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不可視の悪魔


 ゴーレム技術をなんやかんやして、天使の体を作りたい。

 そんな願いを叶えるために、俺は再び冥堂の裏庭へとやってきた。

 シャドーマンドラゴラの畑を覆っていた泡は、朝よりも量が減っている。


「えーと、シャベルはどこに放り投げたかな⋯⋯?」


 俺はゴーレム作りのために掘り返された穴の近くで、周囲を見回してみる。

 ⋯⋯あれ? このカカシ、なんか変だな?

 他のカカシと違って、白衣を着せられているし、腕もT字になってない。

 何かを考えるかのように口元に手を持ってきている姿勢だ。

 カカシの手袋には綿でも詰め込まれているのか、リアルな人間の曲線を描いている。

 こんなもの、朝に来たときには無かった筈だ。

 だってここ、まだ何も植えられてないエリアだし。カカシを立てるのは気が早すぎる。

 なんか気味が悪いな。ジルケアの嫌がらせか?

 いやいや、あいつは俺をもてなすように神託が下ってるから、わざわざ嫌がらせなんてしないか。


「だとしたら⋯⋯。もしかして、不可視の悪魔インビジブル・デーモンか!?」


 俺の言葉に、白衣のカカシがぴくりと袖口を反応させる。

 カカシの体がゆっくりと振り返り始めた。

 よくよく見れば、白衣の裾からブーツまでの間には支柱もズボンも存在せず、背景がダイレクトに目に入る。

 すげー、本物の透明人間だ!

 インナーは着ていないようで、白衣のうなじに縫い付けられているタグが透明な体越しに見えていた。

 丸眼鏡と白い三角巾でおおよその頭の位置が把握できるが、どれも中に浮かんでいるようにしか思えない。

 そして、特筆すべきはその体型。胸には柔らかな膨らみがあり、どう見ても絶対に女性の体だ。

 顔は透明でわからないけど、この雰囲気は有能美人女医で確定だろう。

 ⋯⋯希望的観測? やかましいよ、オタクくん。

 ここに人外のカワイコちゃんがいるならば、やることは当然ひとつだろ?


「お嬢さん! 俺とデートしませんかっ? てかお名前は? その眼鏡めっちゃイケてるっスね!!」

「は? え? はあァっ!? な、何なんですか、あなた!? ありえないっ、こんなの、ありえませーん!!」


 俺のナンパに、透明な悪魔が喚き立てる。

 あっ、マズイ。これ、またやらかしたか?

 悪魔連中は、なんで会話の地雷をこんなにもすぐも踏むような場所にばっかり、みんなして設置してやがるんだ!

 俺は慌てふためきながら、とりあえず戦闘に備えて身構えた。

 透明な悪魔は俺に一瞬で急接近して、肩をグワッと掴んできた。


「ああっ、触れる! うそーっ!? 素晴らしすぎて信じられませーんっ!

 あなた! その体は何ですか!! 私でも見たことの無い魔力材質!!

 130mp/sc(イッサンパーソー)以上の水と土の魔力を持ちながら、第二種混合魔法生物に特有の汚染反応も調律効果も起きてないなんて!

 いったいどんな魔術を使ったら錬成できるんですか!?」


 早口でワッと捲し立てられる。

 何? 俺の体が⋯⋯、何? なんかヤベーってこと?

 俺がなんか悪いことしたってワケじゃなくって、このゴーレム体が気になるってこと?

 ⋯⋯うーん、どうしよう。

 魅了魔法で話をぶったぎってデートに誘うってのもアリだろうけど、下手に理性を溶かしたら、解剖されそうな気配があるな⋯⋯。

 このカワイコちゃんの好奇心が落ち着くまで会話して、良い感じの雰囲気になったら魅了魔法でガッと行くルートのほうが安全か?

 地雷を気にしながら喋るの、正直あんましやりたくねーけど⋯⋯。

 でも、後々のハッピー・デートタイムのためだ。上手いことやってやろうじゃねぇか!

 俺は透明な悪魔の顔──はわからないから眼鏡の辺りを見て、話し掛けた。


「その⋯⋯、お嬢さん?」

「はっ! も、申し訳ありません! 私は魔王軍救護班長のマイアと申します! あなたには、是非ともお話をお伺いしたく!」

「はい、俺も貴女と話してみたいです。ここで立ち話もアレなんで、その辺のベンチにでも座りませんか?」

「はい! ありがとうございま──あ。

 ごめんなさい。そこのベンチ、いま人間を寝かせてます」


 マイアが申し訳なさそうな声で言う。

 手袋が指差すほうを見てみると、休憩用のベンチにはエルシーの体が寝かせれていた。

 ⋯⋯いっけね。久々の種族リロードにテンション上がって、元の体を放置しちまってた。

 デート中に地雷を踏んでゴーレム体が壊されるようなことになっちまった時のために、エルシーの体はちゃんと安全な場所で保管しとくべきだよなぁ⋯⋯。

 なんかこの考え方、マッドサイエンティストっぽくて、どうなんだとは思うけど。

 とりあえず、エルシーの体は俺が使わせて貰ってる部屋まで運んで、それからゆっくり透明悪魔のマイラと話をさせてもらうか。


「マイアさん。俺、あの子を運びたいんで、ちょっと待っててもらってもいいですか?」

「⋯⋯あら。もしかして、あなたの実験道具でしたか? 患者かと思って勝手にベンチに置いたんですけど、不都合なことをしてしまいましたかね」

「いや、そこまでじゃ無いですよ。それじゃあ、パパッと行ってきますね」


 俺はエルシーの体を抱き上げて、自室へ向かって歩き始めた。

 こっちの体は筋肉もしっかりしてるから、女の子ひとり運ぶくらいはワケ無いぜ。

 さっさと安全なところに避難させてあげて、透明悪魔とのおしゃべりを楽しもうじゃないか!


 ⋯⋯え? 天使の体を作る予定?

 それはまあ、追々⋯⋯な?

 提出日の無い宿題なんだし、今すぐ片付けなくても良いじゃん?

 なに、オタクくん。オタクくんってば、そんなに俺が天使とイチャイチャしてるところが見たいって言うのか?

 悪いが俺は、好きなモンは取っておいて、食事に飽きてきた頃に食べる派だ!! 俺が味変したくなるのを楽しみに待ってろ!


 それでは、次回! デモンズ・インビジブル・マシンガントーク!

 俺、気づいちゃったんだけど、マイアってインナー着てないんだから、つまりはあの白衣の下は⋯⋯。

 こんな閃きの後で、真面目な話が出来るのか俺!? これってフラグじゃないのか俺!?

 いやいや、負けない! 今度こそ、そんな嫌な予感になんか負けないから!

 じ、次回をお楽しみにぃ~ッ!!



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