表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/70

愛に溺れる


 触れ合っていた唇が、離れる。

 サソリ娘のルゥケットが、ぎゅっと俺の手を握り、甘く蕩けた声で呼ぶ。


「ユウジさん⋯⋯♡」

「うん。なぁに?」

「私⋯⋯、もっと、ワガママ言っても、良いですか⋯⋯?」

「ああ、いいぜ。何がしたい?」

「その⋯⋯、えっと⋯⋯。く、口にするだけじゃなくて⋯⋯、他のところにも、いっぱいキスして欲しいです⋯⋯♡」


 可愛らしく恥じらいながら、ルゥケットちゃんの目が俺を見つめる。

 魅了魔法でタガが外れてしまった彼女からのおねだりの言葉は、あまりにも熱く、俺の心にも火が着きそうだ。

 俺はインキュバスらしく余裕ぶった笑みを浮かべて、要求に頷きを返す。


「ふふ。いいね。どこにキスして欲しい?」

「その⋯⋯尻尾の、毒針に⋯⋯♡」


 ルゥケットちゃんがサソリの尾を動かして、自分の肩に先端を乗せる。

 ぎらりと鋭く輝く針は、綺麗に磨き上げられて、まるでショーケースの宝石だ。


「ルゥケットちゃんの毒針は、人間が舐めても問題無いの?」

「はい、大丈夫です♡ お風呂にはさっき入ったばっかりですし、毒も出ないようにしておきますから♡」

「そっか。それじゃあ、安全だ」

「毒に関しては安心ですけど、尖ってるから肌を引っかけないように注意してくださいね♡」


 サソリの尻尾がゆっくりと俺の口元に近づいてくる。

 近くで見ると、ますます綺麗だ。おねだりなんかされてなくても、十分にキスしてやりたくなる。

 俺はそっと顔を寄せ、彼女の針に唇を落とした。


「あぁ、嬉しい⋯⋯♡ 私の、私の毒針に⋯⋯♡ ユウジさんがキスしてくれてる⋯⋯♡」


 ルゥケットちゃんが、ぎゅっと俺の手を握る力を強める。

 愛しさで抱き締めるかのように、彼女は俺の後頭部へともう片方の手を伸ばし、優しく頭を撫で始めた。


「ねえ、ユウジさん⋯⋯♡ 私の毒を、飲んでみませんか⋯⋯? 

 半人半蠍(デミストーカー)のカップルは、弱めた毒を飲ませ合って絆を深めるものなんです。

 ちょっとだけ舌が痺れちゃうけど⋯⋯。ユウジさんに、私の全てを受け入れてもらいたくって⋯⋯♡」


 おねがい、と甘えた声が俺に囁く。

 断る理由はどこにも無い。

 飲める程度まで毒を薄めてくれるなら、危険性もたぶん無いだろうし。

 もしも万が一、アレルギーとかでヤバそうならば、憑依解除と霊魂修繕でフォローは可能だ。なんてったってエルシーの魔法は凄いから。

 俺はルゥケットちゃんからのリクエストを受諾する。


「ん。いいぜ、飲ませてくれよ」


 サソリ娘の毒を飲むために、俺の唇が開く。

 ルゥケットちゃんの瞳が、とても嬉しそうに笑った。

 彼女はそっと尾を動かして、針の先端が舌の真上に来るように位置を調整する。


「それじゃあ、毒液を落としますね♡ ユウジさん、たっぷり味わってください♡」


 サソリの毒針から、じわりと液体が滲み出し、透明な雫が少しずつ大きくなっていく。

 スポイトでほんの一滴だけ落とすかのように、毒の雫がポタリと俺の口内へ垂れた。

 しゅわしゅわと弾けるソーダにとてもよく似た感触。味も香りもまるで無い。炭酸じみた刺激がなければ、ただの水だと誤解しそうだ。

 俺は唇を閉じて、唾液と一緒に毒を飲み込んだ。


「⋯⋯これで、合ってるか⋯⋯?」

「はい⋯⋯♡ でも⋯⋯、まだ、もっと、私の毒を飲んで、飲んで、飲み尽くして欲しいです⋯⋯♡」

「あはは。わかった。どんとこい」

「えへへ、嬉しい♡ それじゃあ、ユウジさん。毒を飲ませやすくするために、針の形を少し変えますね♡」


 そう言うと、ルゥケットちゃんは目を閉じて「むむむ⋯⋯!」と意識を集中し始めた。

 針の先端が丸く広がり、直径が親指くらいの太さに変わる。

 例えるならば、ハムスター用の給水器の吐水口(パイプ)だ。

 硬いチューブに似た形状へと変化した針の先端が、俺の唇に当てられる。


「ユウジさん♡ 私の毒と愛情のスープ、残さず飲み干してくださいね♡」


 ルゥケットちゃんが、愛らしくはにかむ。

 俺は毒針の先端を咥えて、少しずつ、彼女の毒を飲み始めた。

 コップ一杯分ほど飲んで、息継ぎのために口を離す。


「⋯⋯ユウジさん? どうしたんですか? もしかして、もうお腹いっぱいですか?」

「いや、別にそういうわけじゃ⋯⋯」

「ああ、良かったぁ♡ まだまだ沢山ありますからね、どんどん飲んじゃってください♡ ほら、飲んで、早く早く♡」


 俺の頭に添えられていたルゥケットちゃんの手が、がっちりと逃げ道を塞ぐ。

 彼女はそのまま強引に毒針を俺の口へと押し込んで、薄めた毒液を注ぎ込んだ。

 ⋯⋯いや、待って。もしかしてコレ、マズいやつ?

 ノルマの量がやたらと多くて、ワンチャンあの世とか見えちゃうタイプ?

 俺の背筋に冷や汗が流れる。

 ルゥケットちゃんの目は、曇りきった眼と言っても過言では無いほど、正気というものを感じない。

 俺は慌てて、魅了魔法を強めながら命令の上書きを試みた。


「ストップ! ストップ、ルゥケットちゃん!」

「なんですか? 愛の言葉ですか? 私も大好きです、ユウジさん♡ 私の毒をたくさん飲んで、体の内側も外側も私の愛で満たされてください♡」

「だから、待っ──ガボァ! ゴバゴボボ!!」


 俺が喋ろうとした瞬間に、サソリの毒液が口の中へとぶちまけられる。

 反射的に俺の体が液体を吐き出そうとして、口の回りがびしゃびしゃに濡れた。

 マジかよ。魅了魔法で操っているはずなのに、彼女はまるで思い通りには動かない。

 ルゥケットちゃんは、俺の意思などお構いなしに、更に毒を飲ませようとする。


「あれれ? どうしたんですか? ああ、もしかして。これ以上飲んだら、別のところから出ちゃいそうですか?

 うふふ、良いですよ、出しちゃって。私の毒を受け入れてもらったんだから、貴方の毒もちゃあんと受け入れてあげます♡

 だから、存分に飲んで♡ 私の毒でいっぱいになって♡ 好きなんだから余裕ですよね、ユウジさん♡」


 ルゥケットちゃんは一人で勝手に疑問を抱き、勝手な邪推で答えを出して、見当違いなフォローを喋り続ける。

 俺のことなど、まともに見ている気がしない!

 マジでマズい! また毒液が俺の喉を目掛けて噴射されている。呼吸を乱されまくるから、まともに魔法が詠唱できない!


 これは⋯⋯、これは、どうしたらいいんだっ!?

 俺はやっぱり失敗してしまう運命なのか!?

 うぉぉおおー! ここで諦めたくねぇー!!

 またゴーレムを自壊させて仕切り直しとか、逃げ回ってるみたいで格好悪いし!

 なんとしてでも主導権を握り返して、楽しくイチャイチャできてたあの頃に戻りてぇー!!

 ガボガボとサソリ娘の毒製スープに溺れそうになりながら、俺はなんとか考えた。

 ⋯⋯ダメだ! 何も思いつかねぇ!

 こうなってしまったら、腹を括って正面突破!!

 マジで毒液が尽きるまで、ひたすら飲み続けるしかねぇ!!

 成功のビジョンがまるで見えてこねーけど! 頑張れ俺! 来てくれ救助!!


 苦難に耐える俺の右手が自然と拳を握ろうとして、繋がれていたルゥケットちゃんの手をきつく握り締める。

 ルゥケットちゃんは、くすりと笑って、俺の手を強く握り返した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ