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嵐の予感


 ハロー、オタクくん! 聞こえてるー?

 俺は魔王城にある転移棟に来ていまーす!

 カーラに連れられて魔界にお邪魔した時に端っこを通ったかな? 同じ場所かの確信は無いけど、雰囲気はだいたい一緒だよ。


 人間界へと繋がっている魔法陣を前にして、俺たち四人が立っている。

 俺と、ゴーレム憑依の被験者デニー、魔狼のツードラ将軍に、デニーの監視役のサニー。

 オタクくんが知らないのはサニーだけだね。

 簡単に説明しておくと、彼女はウサギ系の半獣人だ。人間の体にウサミミとウサ尻尾がついてる感じの見た目をしている。

 獣人じゃなくて、キメラ族。この世界ではそのように分類されている悪魔だ。

 サニーの耳は茶色で、ツインテールのように垂れ下がっている。ロップイヤーのカワイコちゃんだ。

 日焼け肌でショートカットの元気っ子、といった様相は、俺の好みランキングではちょうど中間くらいに入る。つまりは十分に可愛い。

 訓練ばっかりでデートのマナーとかわかんないです~って感じに見えるけど、オタクくんはどう思う?

 こういうスポーツ系の娘って、片寄った知識してそうだけど、そこを一捻りして実はムッツリ型⋯⋯なんてのも漫画のキャラにはいるじゃん。


 ⋯⋯え? また脱線してるって?

 わかったよ。もう、仕方ないなぁー。

 オタクくんのリクエストにお答えして、実況をお送りしますよー。はいはい、別に俺は拗ねてないですー。


 俺がぼーっとしている間に、デニーとサニーは魔法陣の起動準備に入っていた。

 デニーは燭台の位置を細かく確認し、蝋燭を立てて回っているところだ。

 サニーは床にしゃがみこんで、線の濃さをチェックしながら魔力の流れを確かめている。


「あー。ここの線、劣化してんなー。チョーク、チョーク──ひゃっ!」


 道具箱へと伸ばされたサニーの手が、ちょうど蝋燭を取りに来たデニーの体に衝突する。

 おっ、これアレだろ? ラッキースケベ!

 オタクくんは憧れるって言ってたけど、漫画の次のコマでは、故意に痴漢した容疑で過剰にボコボコにされるんだから目が醒めるよな。

 あんな偶然を求めるよりも、カノジョを作って頼み込むほうがずっとマシだと俺は思うぜ。

 今の俺にはインキュバス限定のチート魅了魔法もあるしな!

 目の前でどんなラッキースケベが起きても、魔法でそれ以上のイベントを簡単に体験できるのだから、羨ましいとは思わないぞ!


「おっと、すまねぇ! 大丈夫か、サニー!」

「いやいや! 今のはアタシが悪かったよ! ごめんね、アニキ!」

「いいって、いいって。気にすんな」


 デニーが豪快に笑う。見た目こそ魔王アルバにそっくりなのだが、仕草は完全に男のそれだ。

 女に化けてる時のジルケアは、もっと優雅で、特に足の運び方には違和感が無かった。あいつの演技って、細かいとこまでキッチリ詰めてあったんだなぁ⋯⋯。

 俺がそんなことを考えていると、サニーがデニーに質問を投げた。


「⋯⋯ところでさ、アニキ。

 アニキは、あっちのネクロマンサーの術でゴーレムに憑依させられてるって聞いたけど。

 そんなヘボい体に入れられて、実は怒ってたりとかしない?」

「そりゃあ、オイラも思うところはあるけどよ。

 魔王様のアレで、オイラの魔力はリセットされちまってたし、ヘボさはそんなに変わってねぇんだ。気に入らねぇのは見た目くらいさ。

 でも、人間界(あっち)に着いたらこの義体に蓄えられてる魔力を使って、身体成形してもいいってツードラ将軍が言ってたからよ。

 見苦しいだろうが、少しだけ我慢してくれや、サニー」


 デニーはそう言いながら、サニーの頭をわしゃわしゃと撫でる。


「わっ、ちょ、やめろよアニキ! もう! 投獄されてたってのに、アニキは相変わらずアニキだな!」

「はっはっは! そりゃそうだ! 魔王軍に入っても、オイラはお前らの親玉だからな! そら、早くコイツを終わらせて、出撃するぞ!」

「アイサー!」


 デニーの号令に、サニーが元気よく答える。

 ⋯⋯あれ。そう言えば、人間界に関することで、なんかあったような気がするんだが⋯⋯。

 なんだっけ。えーと、ああ、そうだ。


「ツードラさん。勇者の動向がどうのって言ってましたよね? あれ、具体的には何があったんですか?」

「む。それは⋯⋯本来であれば、進攻部隊長である我が、魔王様に報告することなのだが。

 異議申し立ての最中ゆえに、貴殿を上官として話そう。まだ認めたワケでは無いのだがな」

「そうですか。それで、報告の内容は?」

「勇者アレックスが王都を発った。聖涼祭のの始まりすらも待たずに、だ」


 ツードラがやれやれといった表情を浮かべる。

 聖涼祭とは、信仰的なアレコレで大事なお祭りのひとつである。

 畑から収穫された野菜や工芸品なんかを祭壇に捧げて、神々に感謝と信仰の深さを示す。

 ⋯⋯と言われているが、現代においては、ちょっと贅沢な食事や、旅芸人による神話歌劇を皆で楽しむイベントだ。

 勇者であるアレックスとエルシーの旅立ちは、この聖涼祭の翌朝に予定されていた。過酷な旅の直前に、このお祭りで英気を養え、ということなのだろう。


 だが、エルシーは失踪し、アレックスが予定を変えた。

 ⋯⋯きっとアイツは、エルシーのところまで辿り着いてしまうだろう。

 そういうヤツだと、俺の中にある記憶が言っている。

 気遣いが下手くそなところは嫌いだが、アレックスの剣術と行動力の凄さについては、エルシーも俺も認めているのだ。

 俺は出立の準備を終えた二人組へと向き直る。


「デニー。サニー。気をつけてな」

「誰に言ってるんですかい! オイラたちカロテナ山賊が、人間界の貧弱な獣なんかに負けやしませんぜ!」

「流石はアニキだ! アニキがいれば百万力だぜ!」

「そんじゃ、行ってくるぜ将軍! 今よりもデケェ『門』が作れたら、褒美に美味い酒だしてくれよな!」


 ガッハッハ、と笑いながら元山賊の兵士二人が魔法陣を起動する。

 俺特製のゴーレム体は、転送魔法でエラーを起こすことも無く、光に呑まれて飛んでいった。


「むぅ⋯⋯。本当に転送を成功させるとは⋯⋯。確かにこれなら、我の左遷もやむ無しか⋯⋯」


 ツードラが残念そうに言う。

 ここで「やだやだ我が隊長だもん!」とゴネて殴り合いに発展しないのは、実に助かる反応だ。

 まあ別に、あの牙で噛みつかれて暗殺されてしまったとしても、俺はゴーレムに憑依中だからエルシーの体に帰ればいいだけの話なんだが。

 賓客を攻撃されたとあっては、ジルケアや冬神も黙って無いだろうし、虎の威を借る狐で悪いが、今は完全に俺に分がある。

 ツードラにはおとなしく引き下がってもらおう。


 さぁて、これで仕事は終わりだ!

 冥堂まで帰りがてら、良い感じの人外娘ちゃんがいたらナンパしちゃおうかな!

 俺はウキウキとした足取りで、転送部屋から出ていった。




本作は、ep.70(2025/09/26投稿予定)にて、一時休載となります。


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