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試用試験?


 いえーい、オタクくん見てるー?

 俺は今、魔王城の玉座の間で泥を捏ねてまーす!

 なんで、わざわざ、ここでやってんの?

 すげー疑問なんだけど、ツードラ将軍がなんかテキパキと土を部下に運ばせて、「さあ見せてみろ!」って吠えたから仕方ないよね。

 あ、ちなみに透明悪魔のマイアは夜勤シフトがどうのと言って、帰っちゃいました。デートはまた次の機会だね。


「おおまかな種族とか外見とか、俺の好みで作っちゃっても良いですかー?」

「構わん。だが、手は抜くな。技術が正確に計れなくなる」


 よし、言ったな。俺の好きにさせてもらうぜ。何か不適切な出来になっても、悪いのは許可出したツードラだ。

 俺のマナーや常識の無さは悪くない。いいな?

 これは理屈としてはおかしいし、絶対に棄却を食らうだろうけど、そういう心境でやらせてもらうぞ。

 俺は良い感じの硬さになった泥を積み上げて、ゴーレムのベースを作り始めた。

 トカゲの鱗を混ぜたら竜人になった、という事があったので、混ぜ物をするのもアリだろう。

 とはいえ、ここにあるものは、魔王アルバの枝から落ちた果実の残骸くらいだが⋯⋯。


「これを混ぜたら、何になるんだろうな⋯⋯。植物なんだし、アルラウネかな? それとも羊獣人かな?」


 もしかしたら、魔王のドッペルゲンガーなんかになる可能性だってある。

 魔王そのものをナンパするのはちょっと怖いけど、ただ顔がそっくりなだけならば、後腐れ無しにイケるんじゃないか?

 あの魔王様、「妾と同じ外見がおったら、妾の美貌の価値が下がるじゃろうが!」みたいなキレ方はしてこないだろうし。


「よし、決めた。せっかくだから雰囲気そっくりさんにしとこう」


 ただし、体格は俺の趣味に合わせて盛り盛りに盛ってやる。

 それはもう、多産祈願の土偶みたいにボンキュッボンのナイスバディだ。

 ⋯⋯巻頭グラビアにアイドルの顔写真を合成(コラージュ)? ごめん、オタクくん。俺その文化には詳しくないんだ。藁人形の話なら後で聞くから今は黙ってて。

 脳内の声に答えながら、俺はペタペタとゴーレムの胸部に土を盛り足した。やっぱ、デカくて柔らかいって良いことだよな。


 今回この肉体に入ってくれる魂は、残念ながら男のようだが⋯⋯。

 ツードラに実力を認められれば、いずれは女兵士の外見を自由に作れるチャンスも来るだろう。

 ニヤニヤと笑いながら、俺は塑像の形を整えた。


「あのぉ、ツードラ将軍⋯⋯? オイラ、まだ状況がわかってないんですけど⋯⋯」

「貴君はこれから、最強の斥候に仕立て上げられて、人間界へと出撃するのだ」

「ええっ? それってつまり、流刑ですかい? オイラは確かに女兵士の宿舎で好き勝手してましたけど、魔王様の樹液に呑まれてしっかり反省しましたよ!」

「そうだな。故にこれは流刑ではない。正規の命により人間界で任務中の兵士達もまた、罪人では無いことは心に刻んでおけ」


 俺の作業を見守りながら、魔狼ツードラが部下と話す。

 部下は恐らく小悪魔だ。コウモリの羽と細長い尻尾。足元は蹄で、それ以外の骨格は人間の男性的。


「ツードラ将軍。もしかしてですけど、オイラ、あの下品なゴーレムと何か変なことしなくちゃいけないんですか?」

「当たらずとも遠からずだな。戦闘訓練の類いではない。あのゴーレムは、貴君の魂を核として完成する新型兵器だ」

「生贄じゃねぇですかい! ちょっと女で遊んだだけで、処刑後に処刑はやりすぎですぜ!」

「種族が二階級特進するのだ。胸を張って誇りたまえよ」

「将軍が考えた優劣(ティア表)をオイラに押しつけないでくれませんかねぇ!! オイラにとっての最強種族はオイラ自身の現状なんスよ!」

「魔王様の魔力ミキシングで種族が変わった直後にそれを言うのかね⋯⋯?」


 漫才のような会話が、俺の背後で流れている。

 そんな環境でも俺は作業をやりきった。

 作り終わった塑像をネクロマンシーで生体化して、ツードラたちを振り返る。


「出来ましたよ。高魔力ゴーレムです」

「⋯⋯オイラには、人間並みにザコいパーツにしか見えないんスけど」

「確かに、悪魔の匂いはしないな。だが、素材の魔力は失われていない。まるで生まれたての赤子だ」


 魔狼のツードラがスンスンと鼻先を近づけてゴーレムの匂いを確かめる。

 透明悪魔のマイアは俺の体を見るなり褒めまくってたが、一般的な視点だと、そういう風に見えてるんだな。

 まあ、そういう脇道の話は良い。俺はさっさと憑依まで終わらせて、仕事終わりのデートをたっぷり楽しみたいんだ。


「俺の魔術で、そっちの、ええと⋯⋯。名前なんでしたっけ?」

「オイラかい? オイラはデニー。レオニナで山賊やってたら将軍にスカウトされて──」

「あー、そういうの後で聞くんで。さっさとゴーレムの横に寝てもらえますか。俺の魔術で魂を移し変えるんで」


 ほら早く、と俺はデニーを急かす。

 デニーは肩をすくめながらも、命令通りに移動した。

 後は俺の⋯⋯エルシーのネクロマンシー技術で、ゴーレムに魂を憑依させるだけ。

 自分の魂を扱うよりも遥かに楽で簡単な作業だ。

 俺が作ったゴーレムと、憑依させる魂の魔力の色味が違うから、接続地点を見失わないのがマジで助かる。

 他人の命を預かるほうが自分の命を掛けるより気楽だなんて、道徳的にはなんかおかしい気もするけどな。

 魔術をマジカルポン☆と使って、俺はデニーの魂を新しい体に結びつけた。


「はい、おしまい。どうだ、ゴーレムの肉体は?」

「⋯⋯重い。骨の中に泥が詰まってるみたいな感じだ」

「グダグダ言っとらんで、さっさと起きんか! 我々は、本当にこの状態ならば転送制限を無視できるのかの確認と、あちらでの身体再形成の実験をせねばならんのだ!」

「サー・イエッサー⋯⋯。よっこらせ⋯⋯っと」


 デニーが床から体を起こす。

 おお。さすがはエルシーの記憶力と技術力。今のデニーの顔立ちは、魔王様にそっくりだ。

 種族的には、バロメッツ系のアルラウネと言ったところか。

 魔王のほうはドリアードだが、デニーには本体となる大樹は無い。

 完成品のゴーレムを見て、魔狼のツードラが鼻を鳴らした。


「⋯⋯ふん。影武者も作成可能だとアピールなさったおつもりか? 確かに魔力感知が苦手な人間相手には使えないことも無いだろうな」

「それじゃあ、将軍。オイラはこのまま人間界まで行ってきますよっとー」

「うむ。伝令役としてサニーをつける。しっかりと任務に励むように」

「げ。それ、お目付け役じゃないですかい。へーへー、頑張ってきますよー。人間界に行っちまえば好き勝手できると思ったんだがなぁ⋯⋯」


 デニーが溜め息を吐きながら、玉座の間から出ていった。

 ツードラが俺を見上げて言う。


「我らも転送を見守ろう。本当に人間界への転移が可能か、この目で確かめなければな」



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