第二話 ザグバ・プロマクスは、特別クラスで説明を聞いた!!
入学式が終わると、教師が学生たちを誘導する。
教室まで案内され、階段形式の席に各々自由に座っていく。
クラスの人数は少ない。ザグバたちを含めて、十人のみ。ザグバとクレスは、中央の一番後ろの席で隣り同士。残りの八人は、三人グループが2つできており、残り二人は一人で座っていた。
一番前の窓側の席に座っている男子学生二人と、女子学生一人のグループは、クラスを見た感想を述べている。
「十人か、今年は優秀な学生が多いらしい」
「狂愛双子、愛し子は当然なの。あとは、見た目判断にはなるけど、ハーフエルフさんは目を瞑ってるオリーブ髪の子、魔女の末裔さんはお団子ヘアーの子、イケメンさんは……辺境の英雄かなぁ? いつもの面子以外は、王都のパーティーには参加してないから、たぶんなの。それで……」
「つうことは、特異級の冒険者は灰色のか。噂でなく本物なら、ぜひ手合わせ願いたいもんだぜ」
「まあ、偽物ではないことは確かだろう。みな、魔力の質が他の学生に比べて抜きん出ている。今年は当たりだろうが、後で確認はしておくがな」
そんな会話がザグバの耳に届く。
狂愛双子と愛し子、ハーフエルフに、魔女の末裔と、気になる単語を耳にする。
まずは、分かりやすい狂愛双子と愛し子の方を見る。彼女たちは、廊下側の一番前の席に座っていた。
「お嬢、体調は問題ありませんか」
「お嬢様、ご気分がすぐれない場合は、すぐにお伝えください」
「問題ありませんわ……それよりも、二人とも、もう少し離れてくださいませ」
ピタリと隣にくっつく二人に、文句を言うミルクティー色の女子学生。だが、二人は言うことを聞かないようだ。
「何を言うのです、お嬢。自分たちの仲ではないですか」
「そうです、お嬢様。私たちの仲ではありませんか」
「……はぁ、どうしてこんな風に育ってしまったのかしら」
愛し子というよりは、苦労人に見える女子学生なのであった。
表情は見えないため、次の人物に視線を向ける。
ハーフエルフと呼ばれる学生だ。
「……すぅ」
廊下側の一番後ろの席。ザグバたちと同じ並びの席に座っている。背筋を伸ばして目を瞑っている耳の長い女子学生。彼女の隣の席からザグバがジッと見ていても反応がない。どうやら、本当に眠っているらしい。なにやらいい夢を見ているのか、少しだけ頬が緩んでいるようにも見える。
寝ている顔が美しいことと、耳が他の人より長いこと以外は特に情報が無いので、最後の生徒に視線を移す。
「……」
そして最後に、無言のまま、外の景色を眺める魔女の末裔と呼ばれる黒と灰色の髪の女子学生だ。景色を見ているため、どんな表情をしているかは分からない。ただ、何かを楽しみにしているという雰囲気ではないことは何となく理解した。
「なるほど」
一通りクラスメイトを見たザグバは、フンと鼻息を吐いて言う。
「なんだか、濃いな!」
見たまんまの感想を述べるザグバに、クレスはフッと微笑む。
「僕らも人のこと言えないけどね。まあでも、特別クラスだけあって、粒ぞろいだね」
「ああ、色々と楽しみだな!」
ありきたりな感想を述べた直後、入り口から教師が入ってきた。
「おお、彼女は」
「念話に介入してきた人だね」
ザグバの視線の先には、ペコペコ頭を下げながら教壇に向かう教師の姿が映る。
教壇に立って、息を大きく吸って吐いてを繰り返す。準備が整ってから、ようやく話し出す。
「お、遅れてしまってすみません。こ、このクラスの担任の……エピフィラ、です。す、すみません、わ、私の声は小さいので、魔術を使わせてもらいます」
(やはり、王都の魔導学園の教師となると、無詠唱は当たり前ということか)
魔術を使うには詠唱するのが一般的だが、熟練の魔術師であれば無詠唱は必須の技術である。さすが、優秀な魔術師を育てる魔導学園だなと、ザグバは思った。
エピフィラ先生は、もう一度大きく呼吸を整えてると……。
「学園長からも話がありましたがこの学園は平等です
貴族の子女であろうとも権力を振りかざすことは許されません
むしろ権力を振りかざす人は家名に傷がつくと思ってください
将来有望なあなたたちならこの意味が分かるはずです」
破竹の勢いで話し出した。言葉を止めずにスラスラと。まるで、魔術の詠唱のように。
「このクラスに関しては何かしらの功績を上げれば卒業できます
功績の評価は評価者及び学園長自らが決定いたします
講義に関しては必須講義以外は受けてもいいですし受けなくても構いません
特別クラスの皆様は自由に学園生活をお過ごしください
教師の弟子入りなり騎士の弟子入りなり宮廷魔術師の弟子入りなりお好きにどうぞ
何か質問がある場合は受け付けます」
無呼吸のまま話したからか、エピフィラ先生の息が上がっている。
「先生、功績とはどのような?」
緋色髪の男子学生が、質問する。
「え、えっと……て、手っ取り早いのは騎士団と共に魔獣討伐の遠征に行くことですかね。き、騎士団長に認めてもらえればいいだけなので、い、一番簡単です。き、騎士団長から承認を貰えれば学園長も認めるでしょうから。も、もちろん命の危険もありますから、ほ、他の方法でも構いません。が、学園生活は三年間ありますから、ま、魔術や魔導具の研究をしてもらっても結構です」
「ん……魔導具」
魔導具という言葉に反応したハーフエルフの学生が、キョロキョロと辺りを見渡す。ただ、お目当ての魔導具が見当たらなかったからか、また微動だにせずに止まった。恐らく、また寝たのだろう。
「……なるほど、ありがとうございます」
ハーフエルフの子が急に話し出して反応を窺っていた緋色髪の学生は、ハーフエルフの子が反応を示さなくなってからエピフィラ先生に礼を伝える。
「は、はい……ほ、他に何か質問はありますか?」
「エピフィラ先生、よろしいでしょうか」
手を挙げたのは、狂愛双子の男だ。
「は、はい、どうぞ」
エピフィラ先生に指名されると、男はわざわざ立ち上がった。
「功績は、個人で上げなければならないのでしょうか。自分たち三人は運命共同体。グループで功績を上げてもいいなら、そちらが好ましいのですよ」
まるで舞台役者のような手振りを見せながら、質問をする双子の片割れ。
「も、もちろん、ぐ、グループで問題ありません。た、ただ、ぐ、グループとなると評価も厳しくなりますのでご留意ください」
「ありがとうございます」
流れるように礼をした双子の男子学生は、静かに席についた。
「ほ、他には?」
「正直なところよぉ、明日にとんでもねぇ功績を上げたら卒業できんのか?」
自信に満ちあふれていそうな白髪の男が言う。
「そ、卒業できるのではなく、そ、卒業資格を受け取れるということです。そ、卒業に関しては、さ、三年後です」
「じゃあよぉ、卒業資格を受け取ったら、もう功績を挙げるためだけに動く必要はないってことか」
「は、はい。そ、その場合は、ほ、本当に何をしても自由です」
「りょーかいだ。ありがとよ」
「い、いえ……ほ、他には?」
手を挙げている学生もいなければ、反応を示す学生もいない。
「……他にいないようですので、次に進めてもらえればと思います」
エピフィラに緋色髪の男子学生が伝えた。
「そ、そのようですね。で、では、つ、次に、じ、自己紹介をお願いします……せ、成績優秀者のイグニさんから成績順でお願いします」
「はい」
緋色髪の男、イグニと呼ばれる学生が教壇に向かう。
ただ、ザグバは眉間に皺を寄せて何やら分かっていないような顔をする。エピフィラ先生がザグバの顔を見て魔女帽子を深くかぶった。どうやら、相当怖い顔をしてしまったようだと自覚する。
「クレス、全く身に覚えがないぞ」
「ああ、ザグは今日学園に来たから知らないよね。特別クラスの学生は、入学テストの成績が表に張り出されているんだよ。僕は九位でザグは十位だったから、僕の次だよ」
「なるほど、ありがとう」
「どういたしまして」
会話が終わると、イグニ令息の自己紹介がまだだということに気づく。どうやら、一人一人の顔をチェックしていたようだ。
顔だけではなく、本物の実力者であるか見極めているような気もする。彼が先ほど確認しておくと言っていたので、それを探る方法があるのかもしれないなと、ザグバはそう思うのであった。




