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30話 大会当日


訓練場を囲むように作られた観客席は人で埋め尽くされていた。


人ごみの中にはピシッとした黒いジャケットとパンツを履いて、白い手袋を身に付ける紳士とレースでふんだんに飾られた色とりどりの日傘を差し、ひらひらとした豪華なドレスに身を包む婦人が多いが、中には騎士団の制服を身に付けた者もちらほら見えた。


「……やっぱりすごい人だらけだ」


「あんな動きにくい服でよくこんなトコ来たなァ」


俺たちは大会に出る生徒が入退場するための通路から覗き見ている。


まあ、言ってしまえば舞台裏にいるようなものだ。


「イシュリーの次の対戦相手はだれだっけ」


イシュリーは既に三回戦目に突入している。


先の二回の試合は彼女の圧勝だったため、既に良い成績を得られそうで安心した。


これまでの特訓の成果が発揮されているのをしかと感じ取れて嬉しい。


だが、三回戦目以降はもう油断できない。魔法にも剣術にも長けた生徒が次々と出て来るはずだ。


「次の相手は上級クラスの生徒だなァ」


「相手は魔法、得意そうか?」


「まぁまぁって言ったトコだ。だが、使用頻度はさっきの試合より高くなるなァ」


ラヴェルは手元の資料をペラペラ捲っている。


どうやら大会に出場する生徒について詳しく書かれている資料なようだが、一体どこで手に入れたのやら。イシュリーに肩入れして特訓にまで付き合っていた人物が持っていて良い代物では無いだろうに。オリバー先生に見つかったら何と言われるのかたまったもんじゃない。




「そういやァ、犯人の足取り掴ンだけど、聞きたいか?」


「は?」


資料に視線を落としたままのラヴェルへ振り向く。


「……それ、今言うことか!?」


そんな大事なことはもっと早く言え!

あまりにも重要すぎるじゃないか!!


「もっと早く言えよって思っただろ?」


視線だけを俺に向けたラヴェルは整然としていた。


犯人が捕らえられるところまで来ているといのに、随分と落ち着いている。


「思うに決まってるだろ……」


「まァたぶん、ヤツはこの大会でコトを()()()()()()()はずだ」


……はあ!?それはもっと重要なことだ、このままだとまた襲撃事件が起こるということではないか!


「起こそうとしている!?おい!そんな大事な事今までどうして黙ってたんだ!」


「落ち着けって、言っただろ?()()()()()()()()()だ。犯人は襲撃を今日、この日に、この場所で起こそうとしていたが、結局はしないことになる。」


ラヴェルは口角を上げて、鋭く赤い瞳で俺を見た。


「何で、そんなことが分かるんだ」


「犯人も情があるってことだなァ」


ケタケタ笑って、紅玉の瞳が閉じられる。


俺にはこいつが何を言いたいのかさっぱり分からない。


「……で?何で犯人の足取りが掴めたんだよ」


「ここ数日、図書館の開館時と閉館時に禁書棚を訪れてみてさァ」


「一昨日には、閉館時に魔法陣が無いコトを確認したんだがなァ、昨日の朝、開館した直後に訪れてみりゃァそこには魔方陣が再び書かれていたってことだ」


「どうやらヤツは図書館の開館時ではなく閉館後の夜中に図書館棟へ忍び込んでいたようだなァ」


金髪の男は髪の束を弄りながら自信ありげに話す。


「でも、それだと犯人は特定できていないんじゃないか」


「いや、予想はもうついている」


「じゃあ、犯人は——」


犯人は一体誰なのか聞こうとした瞬間、会場にアナウンスが入る。


「お待たせ致しました!とうとう第三回戦に入ります!」


「それでは早速、選手入場です!拍手でお迎えください!」


拍手と歓声の中、二人の生徒が現れる。


一人は、見慣れた蒼の髪の少女、もう一人は茶髪の少女だった。


イシュリーの名前と対戦相手の名前が読み上げられ、両者は鞘から剣を抜く。


二人の近くに控えるのは審判を担当するオリバー。


彼は向かい合った二人を見渡すように視線を流す。


「両者とも準備は宜しいか」


オリバーの低い声は歓声に負けず、訓練場によく響く。


観客は今か今かと始まりを心待ちにしている。


オリバーは息を深く吸い、口を開いた。


「では、始め!」


始まりが告げられ、両者は共に走り出す。


真正面から剣が交わる。


キリキリと音を立てて剣の接点が移動する。


イシュリーの剣が相手の剣を押し切った。


やはり体重移動や剣術の駆け引きはやはりイシュリーの方が上だ。


相手の身体はその反動で後ろへよろめくが、直ぐに持ち直し、そのまま身体全体に魔力を帯びて、身体強化を図った。


「オマエの戦い方に似てるなァ」


隣でニヤニヤしながら俺を見る不遜な男は相手の生徒を指さした。


「なら、きっとイシュリーが勝つな」


何度、手合わせをしたことだろうか。


剣術では彼女に勝てない俺だが、魔法が使えるとなるといくらでも勝てた。


実際、一度も負けていない。


「それに、あの生徒よりも俺の方がもっと卑怯な魔法を使っていたしな」


「ああ、アレは酷かった、本当に酷かったァ」


ラヴェルは思い出すように哂う。


身体強化された身体は言ってしまえば、自分が意識して出す力が何倍もの強さで出力されるようなものだ。




相手の身体強化魔法を感じ取ったのかイシュリーの動きにも変化が現れる。


動き回るのを止め、剣を前に構えて相手が襲ってくるのを待つ。


それを好機と思ったのか、風を切るような速さで相手は走った。


剣を振り上げ、ぐんぐんとスピードを上げてくる。


そしてそのまま真っ直ぐ、イシュリーに突っ込んだかと思ったら、


その瞬間、イシュリーは自ら横へと身体を投げ出す。


標的のイシュリーが相手の視界から消える。


横に避けたイシュリーを追おうと方向転換を試みる。


しかし、一度上げた速度は簡単に落ちない。


相手の少女は慌てて止まろうと重心を落として足で踏ん張るが、その努力も空しく大きな音を立てて観客席の壁へと突っ込んでしまった。


砂埃が立ち上がる中、少女がよろよろと立ち上がると砂煙の中から突然刃が現れ、首元に当てられる。


それに驚くが少女は負けを認めぐったりしながら両手を上げた。


「勝負あり!」


再びオリバーの低い声が響く。


観客は大喜びで歓声を上げた。


イシュリーは剣を鞘にゆっくり収めると拳をぎゅっと握ってその喜びに浸る。


その後、空色の瞳を輝かせた少女は観客から拍手喝采を浴び、笑って手を振った。


そうして三回戦は幕を閉じた。





「オマエも同じことしてたよなァ」


「まあ、あれは態とイシュリーに身体強化魔法を掛けて、自らあらぬ方向に飛んでくのを見て楽しんでただけだけどな」


「性格悪りィ」


ラヴェルはニィと笑いながら横目で俺を見る。


「どの口が言ってんだ、お前こそ稽古の最中にイシュリーを煽ってばかりだったじゃないか」


「ソレはソレ、コレはコレだ」


フフッと機嫌良さそうに笑うラヴェルは、ふと俺の背後へ視線を向けた。


「お、噂をすればだ」


振り返ると、ここにも機嫌の良さそうな奴がいた。


「勝ったわよー!見てたんでしょ!私の完璧な避け具合を、ね!」


親指と人差し指の間の付け根を顎に当てる謎のポーズをとって現れたのは蒼髪の少女。


「ああ、よく勝ったなイシュリー」


「当たり前でしょ!あんたにされたこと、しっかり覚えてるんだから!」


「流石に、アレは酷かったよなァ」


珍しくラヴェルがイシュリーの味方をしている。


「まるで俺が悪者みなたいな扱いじゃないか」


「実際、あの時、貴方は私の中で一番の悪役だったわよ」


「でも、そのお陰で今の試合に勝てたんじゃないか?」


腕を組んだイシュリーにそう言って笑いかけてみる。


「う、まあそうね、それには感謝しているわ、ありがと……」


なぜか顔を赤くして、困ったようにそっぽを向いてしまう。


そっぽを向かれた理由が分からず、ラヴェルを見ると


「うわァ」


うじ虫でも見るかのようにラヴェルが眉を顰めて見てくる。


「なんだよ」


「いやァなんでもねェよ」


溜め息をついてラヴェルもそっぽを向いてしまった。


「なんなんだお前ら……」


機嫌が良いのか機嫌が悪いのかどっちかにしてくれ……。







午後に入ったところで試合もしばらく休憩に入る。


イシュリーは観客席にいるという家族の元へ行ってしまい。


俺たちは人が疎らな観客席の端に座って昼食をとっていた。


「次は準々決勝か」


「はへふはは」


「食いながら喋るな」


ラヴェルは食堂から搔っ攫ってきたハムとチーズのサンドイッチを頬張りながら俺の手にある資料を覗き込む。


「えっと次の対戦相手は誰だ……」


ぺらぺらと資料を捲っていると、資料に影が差す。


「イシュリーの次の相手はあたしだよー!」


そう言って、思いっきりラヴェルの背中を叩くのはミルクティーのような髪色の少女。


「次はニコなのか」


「そうだよー」


「ッ!この野郎!ヒトが飯食ってる時になにしやがる!」


咽ながら、サンドイッチを飲み込んだラヴェルはカッとなってニコを怒鳴る。


「まあまあ落ち着け、お前にとって怒りは良い感情なんだろ?」


「……ああ、良い感情だ、ぜってェ殺してやるって思いを行動に移す後押しになるンだからなァ!」


緋色の瞳孔が縦に裂ける。


「あ、これ不味い感じじゃない?」


ニコはビクリと肩を揺らし動揺する。


「大人げないぞ」


容赦なく頭にげんこつを落とす。


「いってェなァただの脅しだ、脅し」


「そんなもの生徒にやっていい訳あるか」


「うるせェ」


ラヴェルは眉を寄せて拗ねるようにそっぽを向いてしまった。


「ごめんな、こいつ喧嘩っ早くて、許してやってくれ」


「いや、あたしが吹っ掛けたようなものだし、あたしの方が悪かったよ、ごめんね~」


ニコは両手をブンブン振って申し訳なさそうに謝る。


「でもまさかイシュリーの次の相手がニコになるとはね」


「あたしもびっくりしちゃった~」


「そういえばポールはどうだったんだ?」


「あー、それが前回優勝者の生徒と一回戦目に当たっちゃって、もうボロボロだよ」


蜂蜜色の瞳を閉じてしょうがないというように肩をすくめる。


「そんな奴に当たるなんて運が無いな」


「でもどうせ、勝って行ったら結局戦うことになるんだから。ほら、あたしたちの試合で勝った方は次、その人と戦わなくちゃいけないんだよ?」


「え、そうなのか」


全然知らなかった、準々決勝を勝ち上がってもそんな奴と戦わなきゃいけないなんて。


「あ~!いいの持ってるじゃん!それで探してあげるよ、えっとその生徒は……」


そう言うと、ニコは俺が持っていた資料を取り上げて捲る。


「あった!これこれ、結構有名人なんだけど」


ニコは俺の顔の前に資料のページを突き出して見せる。


「サクル・ビン・アーセファ」


「……誰?」


全然聞いたことが無い。


「学院にいるのに聞いたこと無かったんだ!」


ニコは驚愕した表情を浮かべる。


「ごめん、全く分かんない」


「一族は南西に広がる砂漠一帯を治めるアスファル王家の分家にあたる大貴族!今は留学に来ているんだってね、本当に知らないの?」


アスファル王国といえばダンジョンが沢山あることで有名な国だ。宝石も魔石もよく取れるといい、多くの魔法使いが一度は行ってみたい国としてよく話題に挙がっていたのを思い出す。


「知らななかった。まさか他国の高貴な人間が騎士科にいるとは驚きだな」


「そうなんだよ!なんでわざわざ騎士科を選んだんだろー」


騎士を輩出する家系の貴族ならまだしも、王家の分家なら騎士にならずとも文官としてなら良い役職などいくらでも貰えそうな立ち位置であるのに。


「ただの趣味じゃねェのか?」


ラヴェルが会話に入ってきた。機嫌は直ったのだろうか。


「まさか、大貴族の長男がそんな奔放な真似できる訳ないよ~」


長男なら爵位を継ぎ家長になるんじゃないか!

……なら、なんで騎士科に入ったのかますます謎だ。


そうして三人で議論をしていると昼休憩が終わってしまい、ニコは去って行った。







「そろそろなんじゃねェか?」


ラヴェルは手摺に腕を乗っけてだらりと試合を眺める。


「一日中ずっと試合を見てると流石に見飽きてくるな」


欠伸を噛み殺して、剣を交える生徒達を見下ろす。




「……調査のこと忘れてないよな」


「そりゃあなァ」


ラヴェルは俺の方を見ず、興味なさそうに会話を流す。


「犯人は分かっているんだろ?いつ……仕掛けるんだ」


俺たちの目的は襲撃の内部犯を見つけ、捕らえること。


決して生徒の試合を応援することじゃない。


それは分かってはいるが、


「オレはいつでもいいが、オマエはどうだ?」


緋色の瞳はこちらを見ない。


起伏の無い静かな声は、感情が見えない。


「それは……」


自分がどうしたいかよりもラヴェルが何を考えているのかが気になった。




「さあとうとう準々決勝に入りました!」


会話を引き裂くようにアナウンスが響いた。


「戦うのはイシュリー・アマルシア、そしてニコ・ダクティーリ」


見慣れた二人が訓練場の中心に立つ。


蜂蜜色の瞳を輝かせた少女はこんな時でも笑顔を絶やすことはない。


深い空色を閉じ込めた瞳で相手を射抜く少女は剣の鞘を強く握りしめた。


「両者、剣を抜き、構えよ!」


オリバーは一切の疲れを見せず、その威厳ある声を張り上げた。


両者はゆっくり剣を引き抜き、自身の前に構える。



「では、始め!」


合図が辺りに響いたと同時に二人は走り出した。










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