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拝謁


 やっほー! オタクくん、みってるー?

 俺はついに魔王城にやってきました~!


 なんて表現したら良いのかよくわかんないんだけど、三角屋根に塔が二個、みたいな。テンプレみたいなフォルムの城だよ。

 壁に赤黒い木の根っこみたいなのが張ってて、どうにもおどろおどろしい。

 透明悪魔のマイアに導かれるままに、絨毯が敷かれた廊下を進んでいくと、やがて玉座の間っぽいところに辿り着いた。

 衛兵っぽい悪魔もいっぱい居たけれど、マイアが一緒だからか、全部スルーだ。


「おや、マイア先生。健康診断の時間ですかい?

 ご苦労様です。そちらは新しいお弟子さんですかな? 立派な医者になるのが楽しみですね」


 ⋯⋯なんて、世間話をしながら、魔王がいる部屋の扉をあっさり開けてくれた。

 身分証明しなくて良いとかザル過ぎる。さっさと仕事を終わらせてカワイコちゃん達と遊びたい俺にとっては嬉しいから、良いんだけどな。


「おおー、すごい。デケェ木が生えてる⋯⋯!」


 玉座の間へと入った俺は、その光景に圧倒された。

 天井を廃された部屋の中に、一本の大樹が生えている。

 石の床の端から端まで根を張って、ただの木で無いことは明らかだ。

 幹が二股に分かれ、大きなYの字を描いている。黒い枝の先に繁った葉は、俺を手招くかのような不自然な揺れ方だ。

 様々な色合いの木の実が、いくつも生っていて、その内のひとつが何の前触れも無くぶつりと落ちた。

 ぐしゃり、と落下の衝撃で潰れた果肉の内側から、羊の蹄が覗いている。

 透明悪魔のマイアは、生まれたばかりのそれに目をくれることもなく、大樹の根本に跪いた。


「魔王様。我らの進攻を推し進める、革新的な魔法技術が発見されました」


 その言葉に呼応して、大樹の葉がザワザワと揺れる。

 ⋯⋯え? もしかして、この木が魔王様なのか?

 実をつけてるってことは多分、雌性か両性だろうとは思うんだが、さすがにこれをカワイコちゃんとは言いがたいぞ⋯⋯。

 こんなバロメッツと世界樹をテキトーに混ぜ合わせて作りました、みたいな悪魔を出されても⋯⋯。

 せめて、ドリアードとかが本体だったりしませんか?

 いや、このでっかい木も良い具合に不気味で、魔王としての格は十二分にあると思うんだけどね?

 俺としてはやっぱり、魔王の外見には人っぽさもあったほうが良いなぁ~、なんて⋯⋯。

 そんなことを考えていると、大樹から人の声がした。


「余は、眠い。手短に、述べよ⋯⋯」


 ふわふわとした声色の、なんだか眠そうな女性の声だ。俺は改めて大樹をよく見る。

 いつの間にか、そこに一人の悪魔が座っていた。二股に分かれた大樹の裂け目に腰掛けて、幹を背もたれ代わりにしている。

 良かった。きっと、こっちが魔王の本体だ。

 シルエットも人型の女性。柔らかな髪質で、おっとりとした顔つきの美人さんである。

 頭には螺旋状に伸びたツノ。俺、知ってるよ。ああいうの、ラツカ羊って言うんでしょ? なんか優雅で綺麗だよね。

 木に腰掛けてる美女の、背中からは翼のように木の枝が伸びてて、腕の先の形状は完全に羊の蹄だった。

 太ももから下は、細い木の根の集合体だ。何本もの根っこが絡まり合って、なんとか人間の足のシルエットを保っている。

 はい、最高。貴女も満点。魔界は俺の好みにぶっ刺さる人外が多くて目移りしちゃうね。

 彼女の服装は、もこもこの羊毛だ。プードルみたいにトリミングされて、肩やおへそが大胆に出ている。


 そんな素晴らしい外見の魔王様に俺が見とれている横で、マイアが手短に報告を済ませた。


「──という訳で、彼を新しい進攻部隊長に任命してください」

「ん⋯⋯。そうか⋯⋯。それじゃあ、ツードラは異動じゃな⋯⋯ふわぁ⋯⋯」


 魔王があくびをしながら木の幹を叩く。

 まるで触手のように滑らかに、枝がにゅるりと下りてきた。

 魔王は自身の翼を使って、葉っぱに文字を書き込んでいく。蹄の腕じゃそういった細かい作業は出来ないからな。人外の所作、素晴らしい。

 やがて、魔王の命令が書き込まれた葉が、マイアと俺にそれぞれ投げ落とされる。


「あー⋯⋯、そこな新参兵」

「はい。何でしょう?」

「略式であるが、任命式を行っておく。

 ──余は当代の魔王、アルバ=スラークローレ。魔神の分霊にして、魔族を統べし王である。

 我等が魔性に魅入られし者よ。そなたを進攻部隊長へと任命する」

「⋯⋯ええと。はい。わかりました。ありがとうございます、魔王様」


 こんな時、どんなことを言えばいいのかわからないんだが⋯⋯。

 意気込みとか喋ったほうが良いのかな?

 でもこの魔王アルバ、めっちゃ眠そうで、さっさと式を終わらせたがってる気配が漂っている。

 結果、俺は間の抜けた言葉をテキトーに返すしか出来なかった。

 魔王アルバは、それでも満足そうに頷く。


「うむ。⋯⋯では、余はもう木の中へ帰る。後のことは任せたぞ、救護班長」

「かしこまりました。おやすみなさいませ、魔王様」


 救護班長のマイアが恭しく頭を下げる。

 アルバの姿が木の幹に溶け込むようにして消え去り、静けさが玉座の間へと戻った。

 マイアがゆっくりと立ち上がり、俺の顔を見る。


「それでは、行きましょうか、ユウジさん。あなたの職場へ案内します」



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