバに集中する。
愛し子であるニュンペリアン令嬢、愛し子以外興味がないはずの双子も、魔導具以外に興味のなさそうなマギクム令嬢の耳が僅かに動き、他人との関わりに消極的な魔女の末裔クストース令嬢も視線を向けていた。
イグニ令息は観察し、アクア令嬢は目を輝かせて、デューラは闘士の燃えた視線を向ける。
最後の大トリであるザグバは、教壇よりも前に立ち、腕組んで叫ぶように声を張り上げた。
「俺はザグバ・プロマクス! 異界級冒険者だ!」
ギルドの身分証であるドッグタグを首から取り出して見せる。
異界級の証明である赤黒いドッグタグが輝きを放つ。
「先に言っておくが、俺は貴族になるつもりも、騎士になるつもりも、宮廷魔術師になるつもりもない。この学園には、辺境で共に戦ってくれる仲間と、奥さんを探しに来た!」
ザグバの発言に、クレス以外のクラスメイトは固まる。そしてその後で、困惑や、不満を見せる。中には嬉しそうに笑う学生もいるが、それは特殊だろう。貴族であれば不満に思うのは至極当然。
なので、ザグバは気にせず発言を続けた。
「だが、正直それも二の次だ。仲間は辺境の冒険者を鍛えているし、子供たちも鍛えてるからな。戦力はあまり求めていない。奥さんはまあ、この見た目だ。若干諦めている。だから、俺が本当にやりたいことは違う。俺がこの学園でやりたいこと、それは!」
ゴクリと息を飲む音が、教室に響いた。ザグバの発言というより、異界級冒険者が何を言うのか。この学園で、何を成し遂げたいのかが気になって仕方がない様子だ。
ザグバは、これから自分が発言することをくだらないと感じるクラスメイトばかりだろうと思う。
なにせ、学年トップの特級クラスだ。将来優秀で、責任感が強い学生ばかりだろうから。
だが、ザグバは止まらない。
前世で後悔したことを、繰り返さないために。
己がやりたいことを、クラスメイトとするために。
アクア令嬢以上に目を輝かせて……。
「俺が学園に来てやりたかったこと……それは、友人たちと青春を謳歌することだ!」
満面の笑みでザグバは、高らかに宣言した。
――これは、前世で死ぬ間際に後悔するほど何もなかった男が、転生して学友たちと青春を謳歌する物語だ!!
ここまでが、短編と同じです。
とはいえ、内容をコロコロ変えたので、結構違うところがあったと思います。
楽しんでいただけたら幸いです。
次回から、短編にはなかった話なので、お楽しみに。
一章完結ごとに、月・水・金の週三投稿です!




