黒馬の荷馬車
ガラガラと馬車の車輪が回る音がする。
引かれているのはオンボロの荷台だ。粗末で小さな木製の箱。幌も無ければクッションも無い。
砂利の上でも走っているのか、不快なほどによく揺れた。
俺はその振動で目を覚ます。
辺りは夕暮れに染まっていて、どこかからカラスの声が聞こえた。
馬車道の左右は森のようだ。針葉樹が延々と後ろに流れていく。
荷台で仰向けに転がったまま、俺は直前の記憶を辿った。
「⋯⋯海で、クラーケンっぽい魔物と戦って⋯⋯」
溺れて、意識が無くなった。
浜辺に流れ着いた後、誰かが医者にでも見せるため、荷馬車に乗せてくれたのだろうか?
俺は体を起こそうとしてみる。
体調は健康そのものだ。些細な筋肉痛ですら無い。
服装は海に飛び込んだ時のまま。簡素な水着もナップサックだ。
潮の名残で髪が軋むとか、肌がべたついてるとかも無い。
なんだか妙だな、と思うより先に、御者の見た目で息を呑んだ。
「デュラハン⋯⋯!」
それは、頭部の無い人外。黒い鎧のアンデッド。
切り落とされている首の断面からは、魔力の煙が立ち上り。馬車を引く馬の首もまた、すっぱりと切り落とされている。
彼、彼女、どちらなのかはわからないが、首無しの騎士の傍らに、小さな金髪の波が見えた。
子供の頭部。騎士の体には合いそうもないサイズの生首。
舌ったらずな少女の声が御者台の上から聞こえてくる。
「ねえ、ダディ? 今日の晩ごはんは、なぁに?」
「⋯⋯⋯⋯」
ダディと呼ばれたのは、恐らくデュラハンなのだろう。首の煙が微かに揺れるが、音声による返答は無い。
少女の声は、気にせず会話を続けていた。
「お椀にいっぱいのチリコンカーン! とっても素敵! リズ、ダディが作ってくれるご飯の中で、チリコンカーンが一番大好き!」
「⋯⋯⋯⋯」
少女、リズの明るい声に、デュラハンが優しい手つきで頭を撫でる。
どう見て、も父親と娘のほのぼのとした空気感だ。
なんとなく割り込みづらくって、話し掛けるタイミングを見失う。
うーん、どうしよう。ハーレムにスカウト出来るかどうかの採点でもしながら様子を見守るか⋯⋯。
結論から言うと、デュラハンのダディも、生首少女のリズも、採用基準を満たしていない。
人外なのは好感触だが、相手は成人男性とガキンチョ。
あくまでもカワイコちゃん好きの俺にとっては、なんかこう、「惜しい! もう一声!」って感じだ。
実はこのデュラハンが男装の女騎士だったら、アリアリのアリなんだけどなぁ~!
⋯⋯はい、何でしょう、オタクくん?
エルシーのゴーレム技術で、生首ちゃんに大人の体を作ってあげれば良いんじゃないか、だって?
それは実に良い質問だ。目の付け所が流石だね!
せっかくだから、見た目はバリバリの人外娘デザインにしようぜ!
素材もスポンジケーキとか混ぜてさ、クリームとフルーツで飾ったゴーレムとか可愛くない?
腕を食べさせてもらった後に、再生魔法で無限にケーキが生えてきたら凄いよな。
衛生面とかは魔法でどうとでもなるし、なんなら腕を六本生やしちゃってもいい。
切り分けたケーキのピース入れ換えて、カラフルなホールケーキを作るみたいな感じで、腕の色と味が全部違うとか⋯⋯。
⋯⋯え? 他人の魂で遊び倒すな?
発想の発端はオタクくんじゃーん。ちょっと応用を効かせたらダメって、何なんだよー。
俺がしてたのなんて、料理の話題から「そういや包丁って頑張れば人間も捌けるよね」って言ったようなモンじゃん。
⋯⋯いや、そんな返答されたらキモいな。
ゴメン、オタクくん。俺が悪かった。
そんな脳内会議を踊らせているうちに、馬車は森の中に聳え立つ塔の前へと辿り着いた。
空を二分する境界線であるかのように巨大な塔だ。
赤茶色の魔法石を積み上げて作られた壁に、アイビーっぽい蔦がびっしりと這っている。
御者台から降りたデュラハンが、少女の生首を丁寧に抱え上げて、俺のほうを見た。
「あら。ちょうど目が覚めたのね。おはよう、ネクロマンサーさん」
生首少女がにっこりと笑う。
「いきなりで悪いけど、リズとダディのマスターが貴女に興味を持ってるの。首だけで献上されたくなかったら、おとなしくリズたちについてきて?」
ソシャゲのイベントが終了したため、創作にまた力を入れます。
(書き貯めていた話がいくつかあったので、想定していたよりも連載に穴が空きませんでした)




