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色香は有意


 俺の指先が、ルゥケットの手を絡め取る。

 恋人繋ぎでもするかのように、がっちりと。

 彼女は俺の目を見つめたまま、小さく肩を震わせて、戸惑うように鋏の先をはくはくと開いたり閉じたりしていた。


「だ、だめ⋯⋯。わたし、だめなのに⋯⋯、だめなのにぃ⋯⋯っ!」

「ああ、わかるよ。ダメだってわかってるのに、気持ちが抑えられないんだ。この一線を越えたらどうなるか、探究心だって湧いてくる。

 俺への気持ち以外には、魅力的なもの、無いもんな? どれも見慣れて食べ飽きたものばっかりで、刺激も新鮮味も足りない。

 それはとても自然なことだ。だから、気持ちが抑えられない。他のことなんて、どうでもいい。興味も湧かない。俺のことだけが重要で、俺のことだけしか考えられない⋯⋯」

「そう⋯⋯、そうなの⋯⋯! 私は、そうなの⋯⋯! 貴方だけが、貴方だけが、私の頭をいっぱいにしてて⋯⋯!」


 ルゥケットの瞳が、とろりと熱の色を浮かべる。

 彼女の現状は俺の魔法によってもたらされているものだったが、俺は敢えて着目すべき段階をズラす。

 俺への好意は異常だが、それによる苦しみは正常な反応。だから、その自然な感覚のほうに共感し、正しいことを言っている〝仲間〟だと相手に誤認させる。

 誤認させながら、細かい部分の言語化に毒のある曲解を盛り込んで、優しさに見せかけた誘導を彼女の心に染み込ませていく。

 素直で、他人の嘘を信じ込みやすいルゥケットにはよく効くだろう。


「俺への気持ちが抑えきれないのは、自然なことだ。だから、無理する必要は無い。自分の心の赴くままに、声に出して、吐き出してごらん?」

「わ、私⋯⋯。私は⋯⋯、ユウジさんの、ことが⋯⋯。ユウジさんのことが、好き⋯⋯♡」


 ルゥケットの唇が、囁くように小さな声で、自身の感情を表出する。

 彼女の尻尾はすっかりと地に伏せ、指先をモジモジと擦り合わせている姿はまさしく、恋に恥じらう乙女のそれだ。

 メロメロに蕩けた瞳は愛らしく潤み、控えめに俺を見つめてくる。


「俺もルゥケットちゃんのことが好きだよ」

「好き⋯⋯、好き、好きっ♡ ユウジさんが、好き♡ 好きですぅ⋯⋯♡」

「あはは、嬉しい。両想いだね」


 俺はにっこりと笑ってみせた。

 どうよ? これは、どこから見ても完璧でイケメンなインキュバスらしい振る舞いだろう。

 自分に酔ってる自覚はあるが、何とも言えない心地良さが俺のハートを熱くする。

 

「ルゥケットちゃん、俺とデートしちゃおっか? したいことあるなら、何でも言って。我慢なんて、しなくていいから」

「本当に、いいんですかぁ⋯⋯?」

「いいよ。俺に出来ることなら、何だって叶えてあげちゃうからさ」


 イケメンらしく、パチンとウインク。

 ルゥケットちゃんは、モジモジと少し恥ずかしそうに俯きながらも、大好きな俺とやりたいことを口にした。


「だったらぁ⋯⋯、私とキスしてください♡」

「えっ!」


 マジで!? 一発目から、もうそれ行っちゃう!?

 いや俺は確かに、ダルい会話とか抜きで楽してイチャイチャしたいって思ってたけども!

 ⋯⋯ああ、いや! 違う、そうじゃない!

 今の俺は史上最強にイケメンな完全無欠のインキュバス! 驚くなんてBADリアクションはノーセンキューだ!!

 イケメンらしく、イケてる感じで! インキュバスらしく行ってやろう!!


「あー、キスね。うん。もちろん、いいよ」

「嬉しい⋯⋯♡ それじゃあ、私の鋏の上に座って⋯⋯?」


 ルゥケットちゃんが可愛い声で甘えてくる。

 頼まれた通りにサソリの鋏に腰掛けると、彼女はそのまま触肢を上げて、俺との距離を更に近づけた。

 まるでお姫様だっこでもされてるかのような体勢だ。

 ルゥケットちゃんは愛らしく頬を染めながら、俺の手をしっかりと握り直す。

 ワルツでも踊り出しそうなほどに俺の体を引き寄せて、彼女の声がとろみを増した。


「えへへ。だぁいすきですよ、ユウジさん♡」


 そっと唇が近づけられる。

 これって、アレだよな、アレでいいよな?

 インキュバスらしく俺がリードして、思いきり行っちゃって良いやつだよな!

 ⋯⋯え? いま良い雰囲気なんだからギャグみたいなこと言うな?

 オタクくんの声こそ、ラブコメのシーンに挟まって来ないでくれたまえよ!

 ほらほら! これはラブコメじゃなくて洗脳暴行だろとか、そういうツッコミも自粛して!

 いま良いとこなんだってのは共通認識のはずだろ!!

 とにかく、やるから! ルゥケットちゃんとキスしてくるから、オタクくんは黙って見てて!!

 俺は脳内のイマジナリーフレンドを追い払い、ルゥケットちゃんへと目を向けた。

 ゆっくりと、着地点を見極めながら自分の顔を近づけていく。

 やがて、俺の口元に、柔らかな感触が触れた。


「ん⋯⋯、」


 ルゥケットちゃんの吐息を感じる。

 ああ、本当に、インキュバスってすっごいな。

 俺が望めば、たぶん、もっと先のステップだって楽しめるんだ。

 そう考えると、無理やり俺をこの世界へと連れてきた神様に感謝したくなってきてしまう。

 魔法で女を好き勝手するとか、どう考えても悪徳なのにな。


 ⋯⋯これを見ているオタクくんは、くれぐれも俺に憧れちゃったり、現実世界で真似をしようとしたりだなんて、考えないままでいてくれよ。

 俺は良いけど、お前はダメ。

 だって俺はこの応報で命が無くなっても構わないけど、お前が消されちまうのは、俺としては悲しいからさ。

 オタクくんは、じっと座って、指でも咥えて、そこで見続けててくれよ!



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