魔狼Tw^udra'
俺とマイアが玉座の間から出ようとした、その瞬間。
空から流れ星が落ちてきた。
青い稲妻を迸らせながら、一匹の魔狼が床に降り立つ。
「魔王様! 我が配下より、勇者出立の報告がありました!」
魔狼は、吠えるような声で言った。
勇者、というとアレックスか? それとも俺ことエルシーが王都から失踪した件か?
透明悪魔のマイアが、魔狼に話し掛ける。
「魔王様はお休み中です。その耳障りな雷鳴を今すぐに止めたらどうですか、ツードラ?」
「ん? おお、マイア殿。魔王様の検診中か?
だが、こちらの用件は急を要する内容でな。進攻作戦を預かっている魔王軍四天王第三位として、魔王様へとお伝えせねばならぬことが──」
「ツードラ。お気の毒ですが、貴方は左遷されました。人間界への進攻作戦は、こちらにいらっしゃるユウジ様が指揮を執られます」
マイアが俺のほうを指差す。
この狼がツードラなのか。さっき魔王が異動させるってサラッと言ってた。
⋯⋯あれ? これ、まずくね?
ツードラの立場からすると、急にポッと出の若造が、自分の居場所を奪ったようにしか見えないぞ。
オタクくんの好きなバトル漫画とかだと、納得できねーって大暴れされちゃう展開じゃねぇの?
俺は内心ハラハラしながら、ツードラに挨拶してみた。
「ど、どうも。ユウジです」
「ユウジ様はゴーレム研究の知られざる大家。ご覧なさい、この最新鋭の素晴らしき義体を。この技術力があれば、『門』の作成も速やかに終わることでしょう」
何故か誇らしげに胸を張るマイア。
俺の力量を笠に着て、見つけ出した私が一番偉い、みたいな顔は出来ればしないで欲しい。俺はお前の手札になった覚えはまだ無いぞ。
俺は心の中で溜め息を吐いた。さっさと魅了魔法を掛けて、俺好みの言動に叩き直したい。
⋯⋯いや、ちょっと思考が逸れてしまったな。今はツードラだ。
魔狼はマイアのほうを見て、やれやれと首を左右に振った。
「⋯⋯はあ。これだから門外漢は。
いいか? いくら大量にゴーレムを作ったところで、人間界へと運び出せる魔力は微々たるものだ。
あちらの世界を荒らし回って、次元に穴を開けてやるほうが遥かに効率的だと、第三回までの軍議で結論が出されておる」
「それは騎兵団による生成能力を前提とした話でしょう?
ユウジ様のゴーレム技術は、それを遥かに越えています。今すぐにでも、貴方と同等の魔力濃度を持つ悪魔を人間界へと送り込めるのです」
「マイア医師。ついに脳内までインビジブルを通り越してクリアになったか?」
「あら、暴言。魔王様に逆徒の恐れ有りと報告すべきかもしれませんね。裏切り者は魔王様の枝葉に抱かれて、果実になってミキシングですよ?」
大樹の根元で潰れている果実をマイアが指差した。
どうやらあれは、裏切り者が魔力元素にまで解体、再構築された結果らしい。
捕まえた敵を自身の配下として産み直す能力。人外女王らしくて素敵だ。口説くのが怖くなってくるけどな。
魔狼のツードラは、素人は黙っとれ、とでも言いたげな顔でマイアを睨んだ。
「ならば、そこで伸びている悪魔を人間界へと送り込んでみろ。産み直されたばかりとはいえ、中級程度の魔力はある」
「そのくらい、簡単に出来ますよ。さあ、ユウジさん、やっちゃってください!」
「マイアさん。俺にゴーレムを作らせたいなら、せめて材料は用意してください」
というか、そもそも、この透明悪魔は救護班長。俺の上司ヅラしてるけど、絶対にそんなことは無いだろう。
百歩譲って秘書官あたりを自認してるのだとしても、それなら俺に確認も無く勝負を受けないで欲しい。
「材料は何だ?」
「魔界の土です。俺のこの体は、マンドラゴラ畑の土で出来てます」
「他には?」
「粘度調整に水を幾らか使います。材料は以上です」
「⋯⋯それは、随分と安上がりだな。それだと地属性の魂しか入れぬのではないか?」
「元々は自分用なので、他の属性への転用研究はしてないんですよね」
ちなみに、幽霊のレイチェルさんにゴーレムの体を作ってやろうかと提案しなかったのも、この問題が関係している。
⋯⋯断じて、幽霊に肉体を与えたら、せっかくの人外度が下がるだろ、なんて考えてたワケでは無いぞ! 断じてな!!
俺は脳内で言い訳をしながら、魔狼の返答を待った。
ツードラは暫く考え込んで、口を開く。
「材料があれば、出来るのだな? そこに転がってる再誕魔獣は、幸いにも地属性。我が部下に命じて、ここに土を運ばせよう。貴様の力を示してみるのだ」
魔王様からの勅命で左遷が確定してるのになんとも偉そうな言い方だ。
しかし、これは俺が想像していた通りの展開。
今回ばかりはさすがに、俺の凄さにツードラがひれ伏し、魔王軍にいるカワイコちゃん達がキャーキャー歓声を上げてくれるって流れだろう! これぞ異世界転生ってやつよ!
うーん、実に楽しみだ! 同時魅了で両手に花のままデート、なんて夢のある未来がきっと待っているに違いない!!
もしかしたら、魅了魔法なんて使わなくても、カワイコちゃん達のほうからデートして~ってお願いしてくる可能性も!?
⋯⋯あー、オタクくん?
楽しく妄想してるんだから、水差さないで?
なに? 調子に乗って油断してたら、女に化けてる悪魔に遊ばれて捨てられる?
大丈夫だって! 仮にカーラ様みたいに「ユウジくんが女の子だったら最高なので、今から女の子にしちゃいまーす!」みたいな悪魔が来ても、俺は負けねぇから大丈夫!
サクッとツードラの試練を突破して、人外娘にモテモテのウルトラハッピー☆ストーリーを聞かせてやるから期待してなよ!
ユウジくんの更なる活躍にご期待ください!
では、また次回~!!




