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21 首都アルース


 ドラゴンに異常がないことを確認したのち、一行は首都を目指して飛び立った。森に落ちたドラゴンと、それを探しに行ったルークを回収するため、三頭のドラゴンが別方向に飛んで行く。


 休息をとりつつ、森や草原の上空をわたり、アデリス国の首都アルースが見えてきたのは夕刻のことだ。海岸に沿って大きな街が広がり、灰色の岩肌をした崖が、街を見下ろすようにそびえている。海に突き出した崖の上には整然とした建物群が並び、その中心には王宮のような建物が建っていた。


 アデリス国は二十五年前の革命で王政が終焉(しゅうえん)し、軍部を主体とした政権へと移行した。それを考えると、元宮殿であり、今は要塞と呼ぶべきものだろう。


 要塞は高い城壁でかこまれ、崖の上にもうひとつ街があるようだ。建物同士は屋根のある回廊で繋がり、大小の広場があちこちにある。なかでも王宮前にある広場が一番広く、街の住民を全員収容できそうなほどの面積があった。


 ドラゴン達は、王宮前の広場に向かって順に降下し始めた。


 近づくにつれ、広場の床にいくつもの青い円が描かれているのが見えてくる。騎獣を誘導するための目印らしく、円のなかに交差した剣の絵が描かれている。後肢(こうし)をさげて重心を落としたドラゴン達は、それぞれ円の上に着地して行った。


 着地の衝撃をやり過ごしたジットリアは、緊張しつつ広場を見回した。


 正面には山かと思えるほど大きな王宮――軍が常駐(じょうちゅう)しているのなら砦だろうか――があり、広場を囲うように背の高い建物が並んでいる。王宮も含め、建物の外壁には、崖の岩肌と同じ灰色の塗料が塗られてあり、無機質な外観は、見る者を怖じ気づかせるような威圧感があった。


 スレーン国の宮殿とはまったく違うと、ジットリアは思う。繊細な彫刻も、水柱を上げる噴水も、色ガラスを嵌めた窓もここにはない。すべての建物が同じ色で塗られ、宮殿であったころの装飾を削り取った痕跡さえ見られた。


 最後のドラゴンが着地すると、右手にある建物の門から整列した小隊が広場に入ってきた。暗赤色(あんせきしょく)の上着に黒いズボンという軍服を身につけ、全員同じ角度で槍をかつぎ、行進する足並みは完璧にそろっている。


「衛兵隊のお出迎えです。ここでお別れですね」


 エドガーの言葉を聞いて、ジットリアはどきりとした。


「わらひは、えいへえたあへひきわたさえうのえすか?」


「そう言いましたが、聞こえませんでしたか? 私の仕事は、移送中のあなたが逃げないよう見張っていることで、要塞内での囚人の管理は衛兵隊の仕事です」


 そう答えると、エドガーは命綱の金具を外し始めた。


「おわかえ……」


 不安を感じながら、ジットリアはつぶやいた。


 スレーン国でも、王宮内の警備は衛兵隊が取り仕切っていた。レネスの小隊は移送任務を終え、要塞内でのジットリアの監視は衛兵隊に引き継がれるというわけだ。わがままを言える立場ではないし、口に出すつもりもなかったが、レネス達と離れることに、ジットリアは心細さを感じた。


 ドラゴンから降りたジットリアは、近づいてくる衛兵隊を見て身構えた。帽子をかぶっているせいで目元に影が落ち、どの口もきつく引き結ばれている。間違っても、囚人を拘束しながら鼻歌を歌ったり、口説いたりしそうもない雰囲気だ。


 と、どこからかレネスが現れ、ジットリアの横を通り過ぎて行った。


「責任者は誰だ?」


 レネスが、衛兵隊に向かって声をかけた。


 足並みをそろえて衛兵隊が立ち止まり、肩にかついでいた槍を垂直に立てる。先頭にいた男が、レネスの前に進み出た。


「私です。引き継ぎの書類に署名をいただけますか?」


 そう言うと、数枚の書類とペンをレネスにさし出す。レネスは書類を取り、ペンは受け取らない。いぶかる顔をする隊長に、視線を向けた。


「移送中に想定外のことが起き、予定に変更をくわえる必要が出てきた。手続きを終えるまで、囚人の身柄は私があずかることとする」


「しかし、ライゼル様が――」


「私の独断だ。ライゼルには、これから許可を取りに行く」


 話は終わりとばかりに、レネスは隊長に背を向ける。歩きながら書類をめくり、エドガーの前で足を止めると、書類に目を落としたまま口を開いた。


「エドガー。ミリアン医務官のところへ、男爵令嬢を連れて行け」


 横から書類をのぞき見ようとしていたエドガーが、驚きの声を上げた。


「えっ、ミリアン先生ですか?」


「そうだ。昨日、連絡をつけておいた。待機しているはずだ」


「……えらく準備のいいことで」


 エドガーが含みのある言い方をすると、レネスが顔を上げた。


「この男爵令嬢は、不調を隠して悪化させる癖があると医務官に伝えろ」


 ジットリアの方を見ながら、レネスが言う。


 腕のケガをレネスに隠していたように、医務官にも隠すことを警戒しているようだ。悪化させたいわけではないとジットリアは言いかけたが、レネスの言い分も理解できるので、口枷を噛んで黙っていた。


「ライゼルと話をつけてくる。私が行くまで、男爵令嬢を医務室から一歩も外に出すな」


 命令を聞いたエドガーは、直立すると腰の後ろで手を組んだ。


「任務遂行のためにお尋ねするのですが、それはジットリア嬢の脱走を心配しておられるのか、第三者の横取りを心配しておられるのかどちらでしょう?」


 レネスが、苛立ったように眉をひそめた。


「答えがわかっている質問をするな。交代にナイルズを行かせる。それまで皮肉と愚痴を我慢しろ」


「……承知しました」


 答える声には、元気がない。


 早朝に野営地を出立し、何度か休憩をはさんだものの、夕刻までドラゴンを駆り続けた。座っていただけのジットリアと違い、ドラゴンの制御と囚人の監視で相当疲れているはずだ。愚痴のひとつも言いたくなって当然だろう。


 レネスが行ってしまうと、エドガーがため息をつく。心配そうなジットリアの視線に気づくと、肩をすくめた。


「残念ながら、お別れはまだ先のようです」


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