ジル先輩の裏話
はい、こんにちは。
インキュバス族のジルケアだよ。
突然のことでビックリしたかな?
オレはめちゃくちゃ驚いた。
畑に様子を見に行ってみたら、人間の女の肉体がポンと捨ててあるんだからね。
どうやら、あのぬいぐるみ君は、新しい体を作って遊びに行っちゃったみたいだ。
そんなに遊びたいんなら、オレが楽しませてやるのにねぇ!
女の体を捨てるだなんて勿体ない!
そんなに男に言い寄られるのが嫌なのか? 令嬢っぽいのに難儀なこった!
朝食の時間に仕掛けた魔力同調のデータを見るに⋯⋯、今のトレンドはサソリ娘?
あー、ルゥケットか。アイツは⋯⋯、まあ人間が遊ぶなら、ギリギリセーフってところだろうな。
昨日のおいかけっこも、なんだかんだで生き延びてたし。ぬいぐるみ君の魔法技術なら、なんだかんだで上手くやるだろう、たぶん。
でもアイツ、半人半蠍とのデートはかなり体力がいるって知ってんのかな?
半蠍族には、毒を飲ませてフラフラになってるところを可愛がりたいって本能があるから、主導権とられるとヤバいんだよね。
好感度を稼ごうとして、相手の好みにばっか沿ってると、自分が楽しめないままにデート終了~なんてこともある。
まあ、世の中には、毒を飲まされて弱ったところを好き勝手されるのが大好きだって連中もゴロゴロいるけどね。
オレがサソリ娘を口説くなら、毒入りのリップクリームと毒耐性のアクセサリーは絶対に用意しとくかな。
オレはインキュバスだから、告白成功したならキスもやっておきたいし。
主導権を握れるように、相手に飲ませる毒薬を持っていくのも欠かさない。
一緒に町中を歩いたり、ご飯を食べたりするだけの日常共有系のデートは、インキュバスらしく全部後回しだ。
ぬいぐるみ君も、ガンガンに攻めていきたいタイプに見えるんだけど⋯⋯。
サソリ娘の生態くらいは、ちゃんと調べてからアプローチしに行ったんだよね?
してなかったら笑ってやろう。
ところで、この庭に落ちてる体。
あまりにも無防備なんだけど、ぬいぐるみ君ってもしかして平和ボケしてる?
この冥堂にいる悪魔、オレとルゥケットだけじゃないんだけどなぁ⋯⋯。
「エディス様からの神託で『守れ』とは言われてないから、放置してやろうかな。魔界の怖さなんてのは、体験しないとわからないだろうし」
オレは地面に落ちている令嬢の体をそのままにして、冥堂の中へと戻っていった。
魔王軍との合同作戦で出払っている僧兵たちも、そろそろ戻ってくる頃だ。
ぬいぐるみ君の肉体は、事件の被害者になるまで、のんびりと畑でお昼寝してればいい。
「そもそも、ルゥケットに手ぇ出したのが、事件になってなければの話だけどな!」
オレは唇に笑みを浮かべて、自室へ入る。
昼飯も今日は要らねぇな。魔界は環境魔力が濃いから、皮膚呼吸だけでも生きていけるのが楽で良い。
混血で魔力が薄いって普段は馬鹿にされるけど、燃費の良さだって武器だよな。
「さぁて。それじゃあ、しばらくゆっくりさせてもらうかね」
オレは読みかけの本を手に取って、パラパラとページを捲り始めた。




